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劉皇国戦記  作者: リューク
第三部海賊平定戦
35/78

八柳攻略戦①


 海賊の跡目争いに介入した俺たちは、兵8千を率いて潘紅の屋敷周辺で待機していた。

 なぜここで待機しているかと言うと、まずは潘紅による離間工作を行ってもらわなければならないからだ。

 工作開始から1週間ほど経ったある日、潘紅が暗い顔をして俺の幕舎にやって来た。

 

 「おや?潘紅殿、首尾はどうですかな?」

 俺が気さくに声をかけると、潘紅は首を横に振ってきた。

 

 「全くダメですね。とりあえず全有力者から手紙の返事が来ましたが、全く取り合ってもらえません。場所的に一番近い有力者からは中立宣言まで出てしまいました」

 

 「なんだ、成果はあるじゃないですか」

 俺がそう言うと、潘紅は不思議そうな顔をしてあまり理解していなかったので続けて説明した。

 

 「中立という事は少なくとも現時点で敵では無いという事です。それならこちらが優位に立てばすぐにでも靡いてくるでしょう。とりあえず、次に近い有力者で敵対意思を示している所を攻めましょう」

 俺の話を聞いた潘紅は、少し明るい表情にはなったものの、すぐに懸念すべきことを言ってきた。

 

 「しかし、中立と言って後ろから攻めて来たらどうするのですか?」

 

 「確かにその可能性は無きにしも非ずですが、敵の動きを制限するように進軍すれば良いと思いますよ。例えば、九龍から出発して中立勢力の居る所を通らない事も彼らの目論見を外す事になります。他には……」

 こちらの進軍方法はいくらでも考えられるし、相手の翻意にも対応できるようにする事ができる事を説明していった。

 

 「なるほど、確かにこれだけの選択肢があれば相手も迷うでしょうね」

 俺の説明を聞いて少しホッとしたのか、安心した表情を浮かべた潘紅は、「もう少し離間工作を頑張る」と言って出て行った。

 

 それから3日後、俺たちは第一の目標である「八柳」という都市に向かった。

 八柳は、九龍から1日程度の近距離にあり、敵対意思を宣言している所だ。

 事前の情報では、最前線という事で、4千人規模の部隊を駐留させているという情報が入っていた。

 こちらは8千なので、部隊としては相手の倍だが、櫓等の防衛設備がそれなりに作られている八柳を攻めるには若干心もとない数字と言える。

 

 「さて、八柳を攻める方法だが、出来る限り相手を引っ張り出して野戦で倒したい。そこで、作戦はこうだ。……」

 俺が作戦を伝えると、諸将からは失笑が漏れ聞こえ、林冲が代表して全員の思いを伝えてくれた。

 

 「確かに、これは相手も堪りませんな……。ぷ、くくく……」

 

 「では全軍、よろしく頼んだ。相手を引っ張り出せるように全力を尽くしてくれ」

 

 「「御意に」」

 

 そういうと、諸将はそれぞれの部隊に作戦を伝えに行った。


 

 一方の八柳城内では、城主孫静が家臣を叱咤激励し、防衛に全力を尽くすように演説をしていた。

 

 「―――であるから、ここでの防衛が必須なのだ。それにここで暫く敵を引き付ければ、必ずや潘国忠様が援軍を率いて来てくださり、敵を撃滅して下されるだろう!」

 この演説を八柳の家臣は冷ややかな目で見ていた。

 なぜなら、この籠城はあくまで国忠の腰巾着である城主の独断であって、できる事なら中立という立場に立って日和見したかった家臣の思いとは違うからである。

 それに、国忠は先日の九龍攻めで手痛い敗北を喫しているので、援軍が来るとしても一月か、二月はかかるものと思われていた。

 それだけの間を策士として名前が上がり始めている劉宗谷が手をこまねいているとは到底思えなかったのだ。

 そう言った事情もあり、城主としては是が非でも士気を上げるため、演説をしなければならなかったのだ。

 

 演説が終わって暫くすると、敵軍が動いたとの報告が八柳城内に駆け巡った。

 城壁や櫓に登って防戦体制を整えると、相手は矢の届かない位置から大声をあげ始めたのだ。

 

 「八柳の城主よ。臆病者で無かったらかかってこい」

 

 「野戦で雌雄を決しようぞ」

 と、城主に対して決戦を申し込んできたのだ。

 これに対して城主は、

 

 「その様な見え透いた手に引っかかってなるものか!我らの援軍はすぐそばに来ているのだぞ!」

 と応じ、その日は矢合わせすらせずに終わってしまった。

 

 次の日、また敵軍が矢の届かない位置にまで来たと報告が入り城主が様子を見に行くと、敵兵が今度は城主をバカにし始めたのである。

 

 「八柳の城主は臆病者だ」

 

 「八柳の兵は余程力に自信が無いのだろう」

 

 「そんな八柳の前ならしょんべんだって出来るわ」

 と目の前でしょんべんまでし始める始末である。

 その日は流石に孫静も我慢していたが、それから毎日同じことが続いたのである。

 

 4日目、ついに我慢ができなくなったのか、孫静は馬鹿にしに来た兵達に対して全軍での出撃を命じるのだった。

 これに驚いた家臣団は、孫静に自制を求めたが、堪忍袋の緒がねじ切れていた孫静には全く通じず、全軍で出撃する羽目になってしまったのだった。

 

 「よいか!敵を1人たりとて見逃すな!鏖にするのだ!」

 そういって、城主は城のほぼ全力である3千5百の軍を連れて行ってしまったのだった。

 これには家臣団も頭を抱えた。

 もし、ここで相手が4千の兵をもって攻めて来たらどうするべきかという事である。

 恐らく城主は負けるだろう。

 負けてしまった場合、その後の防衛はどう考えても援軍が来るまで耐える事など不可能になってしまう。

 だからと言って降伏してしまっては、後々劉宗谷が負けた時に言い訳ができなくなってしまう。

 この2つの板挟みに家臣団は分裂してしまったのだ。

 元から潘紅に近い家臣団と国忠に近い家臣団で別れて醜い言い争いが始まったのだ。

 

 ただ、彼らの言い争いは、この数時間後には命乞いにへと変わっていくのだった。


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