表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【切り抜き】10分でわかる月雪フロル【電脳ファンタジア】  作者: 杜若スイセン
再生リスト7:電ファン感謝祭は舞台袖に新人を添えて

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

167/169

#167 Vtuber事務所で蕎麦を見てテボを思い出す難易度とは

「フーちゃん、料理コンビからお呼ばれ……もといヘルプだよ。思ってたより多いって」

「…………みんなお腹空かせて来すぎなのかな。私、今想像だけで舌がおかしくなりそうなんだけど」

「え? ……あー、え? たこ焼きそんな人気なの!?」

「今スタッフさんが追加焼いてるよ」

「あの人たち残ったら『スタッフが美味しくいただきました』なのわかっててビビって最低限しか作ってなかったから、今わたしたちより焦ってるよ」

「えぇ……」


 ほぼエティア先輩が言った通りで、予想外の大盛況で困っているのはむしろスタッフさんたちだ。今更私たちが消費しても面白くない上にファンに罪悪感を与えてしまうだけだから、今回ばかりは逃れられない。

 だから怖気付いて本当に最低限の量しか作っていなかった。まあ今回ばかりは私たちもそんなに出るとは思っていなかったから事前に誰も突っ込んでいないけど、現実は非情である。おかげで焼きたてのロシアンたこ焼きに待ち時間すら発生しそうになっている。


 そのせいで私はあのときの味を思い出してしまって、すっかり舌が甘くなっているんだけど……このタイミングでキッチンから救援要請が来た。となれば当然ルフェ先輩も離れられないから、伝えつつイミアリブースに来たのはみゃーこだ。予想外の状況にはしっかり絶句しているけど、それはそれとしてブース内は大歓声だ。

 まあ、今呼ばないとお昼どきに間に合わないだろうからね。ただたまたま、こちらがこんなことになっているタイミングに重なっただけで。


「ま、そういうことなら行ってくるね。こっちはよろしく」

「うんっ。ってわけで、選手交代! ここからはエティア先輩と私でお送りするよー!」

「本当に凄いねこの子、もうここまで慣れてるんだ」


 コミケのときにブースに入ったとはいえ、それだけなのにね。忘れがちだけどこの子、まだデビューから三ヶ月である。

 私はそのまま任せて移動。巨矢くんとナヴィちゃんはみゃーこの振る舞いも少し見てから他を見に行くそうだ。どうにもイミアリそのものがこういうときの優良物件扱いされている気はするけど、無理もないか。






 着いたのは反対側の端にあるブース。星夜さんが中心になって料理の試食会、というかちょっとした屋台形式をしている。この配置になったのは単純で、受け取ったまま休憩室に行きやすいようにだ。構造上、会場の外には両端からでないと行けないから。

 スタッフさんたちはあちこちでバタバタしているけど、私はすれ違う度に道を譲られるから悠々……ではなく、むしろ恐縮してしまっていた。だって、前回は道を譲る側だったんだ。私だってライバーとしての参加は初めてなのである。


 変なタイミングで入る事故が起きないよう、ブースのライバー側入口には内部の様子のモニターがついている。それによるとどのブースもしっかり盛り上がっているようで……待ってぱーちゃん、ペンデュラムは催眠道具じゃないよ? そもそもAR越しだからこの手の催眠自体もだいぶ無理があるし。

 ファン研は他よりはある程度安心感がある、かと思ったんだけど、ハヤテ先輩が別のところにいるから収拾がついてない。これはちょっと、急いでいなくてもスルーしているかな。私ただの準レギュラーだし、一人でアレに振り回されるほどの責任はないよね。


「お待たせー」

「あ、フロルちゃん! キッチン空いてるから、何か好きに作っちゃって!」

「えらくざっくりした指定だね。よっぽどヤバいと見える」

「そりゃそうだろう。でないと簡単な作業とはいえ五期生が勝手に手伝い始めるのくらいは止めてる」


 一応、事前に作っておいて持ってきているメニューもあるんだけど……修羅場だった。繁忙期の人気店そのもので、スタッフさんもどんどん手伝ってなんとか回転率を上げている。確かにこのありさまなら、真珠さんが手伝いはじめてしまうのを防げはしないか。彼女の「最初はここ」という希望を通したのが運の尽きだろう。

 とはいえ、結局メインシェフが二人しかいなかったせいで限界があった。そこで私を呼ぼうということになって、ちょうどファン研からイミアリに移るところだったみゃーこにメッセンジャーを任せた形だったそうな。

 消防法の関係で火を使う設備がないから少し限界があるけど、とはいえIHコンロ付きの簡易キッチンはしっかりある。中華はさすがに厳しいとしても、最近のデモンディーヴァ製ならそこそこの火力が必要なものは作れるはずだ。


「で、こんないかにもゲスト用な三台目のキッチンがあるということは……」

「まあ、あるよ」

「期待されるよねぇ。じゃ、さすがにこれから作りますか」


 というわけで、手渡されたのがこれ。蕎麦だ。……だと思った、前に案件をもらったところの商品だったし。

 まあ、象徴的であることに間違いはないからね。量からして確実に、あのときの赤田ファームさんも一枚噛んでいる。


「さっそくえび天から」

「待ってください、なんの説明もなく当たり前のように中身入りの寸胴鍋を取り出さないでください! そもそもなんですかそれ!」

「必要だろうと思って昨日取っておいた出汁」

「予測してたんですか!?」

「このくらいはできないとやってけないよ電ファンは」


 ツッコミを入れてきたのは、ここの見学から入っていた揺ちゃん。よかった、ツッコミのできる子が入ってきて。……今ナチュラルに会話しちゃったけど、向こうのファンには私の声だけ聞こえているはずだ。そこに五期生がいること自体は知られているから問題ないか。

 そんな揺ちゃん、同じくここにいた真珠さんもだけど、あまりの修羅場だからか手伝ってくれていた。星夜さんの料理が煮込み段階に入ったから、揺ちゃんは私のところに来てくれたところだ。


 まずは天ぷら用のエビ、薄力粉の入ったトレイに並べていく。さすがに量を考えてか、殼むき背わた取り開きまでは済まされている業務用のものを用意されていたから楽だ。普段は殻つきからやることもあるけど、今回はそれだと日が暮れてしまうからご容赦。

 それを今度は衣液に浸して、次々に油へ。もちろん炭酸水で作ってあるし、冷やしてもある。そこは万全だ。ほぼ流れ作業の揚げ工程だけど……レストランとかの厨房もこんな感じなのかな。私は電ファン以外のアルバイト経験がないからわからないけど。


「このくらいならできます!」

「さて、そばの方もやっていかないと……こんな器具あったね、一年ぶりじゃない?」

「年に一度使うなら経費さ」

「今思えば案件のとき使えばよかったなこれ……」

「うわ、いろんな意味ですごい会話……」


 ネギは小口切りにしておいて、他の具もそれぞれ用意。大鍋にラーメン屋にありそうなテボがたくさんあったから、蕎麦は一人前ずつそれに入れて茹でていく。

 出汁には醤油とみりん、それから塩を入れて煮立たせておいて、麺が茹で上がったら丼に盛り付けてつゆをかける。薬味と揚がった天ぷらを載せれば完成だ。星夜さんのビーフシチューほど一気に大量には作れないけど、慣れれば流れ作業にできそうだね。


 電ファンが何故か所有しているテボの存在を私は一年間忘れていたから、大晦日にも案件のときにも使わなかったことを私は心から後悔した。せっかく経費で落ちていたのに。減価償却の機会を二度も逸してしまったのだ。

 今年の大晦日は忘れないようにしようと心に決めていると、また揺ちゃんに突っ込まれてしまった。まあ確かに、ファンがすぐそこにいる場面でするにはなかなか際どい会話だ。このくらいは電ファンでは普通だけど。

 ……むしろツッコミ一つ入れずにルフェ先輩の羊羹を切り分けている真珠さんのほうがおかしい気はするけど、まあいいか。ツッコミ需要を満たせるのも順応性が高いのも、どちらもそれはそれでいいことだし。




 そしてまあ、そんな気はしたけど大好評。私の感覚では、こういう場で振る舞うには少しばかり手を抜……あ、これだめ? 飲食業界に怒られる?

 月雪フロルの文脈的には、私が取った出汁と赤田ファームさんの蕎麦というだけで満点だったらしい。それなりに簡略化されていたトッピングはあくまでオマケだったと。こんなに影の薄いえび天、初めて見たよ私。


 ちなみにその蕎麦、会場物販にしれっと並んでいた。しかもパッケージに私のロゴ入りエプロン立ち絵付きで。ママ、またしれっと仕事してる。このくらいあのsperにとっては二時間そこそこの仕事なんだろうけど。

 後で聞いたところによれば、二日間の物販だけで去年一年間の売上の三割が捌けたらしい。なんとも嬉しいことだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ