01 プロローグ 運命の出会い
俺の名前は里中友次。年齢は30歳でセントリーという企業の自動販売機のドリンクの商品の入れ替え作業をやってる。
そこで仕事中、俺はとある会社で運命の女性と出会ったのだ。
運命と言っても、俺が一方的に運命だと感じただけなんだが。
そしてのちに知ったが、名前を絵名木美夢さんと言う。
◆ ◆ ◆
その運命的な出会いはある、夏の日、俺が自動販売機を開けてペットボトルの入れ替え作業をしていた時の話だ。
バリッ。不吉な音が聞こえた。
俺が膝を折り、屈んだ瞬間ズボンのケツが張り裂けたのだ。
一瞬で血の気が引いた。
俺の趣味は筋トレで、最近服がパツパツになってはいたが、まさか張り裂けるとは!
──不意に、俺の腰にふわっとしたニットカーディガンが腰に巻かれた。
振り返ると、長いサラサラストレートの髪の綺麗な女性がいた。スタイルもいい。
「ひとまず、これで空いてる部屋にどうぞ!」
「す、すみません!」
俺は今、半袖の服を着ていて巻ける袖もなかったから正直助かった。
「冷房対策でニットカーディガンを持っててよかったです」
「でもこのままではあなたが寒いのでは」
「今は平気です。ソーイングセットもあるので、ちゃちゃっと空き部屋であなたのズボンを縫います。あなたが嫌でなければ、ですけど」
「そ、それは助かりますが、いいんですか?」
「困った時はお互い様です、お気になさらず」
彼女はクールな表情のまま、そう言った。
そして空き部屋に移動し、俺は彼女に言われた通りにした。ここはどうやらミーティング用の部屋らしい。
「そこのカーテンの裏で下だけ脱いでズボンをこちらに渡してください」
彼女は窓の方向を指差して淡々と指示をくれた。
「は、はい! ただ今!」
急いでベルトを外してズボンを渡したが、まだ俺の温もりが残っていて、キモくないかな? などと、心配になるがズボンが張り裂けたまま外を出歩くわけにいかない。
俺はカーテンから顔だけニョキっと出し、蓑虫みたいな姿で作業を見守ることにした。
彼女は小さなソーイングセットを手にしていた紙袋から取り出して俺のズボンを手際よく縫ってくれた。
───なんて、優しくて素敵な人なんだろうと、俺は胸が熱くなった。
「はい、縫えましたよ」
こんなに親切なのにニコリともしなかったが、そもそもクール系の人なのかもしれない。
カーテンに隠れてる俺にズボンを返し、彼女はくるりと後ろを向いてくれたので、その隙に急いでズボンを履いた。
「ありがとうございました! しかしよくソーイングセットなんか持ってましたね」
「ええ、まぁ、たまたまですよ」
その紙袋からは布が少し見えた。
何かを休み時間に縫うつもりでたまたま自動販売機の側を通りかかった時に、俺を助けてくれたのだと思う。
「あの、今度このお礼をさせてください」
「このくらい大丈夫ですよ、お気になさらず」
「せめて食事でも奢らせていただきたくて」
その時、彼女が壁の時計を見た。
「あっ! そろそろ会議が始まるので、私はこれで!」
「あっ」
彼女はそう言って風のように去って行った。
俺との食事が嫌なのか、ガチで会議なのかは、外部の俺には知る由もない。
ちょっと切ない。
◆ ◆ ◆
また別の日、彼女のいる会社に自動販売機の入れ替え作業に来たんだが、彼女は何故かワクワクした様子で、自動販売機の側にいた。瞳が星のように輝いていて、とても綺麗だ。
「あ、先日はどうも!」
「いえいえ! そんなことより作業をどうぞ!」
「は、はい」
俺は動画サイトの広告でたまに見る程度で、よくは知らないけど、自動販売機には今日から始まるキャンペーンの商品を入れた。
ゲームのキャラのラベル缶ってやつで剥がすとステッカーになる。
作業が終わると、早速彼女はそれを買おうとした。
「あ、まだ冷えても温まってもいませんよ!」
「ラ、ラベルが欲しいだけなので、どーでもいいです! それに烏龍茶なんか常温でいけます!」
それもそうかと思いつつも、彼女の好きなものが判明した瞬間だった。
彼女は必死でゲームの推しキャラを当てようとしてるらしかった。
しかしランダムで排出されるキャラのラインナップは五人。もう五回は回してるが、同じキャラが2連続出て、次もその次も彼女のお目当てではなかったらしい。
ため息をついてガッカリした顔になってたし、小銭も尽きたようだった。彼女が新たに千円札を突っ込もうとしてる。
補充作業した俺が悪い気がしてきた。
「ちょっとすみません、俺が」
「あ、はい、占領してごめんなさい」
「そーではなくて、物欲センサーってやつかなと……」
俺は自分で小銭を七百円分出して自販機にコインを投入した。
ガコンと、烏龍茶が1本出てきた。
キャンペーン用の高いドリンクに銀髪に褐色肌で金目のイケメンのラベルがついてる。
「これは欲しかったやつですか?」
「あっ!」
彼女の瞳が輝いた。どうやらビンゴらしい。
「どうぞ」
「えっ!? あ、お金払います!」
「いりません、ズボンのお礼、まだ出来てなかったので」
「あっ」
「まぁ、でもこれじゃ安すぎるから、もっとちゃんと食事とか飲みとか奢りたかったんですが」
「いいえ、これで十分! いえ、これがいいです!でもこれは1本700円もするんですよ! ラベルのせいで!」
「いいんですよ、それでもランチ行くより安いですよ!」
「……ありがとうございます」
ここで初めて、彼女の笑顔が見れた。
頬を染めてめちゃくちゃかわいい。
そして、本日俺は彼女の好きなゲームとキャラが分かった訳だが、それは……俺とは似ても似つかぬワイルド系のイケメンだった。
◆ ◆ ◆
また別の日。
仕事の為に来た時に、こんな会話が聞こえて来た。同僚の後輩らしき女性と話をしていた。
自販機側のベンチで。
「絵名木先輩も今夜の合コン来ません?」
「えー、遠慮しとく」
「実は彼氏いたりするんですか?」
「人間の男は裏切るから、今は2次元でいい。2次元は裏切らない」
……彼女は、過去に男に裏切られて痛い目にでもあったのだろうか? と、思わせることを語った。
「あーそうなんですね」
後輩も何かを察した顔をした。
「あはは、ごめんねー」
「でも、いつでも来たくなったら声かけてくださいね」
「ありがとー」
そんな会話が聞こえて来た……つまりは、彼女はフリーなんだ。
……それなら、もっと俺が信頼を勝ち得る努力を続けたら、少しづつなら……近づいても、許されるだろうか?
◆ ◆ ◆
それから、俺は絵名木さんのやってるゲームを開始した。そして、あのドリンクの縁でまた話しかけ、
同じゲームを始めたと伝えた。
「え? ほんとですか? わかんないことあったら聞いてください、あ、なんなら私と同じギルドに入りますか」
瞳をキラキラさせ、推しゲームの話が出来る仲間が出来たことを純粋に喜んでる姿を見見ると、少し申し訳なくなる。
「ありがとうございます、まだ始めたばかりでかってが分からないので助かります!」
とはいえ、いつ過去の傷?を乗り越えられるレベルの、現実のくそメロい男が現れて取られないとも限らない。ここでしり込みしてる場合ではない。人間いつ死ぬか分からない。そう、両親は海外の旅行先で突然殺された。
もし、彼女がそのうち聖地巡礼とか言って、治安の良くない土地に行くなら、俺が守れる立場になれたなら……!とも、思うし。
「任せてください、私、ゲーム内では先輩なので」
「はい、ギルドチャット内では先輩と呼ばせていただきます」
「あはは」
ゲームのおかげで彼女は打ち解けて、笑顔を見せてくれるようになった。
まさに俺にとっても神ゲーである。
彼女はゲーム内にあるシルバーウイングというギルドに誘ってくれて、そのギルドのチャット内でお得なダイヤの貯め方とか戦闘のコツなんかを親切に教えてくれた。
そんな交流を続けていくうち、そのきっかけのゲームがコラボ開催カフェをやることになった。
コラボ料理やドリンクにつくコースターやアイテムはランダムなので、一人で推しを引くのは難しいだろうなーと、彼女がチャット内で言うので、思い切って誘ってみた。
「一緒にコラボカフェに行きませんか? 推しが出たら差し上げますよ」
「えっ! ほんとにいいんですか?」
「俺の推しは別なので」
「助かります!」
そして、ここで絵名木さんとLIN〇の交換が可能になったのだ!
具体的な待ち合わせ時間とか決めるために!
◆ ◆ ◆
そして、来たるコラボカフェ開催日。
人気ゲームだけあってかなりの人がいる。
つまり大行列になっているのだ。
でも待ち時間の待機列さえ、俺にとっては幸せな時間だった。隣にミユさんがいるからだ!
「シルヴァン来い来い、いや、これでは物欲センサーに引っかかる。無になれ、私」
ミユさんはブツブツとそう呟き、銀色のビニールに包まれた袋のギザギザした所から切り込みを入れて開け、中身のコースターを出した。
俺からは裏面の魔法陣のような模様しか見えない。
「ど、どうでした?」
なんとなく、虚無って感じの顔してるから、察する事は可能だが一応。
「好きなキャラですが、私の最推しではありませんでした……」
しょんぼりしてる……可哀相。
「じゃあ俺のを開封してみます……あっ!」
「え?」
「出ましたよ! シルヴァン!」
「ああっ、やはり里中さんはシルヴァンに愛されし男」
「いや、そんなことは! たまたまです! これ先輩にさし上げますから!」
「……ありがとうございます! それで、里中さんの推しはそういえばどなたでしたっけ?」
「えーと、俺はこのゲームの絵が綺麗だから始めたけど、推しは……強いて言うなら主人公のサポートキャラの女の子なので、今回のグッズにはいませんね」
「あ、カリンちゃんですね! かわいいですよね!」
「ええ、かわいいです」
……本当の俺の最推しは、ミユさんなんですけどね。こんな俺をどうか許して欲しい。




