第37話 トラ転王子、画策する(10)
「この二人はそう言っているけれど、ユリウス?」
オレを振り返り、問いかけるアルテ姉さま。その顔には『言っちゃっていいわよ』とでかでかと書かれて、はいないが、見え見えだ。
なので。
「いいえ、誘ってはいないです」
正直に笑顔で答えた。
「な、何を嘘言ってるのよ、ユリウスったら」
「本当ですっ。アルティシア様、信じてください」
二人とも必死だな。だが、許さん。
「誘うはずないじゃないですか。第一、ボクをどかそうと必死だったのは見てましたよね?」
ねぇ皆さん、と、後ろの面々に話を振る。
いくらお付きでも護衛でも、順位の高い王女の前で堂々と嘘なんてついたら自分の身が危うい。誰もが困惑して目をそらし、顔をうつむけている。
その様子を眺め、独り頷くアルテ姉さま。
いよいよ後がなくなった二人だが、
「じゃ、じゃあ、どうして扉の外に居たのよ! 私たちを迎えに出てたんでしょ!」
「そうよ、そうに決まってるわ!」
まったくこいつらときたら、口先で黒を白と言いくるめるつもりなのか。
もうあかん。救いようがない。
「カイン。あれを」
「はっ」
ため息交じりに指示を出すと、すぐに天井をいじりだしたカイン。
てか、今までどこに居たんだ。気配がなかったぞ?
護衛騎士も侍女も突然湧いて出たカインに目を丸くしている。
「主、これを」
「うん、ありがとう。アルテ姉さま」
「何かしら?」
「近頃宮廷魔術師たちが完成させた魔道具です。これに魔力を通すと・・・」
対面の壁に光が映り、それには先ほどの光景が・・・
うん、すンごいデジャブだ。
映っている光景ほど雄弁なものはないね。二人だけでなく護衛騎士、侍女共に声もなく、ただ見ていることしかできない。監視カメラ様様だ。ざまぁみろ、と言ったら言い過ぎかな。
逆にアルテ姉さまは怖いくらいの笑顔になった。
「あら、良いものができたのね。ユリウス、これ、私に預けてくれる?」
「はい、もちろんです」
「そう。これから陛下の前でもう一度確認してみるわね」
そう言った途端、周りからかすれた声や息を呑む気配が重なり、侍女のひとりは倒れたようだ。
まあ仕方がない。頑張ってくれ。
サンドラが震えた声で、
「ア、アルティシア、様。ま、まさか、冗談、ですわよ、ね?」
「なにが?」
「これを、陛下の前で、確認する、なんて」
「まあ嫌だ、そんなわけないでしょう?」
場違いなほど明るいアルテ姉さまの声に、ほっと胸をなでおろすサンドラとキャリン。
でもな、それは間違いだぞ。
「陛下だけじゃなくて、ライラ様やシェルリィ様、あ、母さまにも見てもらうわよ。当然でしょう?」
そう言って、血の気が引いた二人の顔を覗き込む。
「これからあなたたちの再教育がどれほど必要か、しっかり判断してもらうんだから!」
あはははは、流石はアルテ姉さま。
あげて落とし、安心させてとどめを刺す。
しっかり心をえぐるところはギル兄さまとそっくりだ。
読んでいただき、ありがとうございます!
監視カメラはつおいです(笑)




