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劉皇国戦記  作者: リューク
第三部海賊平定戦
36/78

八柳攻略戦②


 八柳の城主、孫静は3千5百の兵を率いて敵兵を追跡していたが、暫く追いかけたところで見失ってしまうのだった。

 

 「おい、あいつらはどこに行ったか見つかったか?」

 

 「いえ、周辺を隈なく探しましたが全く見つかりません。それどころか敵陣があったと思われる場所ももの抜けの殻で……」

 そこまで報告の兵が言おうとすると、孫静はハッとなって周囲を警戒した。

 

 「しまった!敵の罠にまんまと嵌ってしまったぞ!急いで城に戻るのだ!」

 敵の罠に遅ればせながら気づいた孫静は、急いで来た道を戻ろうとした。

 その時、突然隊の左方向から弓矢で射掛けられたのだ。

 

 「敵襲!左手の丘の上からです!」

 報告を受けるまでもなくどこから攻撃されたか理解していた孫静は軽く舌打ちをすると、隊を敵から遠ざけようと、右方向へ移動するように指示を出すのだった。

 だが、反転しようとしていた兵達は、敵襲と別方向への方向転換の指示によって隊列を完全に乱してしまっていた。

 その隙を見つけた敵兵は、一気に魚鱗の陣を組んで兵達に迫って来たのだった。

 

 「逃がすな!奴らは隊列を乱しているぞ!一気に食い破れ!」

 そう吠えているのは、林冲将軍だった。

 戦闘で吼える彼の声は、兵達のみならず、孫静自身にも恐怖を植え付けるのに十分なものだった。

 

 「ひ、退けぇ!城まで走るのだ!」

 この孫静の声を聴いた兵達が崩れたのは言うまでもない。

 この混乱によって、林冲に打ち取られた兵は、およそ1千5百とほぼ半数にまでのぼっていた。

 対して林冲は百人に満たない損害で勝利する事ができた。

 ただ彼にとって誤算だったのは、敵が蜘蛛の子を散らしたように逃げ出したので、孫静を見失ってしまった事だろう。

見失ってしまったものは仕方が無いと切り替えた林冲は、追撃の手を緩めながら、八柳の城へと掃討戦を行いながら向かうのだった。

 

 命からがら八柳の城の近くまで逃げた孫静は、やっと落ち着きを取り戻し、兵達の合流を待つまでの余裕を持つことができた。

 ただ、この時合流した兵は、約1千人にも満たない数になっていた。

 これは、壊走中に道に迷ったり、逃散してしまった事が原因だった。

 

 「……兵はどれほど戻ってきた?」

 孫静が恐る恐る聞くと、各部隊長からの報告をまとめた兵が彼に報告した。

 

 「およそ1千ほどです」

 その数を聞いた孫静は、がっくりとうなだれ「そうか」とだけ呟いた。

 ある程度待ってみたものの、それ以上合流してくるものも居ないようなので、孫静は仕方なく城へと戻るのだが、普段なら帰った時にすぐに開く城の門が開かないのであった。

 

 「おい!儂が戻ったんだ。城の門を開けよ!」

 孫静が門の内側に居るであろう門兵に聞こえる様に叫んだ。

 すると、櫓から意外な答えが返ってきたのだ。

 

 「孫静殿、残念ながらこの城はもう既に潘紅殿の物となった。早々に立ち去るがよい」

 

 「何を馬鹿な!」

 そういって声のする方を孫静が見ると、櫓どころか、城の周りの旗が「孫」の字から「劉」の字に入れ替えられたのだった。

 

 「ご覧の通り、この城は潘紅の援護に参った劉宗谷が落とさせて頂いた。命が惜しくば逃げられよ」

 劉宗谷の姿を確認した孫静は、驚きと衝撃のあまりその場で気絶して固まってしまったのだった。

 これを見た宗谷は、ため息を吐いて、孫静が連れていた兵達に声をかけた。

 

 「諸君らの城主、孫静は気絶したようだ。君たちは大人しく降伏するのなら、鎧兜と武器をその場に捨てなさい。罪に問うような事はしない」

 その言葉を聞いた兵達は、次々と鎧兜に武器をその場に捨て、降伏するのだった。

 

 「さて、呑気に気絶している孫静を捕縛するか……」

 そう呟いた宗谷は、やれやれといった様子で周りに居る兵達に指示を出すのだった。


 

 それから数時間後の八柳城内の地下牢では、虜囚の身となった孫静が居た。

 俺としては、孫静は不必要な人材だったので逃がしてこちらの評判を高める道具にしようと考えていたのだが、捕らえてしまっては計画を変更するしかない。

 彼の入っている牢の前まで俺は出て、話しかけた。

 

 「さて、孫静殿、お目覚めの所悪いが、自分の人生について判断してくれ」

 俺がそういうと、孫静は無言のままじっと俺を睨みつけた。

 

 「1つは、このまま潘紅の元に行って彼女の裁きを受ける。もう1つは、この戦いで名誉の討ち死にをしたという事で死ぬ。最後は、自らの汚名を省みず、国忠の元に着の身着のままで逃げるだ。どれが良い?君に選ばせてあげよう」

 俺がそういって、意地の悪い笑みを浮かべたが、彼は俺の顔なんて全く見ないで、自分の人生の選択肢について真剣に考えていた。

 現状の選択肢の場合、生き残れる可能性があるのは、潘紅と国忠の所に戻る事だが、恐らく国忠の元に戻って許される可能性はほぼ無いと言って良い。

 理由としては、敗戦の責任を彼に押し付ける事で、国忠が自分の支持を回復しようとする可能性と、単純に領地分配で面倒な事になるから急な病死か事故死という扱いにしようとする可能性だ。

 

 対して潘紅の場合は、生き残れる可能性が高い。

 理由としては、単純に人手不足という事と、他の中立、敵対している相手の切り崩しをしやすくするためというものだ。

 まぁそれも特に責められる様な事をしていない奴に限られてくるだろう。

 賄賂などで何かしら私腹を肥やしている奴だったら、恐らく即日死刑執行だろう。

 

 なので、3つと言いつつ、俺は上記の2択だと考えている。

 さて、彼はどっちの結論を出すかな?


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