表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
彷徨う香炉  作者: 髙津 央


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/61

23.報告

 翌日、昼過ぎに中間報告書を持って養父邸を訪れた。

 生憎(あいにく)養父(やぶ)氏は医院へ出ていて留守だったが、女中が預かってくれた。


 ……さて、次はどこをどう調べようか。


 歩きながら考えていたところ、肩を掴まれた。

 先程の女中が、走って追いかけてきたのだ。息切れが治まるのを待って聞くと、ご隠居がお呼びだと言う。

 女中と共に引き返し、ご隠居の部屋へ通された。


 ご隠居は、背筋をぴんと伸ばして端坐し、待っていた。

 女中が茶を置いて去り、足音が充分、離れるのを待って、口を開く。

 「多忙のところ、申し訳ない。だが、貴殿(きでん)をたばかり続けるのも、如何(いかが)なものかと思い、呼び戻した次第」

 「いえ、お構いなく。私をたばかる……とは……」


 「香炉の件だ」

 「はい、鋭意、捜索中です」


 老人は茶で口を湿し、膝を乗り出した。

 「その香炉が、夜歩くなどと、愚息(ぐそく)が申したであろう」

 「はい、だんだん、書斎の戸に近付いて来る、とお伺いしました」

 「あれは嘘だ」

 「嘘ですか?」


 老人は厳しい顔で、重々しく顎を引いた。宍粟(しそう)探偵の目をひたと見据え、吐露する。

 「すまぬ。あれは(わし)の仕業だ」


 夜、養父(やぶ)氏が寝た頃合いを見計らい、書斎へ入って香炉を動かしていた。

 息子が骨董に(うつつ)を抜かすのを止めさせる為、(いわ)く付きに見せたかったのだ、と言う。

 「お顔を上げて下さい」

 宍粟(しそう)探偵が土下座を止めさせる。


 ……では、あの魔法使い双魚(そうぎょ)は、嘘を()いていたのか。何の為に……


 いや、ここではなく、盗人の手に渡った後、雑妖が憑いたとも考えられる。

 元の持ち主の所でも、買取った氷ノ山(ひょうのせん)でも、特に怪異はなかったと言っていた。


 ここでも、ご隠居が動かしていたなら、香炉は自ら荷物に紛れたのではなく、人の手で持ち去られたと見て、間違いない。


 「その件は、他言(たごん)致しません。私は、人の手によるものとして調査をしておりますので、ご安心下さい」

 「そうか。斯様(かよう)なことになり、貴殿を邪魔立(じゃまだ)てする気は毛頭なかった。この通りだ」

 再び土下座する老人を止め、宍粟(しそう)探偵は問うた。


 「ところで最近、この辺りで子供が何人か在って、みんな寝込んで、長男が亡くなった家……と言うのをお耳に入れたことはありませんか? 香炉がなくなった後の話です」

 「いや、聞かんな。家ではなるべく医院の話をさせんようにしておるので、息子らに直接、聞いて下さらんか」

 「左様(さよう)で」


 更に重ねて、最近、使用人の増減があったかも聞く。

 養父邸(やぶてい)では、彼が隠居する以前から、仕える者しか居ない。それも、親子二代に(わた)って、長く忠義に仕える者ばかりだと言う。

 「それではまた、後程……」

 夕刻に再訪する約束をし、養父邸(やぶてい)を出た。


 フィオーレで焼き菓子を求め、料亭六花(りょうていむつのはな)海上(うみがみ)氏宅へ向かう。

 途中、また(なだ)記者に捕まった。

 「どちらまで?」

 「海上さんの所ですよ。ご主人が亡くなったそうですから、知り合いとして、線香を上げに行くんです」

 「お供して(よろ)しいですか?」

 「黙ってて下さるんなら……」

 「勿論(もちろん)です。今までも、俺、余計な差し出口を挟んだりしなかったでしょう」


 宍粟(しそう)探偵はすっかり諦め、木枯らしに背を押されて道を急いだ。

 店舗の裏へ回り、海上氏宅の玄関で声を掛ける。ややあって、女中が出てきた。用件を告げると、奥様を呼んでまいります、と玄関先で待たされた。

 風は()けられるが、陰になって寒い。小刻みに足踏みしながら待つ。


 ようよう待たされ、手指がかじかむ頃、やっと中へ通された。

 「お待たせ致しまして、恐れ入ります。店の仕込み中だったものですから……」

 「いえ、こちらこそ急にお邪魔いたしまして……この近くに来ましたら、ご主人が亡くなられたと小耳に挟みまして、お線香の一本をと……」

 「これはこれは、ありがとうございます。宍粟(しそう)さんに覚えていただいて、主人も草葉の陰で喜んでおります」

 女将は、宍粟(しそう)訃報(ふほう)を知らせたのは彼だと承知したのか、灘記者に目礼した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ