【魔王復活の章】第1話
「よしっ、これでいいか」
「しっかりしたのが出来たね。これなら十分じゃない」
出来上がったばかりのがっしりとした大木で作られた
村を囲む城壁を見ながらティエラも言う。
ここはウッドウォード、レンの両親が住んでいる村。
辺境領最大の都市のベルグードからは徒歩で約1週間程
歩いた場所にある。
尤も最近はこことベルグードとの間に馬車の定期便が
できたので2都市間の移動はかなり短縮されているが。
2人がLV80になってから15年、年齢的には二人とも
30歳台半ばにかかってはいるが、神獣から受けている
長寿の加護のおかげで外見は以前と全く変わっておらず
若々しいままであった。
また、15年の時は2人のレベルを90以上にまで上げるには
充分で、今ではロチェスター王国で唯一のLV90越えの
冒険者に、2人のレベルはLV92になっていた。
しかしながら二人のランクは依然としてAのままで
あった。
これは二人がかたくなにランクSへの昇格を拒否
し続けている為である。
ランクSになるとギルドよりも国や貴族との仕事が
増えるが、二人は貴族や王家との付き合いを全く
望んでおらず、むしろ煩わしいとさえ考えていた。
彼らはLVが上がってもずっと自由で動けるランクAに
固執していた。これは実は二人が神獣との約束が
あるからである。
神獣4体の加護を受けている二人は、神獣達から
魔王を討伐する勇者達に万が一の事が起こった時は、
勇者に代わって魔王を討伐して欲しいと要請を
受けていたからだ。
そのため、いつでも自由に動ける様に二人は国や
貴族の仕事に縛られる事が多くなるランクSという
地位を頑なに拒否し続けていた。
この事情を知っているのは神獣以外では
今の辺境領の領主と、当時のベルグードのギルマスの
二人を含めた極少数の人だけで、
この二人はレンとティエラを自由に活動させる為に
LV92という実際のレベルを対外的に発表せずに
80台後半という説明を対外的にしている。
またレンとティエラの二人もレベルを聞かれても
80台後半で止まっていると説明していた。
この15年の間、徐々に瘴気が濃くなって来て
あちこちで魔獣が暴れだしてはいるが
レンとティエラの功績でもある冒険者の質の向上が
このロチェスター王国では見られ、高レベル冒険者が
続々と誕生し、彼らが領民、国民を守るべく
日々魔獣を討伐していた。
一方、レンとティエラは従来のベルグードの住居の他に
年を取ってきたレンの両親の面倒を見るために
5年前にウッドウォードの両親の家の隣の場所に
同じ様な大きな平屋の一軒家を建てていた。
そして生活の半分をウッドウォードで過ごすにあたり、
将来の魔獣の侵入よりこの村を守るべく
村の周囲を強くて硬い木々で柵を作ることにして、
ベルグードのギルドに2人でクエストを出し、
冒険者の協力を仰ぎながら、村の周囲に周辺の森から
取れる硬い木を使って城壁を作っていった。
その大木の城壁は将来の村の拡大を見込み、
相当広い範囲を囲む様に土地にはかなり余裕を持って
街を囲う様にした。
柵の上は人が歩けるほどの幅を作り、何か所かには
見張り櫓も作り、また、大木の城壁の中の敷地も
従来の村の面積の5倍以上はあり、
中には住居の他には池、田畑、放牧場等
柵の中で自給自足ができる程の規模であった。
レンとティエラがこの村に家を建て、
今後は生活の半分をこの村で過ごすとギルドに報告すると、
ギルドとしては二人のフォローも兼ね
今までなかったベルグードのギルドの支部をこの
ウッドウォードに作ることにし、職員数名がこの村に
異動してきた。
又、それに合わせてレンとティエラを尊敬している
冒険者もその拠点をベルグードからウッドウォードに移し
今では10数組の冒険者達がウッドウォードに住み、
ここのギルド所属で活動している。
そういう流れもあり、村は街へと拡大し
人口も以前と比して大きく増えていた。
出来上がった頑丈な城壁を見て満足した二人は
手伝ってくれた冒険者や村人、そして業者の人たちに
お礼を言い、
「皆さんのおかげで立派な塀が完成しました。
ありがとう。村の中心部の広場で打ち上げをするので
是非参加ください」
ティエラがそう言うと参加者から歓声があがり、
そのまま場所を移動して村の中心部で今度は
大宴会となった。
宴会には村の多くの住民が参加し、その中には
レンの両親のジグスとマリエもいて
「立派な城壁ができたな。これなら敵の侵入を
充分に防げるだろう。村人も安心できるな」
「レンもティエラさんも頑張ったわね。
皆喜んでるわよ。少し前まで1000人に満たない
小さな村だったここが、今ではその何倍も
大きくなって、診療所や教会までできて
便利になったってね」
「そう言ってもられると私達も頑張った甲斐がありました。
そろそろ魔王復活の時なので、自分達もしっかりと
準備しておかないといけないとレンとも話してたので。
ベルグード周辺の村や街も皆こんな風に
変わりつつあるし、魔族が来ないのが一番だけど
来た時にしっかり守れる様にしておかないとね」
以前は静かな場所だったこの地区も、ここ数年は
魔獣の数が増えてきていて、冒険者達が日々討伐は
しているものの、来るべき時に備えるのは
当然と言える。
「勇者さんが魔王を倒してくれて、また平和な
時になったら、その時は孫の姿を見せてくださいよ」
マリエに言われてティエラが頷く。
2人は36歳という年齢であったがまだ子供は
作っていなかった。
長寿の加護により寿命が延びているレンとティエラは
いつ頃に子供を作ればよいのか、エルフのルフィーに
相談をすると、ルフィー曰く
「エルフは一般的に100歳位で子供を産むんだよ。
慌てなくても大丈夫さ」
とあっさり言われて、そんなものかと思うと同時に
当人二人も魔王が討伐されるまでは何があるか
分からない中、いつでも戦闘できる様にはしておこうと
話し合って敢えて子供は作らないでいた。
ウッドウォードの城壁の完成とほぼ時を同じくして
ロチェスター王国辺境領のほとんどの村や街で
外敵から守る城壁が完成していった。
これは辺境領の領主の強い意向を反映している。
元冒険者である領主のヴァンフィールドは魔獣、
魔族の脅威を充分に理解しており、
自分の領民を守る為の自衛手段の1つとして
城壁の建設を奨励していた。
と同時に騎士の数を増やし、その質も上げる為に
予算を使い、その結果辺境領の騎士は王国随一の実力と
評されるまでになっていた。
一方、王国内のギルドは常に情報を交換しながら
各地に湧く魔獣の退討伐を進めており、
その過程で得た情報を共有していた。
そのためロチェスター王国に於いては地上で
魔獣が湧きやすいポイント(瘴気が溜まりやすいポイント)
がほぼ管理され、冒険者はクエストとしてその瘴気溜まりに
定期的に出向いてはそこでPOPする魔獣の討伐をしたり
瘴気が溜まりにくくする土木工事まで請け負っていた。
一方、ダンジョンは相変わらず挑戦者が多く、
神獣の加護の元を求めて日々訓練に励んでいた。
また、この15年の間でこのオールバニー大陸においても
大きな変化があった。
その最大の変化とは、北のオムスク王国と平和条約を
締結したことだろう。
北のオムスク王国とロチェスター王国とは長年に渡り
戦闘状態が続いていたが、10年前にオムスクの前国王が逝去し、
その息子が国王になると今までの国策を180度転換し、
家臣も新たに一新した上でロチェスターを含む大陸の
すべての国に対して和平条約の締結を提案してきた。
この背景には増え続けた軍事費による国民生活の圧迫、
および魔王復活が近づいている中での人族同士の争いが
魔王を利するだけであるとの判断があった様だ。
この和平条約はロチェスター王国、アルゴナ公国、
ミッドランド王国のすべての国に対して提案され、
そして締結された。
【魔王復活の章】 書き始めました。
成長の章に続いて書き始めていますが、新規で書き始めた方がよかったのかどうか
自分はよくわかりません。
ブックマークが残っていたのでこちらがいいのかなと思った次第です。
魔王復活の章はまだ全部書き終えてない中での投稿開始となりましたので
投稿時期は不定期となりそうです。
引き続きよろしくお願いします。




