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彷徨う香炉  作者: 髙津 央


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17/61

17.社長

 「実はですね、今、失せ物探しを一件、引受けているのですが、それはどうも、魔物が一枚噛んでいるようなのです」

 宍粟(しそう)探偵は、殊更(ことさら)に声を潜めて語った。

 日高社長も、座卓に身を乗り出し、話に聞き入る。


 「私は見鬼(けんき)でもなければ、魔術の心得もございません。ですが、一度引き受けたからには、きちんとしたいのですよ」

 「結構なお心掛けですな」

 「それでですね、こちらでは、魔術の心得のない者にも扱える、魔法の品を取り寄せていただける、と小耳に挟んだのですが……」

 宍粟(しそう)探偵は、なるべく不安げな調子で聞いた。


 その質問に、日高社長が喜色満面(きしょくまんめん)で答える。

 「いゃあ、お耳が(さと)い。流石、探偵さんと言ったところでしょうか。チヌカルクル・ノチウ大陸から取り寄せた品を多数、取り揃えてございますよ。専門店への(おろし)が中心ですが、小売も致しております。どう言った品が、ご要り用でしょう?」


 宍粟(しそう)探偵は、不安げな声音を崩さず、小声で聞いた。

 「魔物から身を守る品がありましたら、大いに心強いのですが……」

 「それでしたら、まだ在庫がございますので、すぐお渡しできます」

 日高社長が腰を浮かせかける。


 宍粟(しそう)探偵は、声を潜めて引き留めた。

 「あの……魔法の品は、大変に高価だと聞き(およ)んでおるのですが、参考までに……」

 「呪符は場所を取りませんのでね、在庫と型録(カタログ)をご用意致しております」


 社長が卓鈴を鳴らすと、受付嬢が入って来た。社長の指示で一礼し、すぐに退がる。

 「型録は、たくさんございますので、どうぞお持ち帰り下さい。探偵さんでしたら、その内、守護符以外の品も要り用になりましょうから」

 「なるべくなら、魔物絡みの事件は、ご免(こうむ)りたいのですがね」

 互いに曖昧な笑みを浮かべ、相手の腹を探る。


 受付から探偵と聞いて、社長直々に応対したのは、訴訟のどちらかの陣営が、正面から乗り込んできたと思ったからではないか。


 程なく、薄手の帳面程の型録(カタログ)が届けられた。

 社長がパラパラと(ページ)を繰り、当該商品の項目を指す。


 呪符の名称と写真、効能の簡単な説明文、販売単位、単価が記されていた。かなりの経費が掛かっている。相当な力の入れ具合だ。

 宍粟(しそう)探偵が、その値段に本気で呻吟(しんぎん)し、型録(カタログ)から顔を上げる。社長の期待に満ちた眼差しがあった。


 「一応、覚悟はしておりましたが……聞きしに勝る……しかし、あれに対抗するには……あの、経理の者と相談致したく思いますので、一度、型録(カタログ)を持ち帰らせていただいて、(よろ)しいでしょうか?」

 「どうぞどうぞ。型録(カタログ)はご自由にお持ち下さい。呪符を常備しておりますのは、恐らく、この辺りでは、手前共(てまえども)のみと存じます。お決まりになりましたら、いつなと、お声掛け下さい」


 社長に愛想良く送り出され、帰途に()く。


 今日の(なだ)記者は、厚かましくも事務所までついて来た。

 ドアノブに掛けた手を止め、宍粟(しそう)探偵が聞く。

 「会社へ戻らなくていいんですか?」

 「手ぶらじゃ帰れませんよ。その型録(カタログ)、用が済んだらいただけませんか? 将来の資料として」

 「構いませんが、失せ物がみつかって、全て解決してからですよ」

 「ありがとうございます」

 灘記者は、小躍りせんばかりに喜んだ。


 事務所の戸を開けると、いつも通り、書生の有年(うね)青年が簡潔に報告した。

 「手紙一通」

 同じくらいの年頃だが、有年青年と灘記者は、好対照だ。


 ……足して二で割れば、丁度いい按配(あんばい)なんだがなぁ。


 内心ぼやきながら、手紙を受け取り、二人を引きあわせた。

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地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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