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強化倍率∞ ~最弱スキル《装備超強化》だけで異界を統べた男~  作者: 伝説の男前


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第9章:最終強化編(前編)

### 第77話 理としての強化


 世界樹の深淵から帰還したハルトは、まず何から手をつけるべきか、しばらく思案する日々を過ごした。


「魔法の法則そのものを理解する、か……正直、想像もつきません」


 武具や兵器であれば、手に取り、構造を観察し、使われ方を知ることができた。だが「因果」や「重力」、「空間」といった、目に見えない世界の理を、一体どうやって理解すればいいのか。


「まずは、身近なところから始めましょう」


 ヴェルミナの提案で、盟約連邦の魔導研究院に籠り、これまで蓄積されてきた魔法理論の文献を、片端から読み解いていくことになった。ドルシスやノアもまた、それぞれの知識を持ち寄り、ハルトの理解を助けた。


 数ヶ月にわたる地道な検証の末、ハルトはようやく、ごく小さな因果の歪みに対して、微かな理解の糸口を見出すことに成功した。


【対象:局所的な因果律/理解度:3%/強化倍率:上限×90】


 わずかな数字だった。だが、これまで誰も成し得なかった「法則への干渉」という、前人未到の領域への、確かな第一歩でもあった。


---


### 第78話 小さな奇跡


 最初に理解が及んだのは、時間の流れにわずかな遅れを生じさせる、局所的な因果の歪みだった。


 実験的に、崩落しかけた古い遺跡の一角に、この理解を適用してみることになった。崩れ落ちようとする瓦礫の速度が、ほんのわずかに遅くなる――それだけの、地味な効果だった。


「でも、これって……」


 ヴェルミナが、その結果を見つめながら、興奮を隠しきれない様子を見せた。


「因果律そのものに、意図的な干渉を加えたということよ。理論上は不可能とされてきたことが、現実に起きている」


 この小さな成功は、盟約連邦の魔導研究者たちの間に、大きな衝撃を与えることになった。武具の強化に留まらず、世界の理そのものへと踏み込んでいくハルトの歩みは、これまでのどんな戦果よりも、根源的な意味を持つものだった。


「これができるなら、いずれは……」


 ドルシスが、何かを考え込むような表情を見せた。


「儂の故郷が失われた、あの争いの結末すら、覆せるのかもしれんのう」


 その言葉に込められた、老鍛冶師の切実な願いを、ハルトは静かに受け止めていた。


---


### 第79話 空間への挑戦


 因果律への理解を深めながら、ハルトは次に、空間そのものの法則にも手を伸ばし始めた。


 異界渡航船の技術で培った次元障壁の知識、ノアが持つ世界樹由来の知識、そしてこれまでの理解の積み重ね――それらすべてを総動員し、空間の歪みや繋がりについての理解を、少しずつ深めていった。


「空間を理解するというのは、つまり……距離や隔たりそのものを、意のままにできるということ?」


 レティシアの問いに、ハルトは慎重に頷いた。


「理論上は、そうなります。でも、まだ理解度は低いですし、暴走のリスクも高い」


 実際、理解の浅いまま空間へ干渉を試みた際、一度、小規模な空間の歪みが暴走しかけたことがあった。幸い、ヴェルミナとノアの迅速な対応で事なきを得たが、その一件は、法則そのものへの干渉が孕む危険性を、改めて一同に突きつけることになった。


「これまでの武具強化とは、リスクの次元が違うわ」


 ヴェルミナの警告に、ハルトは深く頷いた。それでも、理解を止めるという選択肢は、ハルトの中にはなかった。


---


### 第80話 重力の理


 空間への理解が進むにつれ、ハルトは自然と、重力の法則そのものにも向き合うことになった。


 かつて世界樹の深淵で身につけた、魔力耐性∞の経験が、ここで思わぬ形で役立った。重力という、目には見えないが確かに存在する力の流れを、ハルトはあの深淵での経験を手がかりに、少しずつ読み解いていった。


 ある日、盟約連邦の演習場で、ハルトは小規模な実験を行った。一定範囲の重力を、意図的に軽減する試みだった。


【対象:局所的重力場/理解度:22%/強化倍率:上限×4800】


 効果は劇的だった。範囲内にあった巨大な岩塊が、羽根のように軽々と持ち上がる。立ち会っていた技術者たちが、驚愕の声を上げた。


「これが実用化されれば、大陸間の輸送や、これまで不可能だった建造物の建築すら、可能になるかもしれない」


 ヴェルミナの分析に、盟約連邦内では、ハルトの理解を平和的な発展に活かそうという機運が、急速に高まり始めていた。だが、その一方で、この力を軍事目的に利用しようと目論む者たちの存在も、水面下で静かに動き始めていた。


---


### 第81話 法則を狙う者


 ある夜、盟約連邦の重鎮の一人が、密かにハルトのもとを訪れた。


「――その力、我が国のために、もっと積極的に活用してはくれぬか」


 言葉巧みに持ちかけられたのは、法則への理解を、他勢力への軍事的優位のために使ってほしいという、危険な提案だった。ハルトは、きっぱりとその申し出を断った。


「俺の理解は、誰かを傷つけるためのものじゃありません」


「……惜しいことだ」


 その重鎮は、そう言い残して去っていった。だが、後日、ヴェルミナの調査により、その人物が水面下で、独自に「法則への干渉」を軍事転用しようと、危険な実験を進めていたことが発覚した。


「暴走した因果律や空間の歪みは、下手をすれば、この大陸全体を巻き込む大惨事になりかねないわ」


 ヴェルミナの警告に、一同は緊張を隠せなかった。世界樹から託された「均衡を保つ」という役目の重さが、ここに来て、改めてハルトの肩にのしかかることになった。


「止めなければ……」


 ハルトの決意に、レティシア、ガイウス、グレン、ドルシス、ノア、そしてシズカと紅蓮――これまでの旅路をともにしてきた仲間たちが、静かに頷いた。


---


### 第82話 仲間の結集


 危険な実験を止めるべく、ハルトたちは急ぎ、事の真相を確かめるための調査に乗り出した。


 問題の重鎮は、大陸の外れに位置する隠された研究施設で、回収した深淵軍の侵蝕技術と、独自に得た因果律の知識とを組み合わせ、暴走のリスクを顧みない、危険な兵器の開発を進めていた。


「あれは……下手をすれば、世界樹の魔力循環そのものを破壊しかねない代物だわ」


 施設に潜入したヴェルミナが、青ざめた表情で報告した。


「止めるしかないな」


 グレンが、剣の柄に手をかけながら、静かにそう告げた。ガイウスもまた、覚悟を決めた表情で頷く。


「今回ばかりは、俺たちの剣が必要な場面だ」


 ハルトは、これまで培ってきたすべての理解を総動員し、仲間たちの装備を、これまでにない密度で強化していった。因果律への理解、重力への理解、そして武具そのものへの深い理解――それらすべてが、この決戦のために結集されることになった。


 施設の奥深くで、暴走寸前の兵器が、不気味な唸りを上げ始めていた。


---


### 第83話 暴走の危機


 施設の最奥にたどり着いた一行の前に、暴走を始めた兵器――侵蝕と因果律が歪に融合した、異形の存在が姿を現した。


「もう、止められる段階を超えているぞ!」


 問題の重鎮が、恐怖に顔を歪めながら叫んだ。彼自身、制御を失った力の奔流に、なす術もなくなっていた。


「ハルト、あなたの理解が頼りよ!」


 ヴェルミナの声に、ハルトは深く頷いた。目の前で暴走する存在の構造――侵蝕の力と、歪められた因果律の絡み合い方を、瞬時に読み解いていく。これまで積み上げてきた、すべての経験が、この一瞬に結実しようとしていた。


「レティシア、ガイウス、グレン! 俺が理解する隙を、作ってください!」


「――任せろ!」


 三人の剣士が、暴走する存在に向かって、同時に斬りかかっていく。強化された剣戟が、異形の表面を切り裂き、わずかな隙を作り出した。


 その一瞬を逃さず、ハルトは暴走する力の核心部分に、強化の理解を注ぎ込んでいった。


「――理解した!」


 次の瞬間、暴走していた力の奔流が、急速に鎮まり始めていく。大陸を揺るがしかねなかった危機は、間一髪のところで、回避されることになった。


**(第9章・完/全90話中83話)**


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