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劉皇国戦記  作者: リューク
第四部 山西攻略戦
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狼族の岐路

 

帝国暦268年12月

 宗谷達が西進を始めた頃、雪の吹雪く北の蛮族の地では、宋沢が暴れていた。

 少なくとも今日までに北の有力氏族の内、女真と金の2氏族は氏族長を下し、その兵力を軍門に加えていた。

 残る氏族は、狼と突厥の2氏族なのだが、狼族がとにかく手強いのだ。

 まず氏族の規模が他の氏族に比べてかなり大きく、下した2氏族を足してもまだ狼族の方が勢力的に大きい。

 そしてその大勢力の割に個々のフットワークが軽く、度々襲撃しては離脱をする一撃離脱戦法を使ってくるのだ。

 しかも兵力が多いという事を逆手に取り、昼と夜の区別なく襲ってくるので、宋沢陣営の兵達は寝不足になっている者も少なくない状態だった。

 

 それでも宋沢もそのままやられっぱなしと言う訳では無かった。

 相手が接近してきても侵入できない様に野戦陣地を作った際に堀まで作り始め、要塞化をし始めたり、柵を飛び越えられないように高くしたり、柵の一枚裏手に土の壁を造ったりと対抗策を打ち出し、兵達が安心できる場所を作ったのだ。

 

 そして、守りだけでなく、同盟関係の氏族からの情報を元に次の襲撃地点を予想して、逆撃を加えるなどして相手の思う様に戦を進めない様に細心の注意を払っていた。


 「それで、兵達の様子はどうだ?」

 

 「はっ!最近では要塞化した甲斐もあり睡眠不足の者は減ってまいりましたが、まだ一定数寝付けない者が居ります。また寝てもすぐに悪夢にうなされて起きるなどの報告も入っています」

 

 「そうか、あまりに寝付けない者は補給班と任務を交代させて本国に帰れるように手配してやれ、ただし一気に行かず徐々に交代させろ」

 

 「はっ!かしこまりました」

 この時宋沢が出した指示は、現在でこそ精神的に弱っている者に対する対処法として知られているが、当時は全く知られていなかった画期的な方法だった。

 これによって宋沢の兵達は少なからず安心し、精神的安定を取り戻すきっかけにもなったと言われている。

 

 「兎に角、狼族の奴らをさっさと叩き潰さねば次に迎えぬ。他の氏族からの情報はまだか?」

 

 「先程偵察兵が情報を持って帰ってまいりました。どうやら今度は森に向かうそうです」

 

 「森?どこの森だ。地図に載っている場所か?」

 そう言われた部下は、宋沢が見ている地図の中で該当する場所を指さした。

 

 「芦野森か、どんな場所かわかる者は居るか?」

 宋沢が周囲を見回すと、狼の毛皮を被った男が進み出てきた。

 

 「私が存じ上げております。この森は、その名の通り葦の生えている森です。土は湿地でぬかるんでいる所が多く、足場のしっかりした場所は少ないです。かなり広範囲な森で水鳥や鹿などの狩場となっています」

 

 「なるほど、湿地か……。迂闊に入っては我らが痛手を被るな、葦の特徴は何だ?湿地に生える以外には何かあるか?」

 

 「葦は並べて結ぶと良き日よけができます。また葉や茎は良く燃える性質があります」

 

 「良く燃えるか……」

 彼の脳裏に浮かんだのは、先の海賊と劉宗谷の戦いの報告だった。

 潘氏に対して火計を用いて、ほぼ全ての敵兵を焼死させたというある種残虐な戦法である。

 

 「確か劉宗谷も火計を使ったとか、どうなさいますか?」

 そう聞いて来た部下の一言にまだ宋沢も自分の答えが出ていなかったのか、少し考え込んだものの、首を振って答えた。

 

 「火計は最終手段とする。どうも報告を聞く限り管理が難しいのと、下手を打つと我々も丸焼けになってしまう可能性が高いと思う。そんな不確かな戦法を使いたくはない」

 

 「かしこまりました。ではどの様に攻めますか?」

 

 「うむ、それについてはだな……」

 その後、宋沢と彼の家臣たちは綿密な打ち合わせを行い、狼族討伐に向かって進軍を始めるのだった。

 

 

 宋沢達が軍議を開いてから3日後、芦野森で宋沢達を待ち構えている狼族の部隊があった。

 息をひそめ、誰一人として動かずジッと前方を、宋沢軍の来る方角だけを睨みつけていた。

 

 「そろそろここを襲撃に来ると予想していたのだが、宋沢軍はこんなに行軍速度が遅かったか?」

 

 「いえ、少なくとも我らの半分くらいの速度では動けるはずです。しかし、今日来ないとなったら亀の如き速度ですな」

 部隊を指揮する2人の将が笑いながら囁き合っていると、後方から突然伝令が走り込んできた。

 

 「伝令!至急本陣に戻るべし!敵は本陣を襲撃してきた!至急戻るべし!」

 その悲鳴ともとれる報告を聞いた指揮官二人は顔を見合わせ信じられないというような表情を浮かべていた。

 それもそのはずである、これまでの宋沢軍の行軍速度では森に来るのに3日、本陣はさらに後方にあるので4~5日程度かかると予想していたのだ。

 しかも本陣に行くには道らしい道は自分たちが待ち構えている芦野森の近くを通過せねばならず、それ以外の道となると森を進むしかないのだ。

 そうなれば3日で本陣に着く事などこれまでの宋沢軍には不可能な事なのだが、現実に起こってしまっているので、指揮官たちは困惑してしまったのだ。


 「どうする?敵の規模がわからないと言っているが、このままここで待ち構えているか?」

 

 「いや、このままここに居ては敵の思う壺ではないのか?早急にここを離れて本陣を救援すべきだ」

 

 「うむ。では、全軍!先ほど本陣急襲の知らせが入った!我らはこれより転進し、本陣と我らで出来を挟撃する!」

 

 「「おぉぉ!」」

 本陣急襲の報を受けた伏兵部隊は芦野森を飛び出し、救援に向かうのであった。


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