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三人のお姉さま方(主にルシフィーナ様にお姉さまと呼びなさいと言われました…)とのお茶会後、特に何事もなく、半月程が過ぎました。


その他の側室方は、遠巻きにこちらを伺う程度で特に、泥々の女の愛憎渦巻く後宮生活は送っておりません。むしろ、拍子抜けしたほどです。


お姉さま方はとても良くして下さいますし、後宮外に出るのも、申請さえきちんとすれば、問題なく出ることができます。


グレースさんやグレンリードさんも、ちょこちょこ様子を見に来て下さいますし…平和かつ、カッパニーニ邸にいた頃とあまり変わらない生活をしています。大きな違いといえば、お仕事をしていないので、暇、です。


暇、だったのですが…、


「ハナコ様、ヒルレイナ様より、お茶会のお誘いが来ておりますが…。」


「ヒルレイナ様?」


確か、王太后様の妹様のご息女だったような…。そうでした、王太后様の姪子様です。


「初めてのご招待ですね。殆どお見掛けしたこともありませんし、ご挨拶もまだですね。是非に、とお伝え下さい。」


何事もない、平和な後宮生活で、私の警戒がほぼ皆無となってしまっていたことに、自分でも気が付いていなかったのです。





「ようこそお越しいただきました、ハナコ様。私、ヒルレイナ.ルイニ.グリシアスと申します。」


「こちらこそ、お招き頂きありがとうございます。ハナコ.ノハラと申します。」


他に2名側室方がおられました。


ここでも、何事もなく、当たり障りのない会話をし、何杯目かのお茶をついでいただいた直後のことでした。


「うっ、うぅぅっ!」


急にヒルレイナ様が苦しみ出します。


「ヒルレイナ様!」


「ヒルレイナ様!いかがなさいました!?」


口元を抑え、ダラダラと脂汗を流しながらもガタガタと震えてるヒルレイナ様が、とうとう倒れます。


辺りが一層騒然となり、


「医者を!」


「毒だわ!!」


と言う、悲鳴のような声が飛び交う。


「皆様!そこを動かれませぬよう!失礼します、ヒルレイナ様。」


そんな中、私はそう言って、ヒルレイナ様の胸元に手をかざします。


私とヒルレイナ様を白い光が包みます。




だんだんと荒かったヒルレイナ様の呼吸が静かになり、顔に赤みが戻ります。


「もう、大丈夫だと思います。」


「なんと…」


「これは…」


騒ぎで駆けつけた医師や警備の騎士、女官達などが口々に奇異の言葉を発します。


私は何故だかいたたまれない気持ちになりつつも、ヒルレイナ様に声をかけます。


「ヒルレイナ様、あの、お体は…」


「白々しい!」


差し出した手を振り払われ、鋭い視線を向けられます。


「え…?」


「あなたがこの毒を仕込んだのでしょう!?こうやって、魔術をひけらかして、王の気を惹いているのだわ!」


…。


一瞬動揺した心が、凪いでいくのがわかります。


「…証拠は?」


「は…?」


「私が毒を仕込んだという証拠です。ヒルレイナ様。」


「しょ、証拠など!この茶葉はあなたがこの茶会の手土産にと持ってきたものでしょう!!」


ヒルレイナ様が、先程まで色をなくしてきたのが嘘のように顔を紅潮させながら叫ぶように言います。確かに、今淹れられたお茶は、私が持参したものです。ですがその茶葉は…


はぁー。


思わず私が溜め息を吐くと、


「なっ!?人に毒を飲ませておいて…」


「何の騒ぎだ。」


「王!」


「王様…。」


王様がいらっしゃいました。


「ヒルレイナ、毒を飲まされたと聞いたが、元気そうだな。」


王様が淡々と言葉を紡ぎます。


王様は普段から表情が乏しいと思っていましたが、実感しました。


普段は、物凄く表情豊かな方なのだと。


今の王様は、何やら冷気さえ漂ってきそうなほど、お顔に表情がありません。無表情の代名詞のようです。


「こ、この娘に、飲まされたのですわ!王!」


そんな風に私が王様を観察していると、ヒルレイナ様が、私を指差しそう叫びます。


「…だが、貴方は何ともないようだが?」


王様がちらっと私に視線を戻し、そして再びヒルレイナ様を見て、言います。


「そ、それは、この娘が、治癒魔法で…ですが!そもそもそれが目的!わざわざ私に毒を飲ませ、それを自らの手で治し、王の気を惹くための…」


「自作自演、か?」


王様の口角がゆっくりと上がります。しかし、目に表情はないまま。


「何処かで聞いた話だな。馬鹿馬鹿しい。」


「なっ!?ですが!この茶葉はこの娘が持ってきた…」


「何故、茶葉に毒が仕込んであったと分かる?ヒルレイナ。」


「は…?だって、私はこの紅茶を飲んで…」


「茶葉とは限らんだろう。後から紅茶自体に混入させたのかも知れぬし、カップ自体に塗ってあったのかもしれぬ。」


「ですが!!」


「そもそも…ハナコ、この茶は余がおまえに贈ったものであろう。好きだと申していたから…」


王様のお顔にここに来て、初めて表情が現れます。…呆れ顔の王様も素敵です。


「ごめんなさい、王様…。失礼かと思ったのですが、私、誰かに差し上げられる様なものを持っていなくて…。」


「それで、手づかずのこの茶葉か。先程の昼食の折りに贈ったものであるから、封は切られておらなかっただろう?」


そう、王様がお茶を淹れていたであろう侍女の方に、声をかけます。


「は、はい。」


小さな肯定の声が聞こえます。


「とにかく、毒の所在はこちらで調べる。この部屋に有るものには余の許可なくして触れることは許さぬ!」


そう言って、王様が指示を出し始める。


「ハナコ嬢、大丈夫ですか?」


「グレースさん…はい、私は何も…」


「その娘ですわ!その娘が王の気を惹くために…」


ヒルレイナ様が、侍女の方々に支えられながらも、声を荒げます。


「そもそも、ハナコは余の気を惹く必要がない。」


王様の冷たいブルースカイの瞳がヒルレイナ様に向けられる。


それとは裏腹に、優しい低い声が私に届く。


「何もせずとも、余はハナコに惹かれっぱなし故な。」


王様、




恥ずかしすぎます。

何か閑話を書きたいと思っております。リクエストなどありましたら是非お寄せくださいませ。

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