表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/61

10.手配

 続いて南隣りの水戸区(みなとく)へ足を運ぶ。

 (みなと)第二警察署でも、遺失物の窓口で同様の問合せをした。係官は乗り気ではなかったが、暇を見て調べてくれるとは言ってくれた。


 署内の廊下や玄関脇に掲示板がある。

 管内での事件や事故の発生件数や、防犯・安全の標語、指名手配書などが、びっしりと貼り出されていた。


 圧倒的に、シロアリ盗賊団の手配書が多い。

 背恰好(せかっこう)や年齢は似通っているが、顔立ちはまちまち。入団の条件が、同年代で身長・体格が同じであることなのか。

 手配書は、男女ほぼ同数。男は三十代半ばから四十代半ば頃、女は三十代前半とみられる。


 シロアリ盗賊団の他にもスリや強盗、詐欺師の手配書、家出人探しなどがある。見知った顔は、ひとつもなかった。


 「なんだ。ヘボ探偵じゃないか。心当たりでもあるのか」

 掲示板を見ていると、不意に声を掛けられた。


 「あ、これはどうも。篠山(ささやま)さん、お久し振りです。いえ、シロアリ盗賊団と言うのは随分、人数の多いものなんだなぁと思いまして……」

 よれよれの背広姿の篠山刑事は、鼻を鳴らした。

 「首魁(しゅかい)は不明。人数も、犯行の正確な件数すらわからん。使用人が一人減った後、初めてそれと知れるんだが、つい出来心でやらかしたもんが、シロアリ盗賊団に数えられることもあれば、盗賊団の仕業(しわざ)が、出来心と看做(みな)されることもあろうからな」

 「はぁ、そういうもんなんですか……」


 篠山(ささやま)刑事は今、シロアリ盗賊団の担当だと言う。


 犯行後、すぐに遠方へ逃げているのか。

 使用人が減った時期と、金品を失った時期が一致する件について、口入(くちい)れ屋の書類などを基に追跡する。

 身元引受先は「実家」で、帝都やその近在にある下町の長屋。捜査の手が伸びる頃には、既にもぬけの殻か、別の家族が入居していた。


 「泥棒が、書類にわざわざ本当の実家を書きますかね?」

 「まぁな。口入れ屋が、雇い入れの時に身元照会の手紙を出しても、必ずきちんとした返事がある。返事をする係も居るのだろうな。筆跡はバラバラだ」

 「誰かに頼んで書いてもらってるんでしょうね」


 「筆耕(ひっこう)なら商売だ。いちいち仲間に引き入れる必要もないからな」

 「篠山(ささやま)さんも大変ですねぇ」

 篠山刑事は、宍粟(しそう)探偵の同情に口許を歪めた。

 「何を嗅ぎ回ってるか知らんが、シロアリの手掛かりが見つかったら、必ず教えろよ」

 「心得てます」


 宍粟(しそう)探偵は軽く手を振り、警察署を後にした。

 その足で千代草区(ちよぐさく)水戸区(みなとく)淡谷区(あわやく)雲教区(うんきょうく)の警察署を順繰(じゅんぐ)りに回り、千代草区へ戻った。


 道々、シロアリ盗賊団について考える。

 もしかすると、養父(やぶ)氏の香炉の件も、(ちまた)を騒がす盗賊団の仕業かもしれない。

 シロアリ盗賊団の事件は、宍粟(しそう)探偵も新聞で経過を追っている。


 記事の切抜きや噂話の記録用に、別の綴りを用意してまで、微細な情報まで蓄積していながら、最近、使用人の増減がなかったかなど、依頼人に基本的な質問をするのを失念していた。

 骨董の香炉が歩くと言われ、動揺したせいだなどと、言い訳にもならない。


 おひさん新聞の(なだ)記者と、(みなと)第二警察署の篠山(ささやま)刑事。

 顔見知りが、二人も事件を追っている。

 警察の旦那はなかなかどうして、口が堅い。先手を打って、こちらを利用するつもりであると宣言されてしまった。


 灘記者の方は、巧くすれば、葺合(ふきあい)記者がまだ、記事化していない情報を聞きだせるかもしれない。

 担当は違うが、灘記者は俄然(がぜん)、張り切っている。

 こちらも、そう簡単にスクープを漏らすとは思えないが、取引次第では、警察よりも何とかなりそうな分、一考(いっこう)(あたい)する。

 口入(くちい)れ屋=現代で言う派遣会社のような業者。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ