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1人目を引く少年に気がついた。

金髪のサラリとした綺麗な髪を後ろで無造作に束ね、大理石の様な白い肌に、碧く大きな瞳、1団の中にいても少し背も低く華奢で、一見すると少女では無いかと思うほど美しい。

視線に気がついたのか目が合ったのだが、警戒している様子が小動物の様で、リシャールは興味本位で手招きしてみた。

するとその少年はサッとフィリップの影に隠れる。


「ふぅん」


そう言うとリシャールはニヤニヤしながら椅子から立ち上がる。


「リシャール。大丈夫かい?」

「足ふらついてんじゃねぇか。呑み過ぎだろ。」


少年の様子とリシャールの視線に気がついたのか、フィリップが声をかけると、ジェフロアがその少年を庇うようにリシャールの前にやってくる。


「おぅ。騎士殿の登場かよ。そこの可愛い女の子ちゃんは守んないとだなぁ。」


その言葉にフィリップとジェフロアの後ろから顔を赤くしながら少年がシャールの前に進み出る。


「女ではない。俺は男だ! 」


リシャールは背中を丸めてその少年の顔を覗き込むようにすると、震える顎に手をかけ自分の方に顔を上げさせる。


「あー。ホントだなぁ。コレ、喉仏だろ? わりぃなぁ。ちっせぇから見逃しそうだけど。」


そう言うとヘラヘラと笑いながら空いた手で少年の股ぐらを掴んだ。


「よしよし。ち○こも付いてるな。」


途端に彼の体を後ろから抱きかかえるようにしてフィリップがかばい、ジェフロアがリシャールの胸ぐらを掴んだ。


「リシャール!!」


怒気を露わにしたジェフロアの言葉に周りが静まり返った瞬間、「ゴッ!!」という鈍い音とともに、リシャールはジェフロアの腕から離れ、バタリとその場に倒れた。

ポールが見たことも無い恐ろしい顔をして、リシャールを見下ろしながらボソリとつぶやく。


「やりすぎだ。バカ。悪役気取りやがって。手がかかりやがる。」


ポールは拳を痛そうにさすりながら、フィリップの前に跪く。


「・・・申し訳ございません。フィリップ殿。リシャールは虫の居所が悪く、少し悪酔いが過ぎているようで・・・、早々に退室させていただきたく存じます。」

「いえ。こちらこそ、申し訳ございません。我が姉がリシャール様の婚約者という立場でありながら、醜聞を広めてしまいまして。虫の居所が悪くなるのも致し方ない結果を招いてしまいました。」

「滅相も無い。ただの民衆の戯言だと承知しております。ペラン、連れて行くぞ。それでは先に失礼させていただきます。」


アデルがこちらに駆け寄ろうとしているのを目の端で確認しながら、ポールとペランはこなれた様子で大男を二人で抱えると迅速に会場から出ていく。

アデルがフィリップに謝っているであろう声が少しずつ小さくなっていった。




次の日、戴冠式は盛大に執り行われた。

二日酔いと青アザの双方の腫れた顔で式に参加したリシャールは、夜も連日で催された宴には参加せず、部屋でふて寝した。

招待客たちがランスをあとにする中、リシャールは自堕落に城内を徘徊しながら過ごし、ポールとジェフロアにガミガミと叱られながらも、一向に聞いた様子もなくその日も庭をブラブラとしている。

次はピュルテジュネ王の元にゆく予定なのだが、リシャールの気が乗らないようだった。


「先日はそのー。悪かったな。ちょっと悪酔いしちまって。」


リシャールは、ジェフロア、それにフィリップ、そして先日彼が絡んでしまった少年に出会い、バツが悪そうに話しかけた。

ジェフロアは笑いながら背を伸ばしてリシャールの肩にぶら下がるようにして肩を組む。

彼らは比較的一緒に過ごす時間が多かったせいか、他の兄弟たちよりも仲が良かった。


「リシャールも反省するんだな。」

「おぃ。ジェフ。そりゃねぇだろ。俺だって悪いと思ったら謝るくらいするぞ。」

「俺の記憶の中では、今回が初めてだな。」


リシャールはジェフロアの頭をガシリと捕え、脇に抱え込むとガシガシとかき回し、横ではフィリップがニコニコしている。


「確かにそうかもね。僕も見た覚えが無いよ。ははは。」

「っち。まぁ。良いけどよ。・・・お前も、悪かったな。」


リシャールはジェフロアを開放すると、後ろに控えていた少年に声をかける。

話しかけられた彼は、遠慮がちに会釈をした。


「彼は、クリストフと言うんだ。僕の親友だ。もちろん、ジェフロアもね。」


フィリップはそう言いながら、クリストフの肩に手をかけ自分とジェフロアの間に招き入れる。

ジェフロアが嬉しそうにクリストフの肩を抱くと、クリストフはジェフロアの髪を丁寧に直してやりながら、3人で顔を合わせクスクスと笑っている。


「ふん。お前ら楽しそうだな。まぁフィリップも王になったことだし。大変だろうが、頑張れよ。」


そう言うとリシャールはさっさと城に向かって歩き始める。

リシャールに歩みを合わせようとするジェフロアだが、足の長いリシャールは進むのが速く、少し小走りに追いかけた。


「なんだよ。リシャール。他人事みたいだな。俺は行かないけど、クリスマスは父上の所にいくんだろ? 」

「あぁ。まぁな。・・・胸糞わりぃあの女もいんのかなぁ。」


後ろからのんびりと付いて歩いてきていたフィリップが少し大きな声で答える。


「アデル姉さんはアンジェで静養しているマグリット姉さんの所に行くって言ってましたよ。マグリット姉さん、子どもを亡くして随分落ち込んでいるからって、色々準備して。つい先日に出かけましたよ。」

「・・・そっか・・・あいつらのは・・・仲いいって言うのかな? 」


リシャールは立ち止まると、フィリップに聞いているのか、独り言なのか判らない様子でボソリと言った。

フィリップは尋ねられたと判断したようで、少し首をかしげながらリシャールの顔を見上げる。


「? 仲、良さそうでしたよね・・・? 」

「はぁー。女ってのは、わかんねぇな。まぁ。うるせぇのがいねぇなら気楽でいいね。ルーアンに行きがてら狩りに行くとするかな。」

「え。リシャール。リヨンスに行くの? いいな。俺も行きたいけど・・・。今回はやめとこうかな。」

「ああ。お前ら子どもはおままごとでもしてろよ。」


しっし、と虫を払うかの様な仕草しながら再びリシャールは大股で歩き始めた。


「ははは。リシャールの酔い方見てると、大人とは思えなかったけどね。・・・怪我には気をつけて。」


その言葉を受けて、リシャールは大きな口を開けて豪快に笑いながら振り返るとフィリップを一瞥する。


「おぃおぃ。そりゃ、襲撃の予告か? はっはっは。まぁせいぜい背後から襲われないように気をつけとくよ。」

「リシャール!! なんて言い草だよ! 俺たちお前の背後なんか狙わねだろ! なに言ってんだよ! 」


ジェフロアが本気で怒った様子で怒鳴っている。

それを軽く受け流し、歩きながら振り返ることなく後ろに手を上げる。


「あぁ。そうだな。わりぃな。・・・じゃ、ジェフも元気でな。」


次の日の朝、リシャールはフィリップ王に挨拶をすると、ルーアンからリヨンスへと向かった。




リヨンスとは「LYONS LA FORET」で、その森の中に街があるそうです。日本ではちょっと想像つかないので、行ってみたい場所のひとつです。


伏せ字に修正(2023.05.30.)

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