花子の決意
皆さん、こんにちは。
只今、籠城生活3日目でございます。
え?何故、何処に、籠城か、と?
自分自身を見つめ直すために、カッパニーニ邸でお借りしているお部屋で、籠城中です。
この3日間、代わる代わるやって来るグレンリードさんとグレースさん、そして、空間魔法の転移を使いまくる王様を、アイリーンさん、マリーさん、メリーシアさんに撃退してもらいながら、ゆっくり、じっくり、色々と考えてみました。
じっくり、考えてみて、グレンリードさんにお願いしてみたいことができました。
「ハナコ様、グレンリード様をお連れしました。」
アイリーンさんの声が聞こえて、ドアが開くと、ホッしたような顔のグレンリードさんが姿を現しました。
「ハナコ殿、いやはや、心配したぞ。」
そんなグレンリードさんに、私は少しだけ申し訳なくなり、
「ごめんなさい、グレンリードさん。一人で、じっくり、色々考えたくて。」
そう言うと、
「いいんじゃ、いいんじゃ。そうさせてしもうたのはわしらだからな。」
と、困ったように眉を八の字にしてしまう。
「して、何か、答えのようなものは、みつかったかの?」
いや、急かしてるわけではないのだぞ、とグレンリードさんは言います。
「色々考えた結果、」
「考えた結果?」
グレンリードさんが先を促すように、私を見ます。
「グレンリードさんにお願いがあります。」
私は、真っ直ぐにグレンリードさんを、見る。
「わしに叶えられることは何なりと。」
そう言って微笑むグレンリードさんは、いかにも好好爺。
「では、グレンリードさん、私とデートしてください!」
「は、て?」
好好爺が一転、鳩が豆鉄砲的なお顔になってしまいました。
ということで、野原花子、異世界で初、王都見学にやって参りました!
ずっこい、賑わっております!
ここは所謂メインストリートですかね!屋台のようなお店から、カフェやレストラン、食堂のようなお店などの、繁華街のようです。
通りを一本挟んだら向こう側は、服屋さんや小物、アクセサリーのお店などがあります。服屋さんは既製品のお手頃な物を売っているお店やオーダーメイドの仕立て屋さん、その両方を兼ね備えているお店。小物屋さんは手頃なアクセサリーや髪飾りを売っているお店や、それこそ高級宝石店のようなお店もあります。
「ホッホッホ。わしもこうやって街に降りてくるのは久しいが、よう考えるとハナコ殿を連れてきたことがなかったのぉ。すまんかったのぉ。」
グレンリードさんは、いつものローブを着て、魔法使い然り、の装いとは違い、品の良い商人のようや装い。
「いえ、私も今まで毎日に必死だったみたいで、街に出るとか、思い付きもしませんでしたから。」
因みに私は、淡いモスグリーンのワンピースで、黒髪は目立つので、ツバの大きなしろい帽子をかぶって、その中に髪を入れています。
「そうかそうか。して、どこを見ようかな?お嬢さん。」
グレンリードさんは、ちょっと困ったような、悲しいような顔をしたかと思うと、次には面白いイタズラを見つけた子供のようなお顔をして、聞いてきます。
「ふふ。では!まずは腹が減ってはなんとやら、です!何処か食事ができるところへ入っても良いですか?」
「ホッホッホ。かしこまりましたぞ、お嬢さん。」
そう言って、私に腕を差し出しエスコート?してくださいます。
ふふふ。グレンリードさんのこうゆう少年のようなところ、私、大好きです。
沢山のお店に目を奪われながらもグレンリードさんにエスコートされ、歩いていると、グレンリードさんが立ち止まり、
「ここなんか、どうじゃ?お嬢さん。」
と声を掛けて下さいます。
そこは、とってもお洒落なドレスコードとかあるのでは?という感じのお店でした。
「うーん、グレンリードさん、ここじゃなきゃダメですか?」
「おや、気に入らんかの?」
「いえ、そういう訳ではないのですが…。あ、あそこ!グレンリードさん、あそこに入りましょう!」
「これこれ、ハナコ殿、落ち着かれよ。」
私はグレンリードさんを引っ張るように、お洒落なレストランのある、その通りの路地裏にある食堂までお連れする。
「へい、らっしゃい!」
カランコロン、とガラス戸を開けると、そこは、決してお洒落ではないけれど、小綺麗な大衆食堂のようなところで、結構賑わっていました。
「ハナコ殿、遠慮は…」
「良い臭い!グレンリードさん!私、お腹ペコペコです!」
グレンリードさんは何か言いたそうでしたが、空腹には敵いません。構わず案内された席に座ります。
案内された席は、カウンターの席で、目の前でお肉が焼かれたり、炒められたり…よ、よだれが。
よだれが垂れてないか気にしつつ、帽子をとり、席につきます。
「いらっしゃい!おや、嬢ちゃん、珍しい髪の色だね~。外国生まれかい?」
一見厳つい顔を綻ばせて、恐らく店長さんでしょうか?大きな鶏肉を炙りながら、嫌みなく聞いてきました。
「ええ。国外というか、その、すっごく遠いところで…。だから、びっくりしました。最近、こちらに来たばかりなのですが、すっごく賑やかな街で、華やかで、栄えてるんですね!食べ物も美味しそうなのばかり!」
私がそう言うと、店長さん(予想)は、
「カァー、良く見てるねぇ、嬢ちゃん!嬉しいこと言ってくれる!そうさ、この街はこの国一番の賑わいと、華やかさを誇る、レイニール国の王都、レイル街さ!」
とっても嬉しそうに、睨まれたら心臓が飛び出そうな鋭い目を細めながら、話してくれます。
「やはり、王都は華やかなんですね~。」
私はピリ辛チキン揚げの定食を、グレンリードさんは牛筋肉の煮込みシチューを頼み、そう言うと、
「お嬢ちゃん、そりゃあ、違うぞ!確かに、この街は王都なだけあって、そりゃあ、一段と栄えているが、この国は至るところの大きな町から小さな村まで栄えてるんだぜ!」
そう、自分の子の自慢話のように語る。
「それはすごいですね!昔からこんなに栄えていたんですか?」
そう、私が聞くと、相変わらず、手はきちんとお仕事をしながら、
「いやいや!こんなに景気が良くなったのもここ10年位の話さ!それ以前は、こんな路地裏なんか、危なかっしくて、商売なんてしてられなかったしなぁ。ちょっと奥に入ったら、ごろつきやら、孤児やらがいてな…。でも、まだ、ここはいい方だったさ。辺境の町や村はそりゃあ酷かったようだぞ。 」
と、少し悲しそうに教えてくれます。
しかし、どうやらこの店長さん、とてもお話好きらしく、ぱっと表情が明るくなったかと思うと、
「しかし、今の王様になったらこの通りよ!今じゃこの国で、栄えてない町や村を探すほうが難しくなったさ!」
と、強面の顔を紅潮させる。
「へぇー、やっぱり史上最強の王様がいると、悪いことなんて出来ないのですかね。」
私がそう言うと、
「そりゃあ、違うぞ!嬢ちゃん!!」
と、私の隣の、グレンリードさんとは反対側に座っていた、これまた強面の顔に大きな傷痕があるおじ様が、これまた顔を紅潮させて参戦してくる。
「俺らの間じゃ、実は王様は魔力だか魔術だかが使えねーんじゃないかとすらいわれてるんだぞ!」
「え…それって不味いんじゃ…。」
「不味いことがあるかい!」
そのおじ様は、いいかい、嬢ちゃん、と話始める。
「前の王様、いや、代々の王様の時はな、まあ、一見はそれなりに国は治められていた。」
だかな、と、おじ様は続けます。
「現王は、見てくださるんだ。」
「見、る?」
「ああ。現王は、やれ、視察だ、やれ、公務だ、と、こんな市井にまで足を運んでくださる。それどころか、他国への訪問や辺境の町や村への視察の時だって、余程のことがない限り、馬車で移動するんだ。」
「馬車で、ですか?」
あんなに転移魔法を使いまくっているのに?と、思わず心の中で突っ込む。
「そうさ。そうやって見てくださるんだ、その御目で。だから、荒れてる街道があれば整備してくださり、野盗やら何やらが出るとなれば警備兵の巡回をなさってくださる。」
たがらな、と、今度は店長ご請け負う。
「王様がどれだけ魔力や魔術を持ってようと、関係ないのさ。俺達にとったら最高の王様さ!」
ピリ辛チキン揚げ、本当に美味しかったです。レシピを聞きましたが、タレは秘伝らしくっ!また食べに来なくては!
お腹を満たしてからは、本当に沢山のお店を見て回りました。
この街の方々は親切かつ、お話好きでした。一つ質問すると倍…いえ、三倍くらいになって返ってきました。
ここの、串揚げは王都一だ、いや、だったらあそこのケーキは国一番さ、あそこのアクセサリー店は職人の腕が良い、あそこの小物屋はセンスが良い、お話しは尽きません。
でも、一つだけ、皆さんは口を揃えて言い切ります。
現王は、自分達を見ていてくださる、と。
「ホッホッホ。いやはや、有意義じゃった。」
再び好好爺、グレンリードさん。
「グレンリードさん。」
「なんじゃい、ハナコ殿。」
そこは、王都が見渡せるという、展望台。
「いい、街ですね。」
「そうじゃのぉ。」
グレンリードさんは微笑む。
風が、頬をなで、帽子を浚い、私の黒髪をもてあそぶ。
「いい、国ですね。」
「そうじゃのぉ。」
風も、光も、人も、何もかもが優しい。
「王様に会いたいなぁ。」
「そうかいそうかい。」
ブルースカイの瞳を、とても恋しく…愛しく、思いました。




