第77話
クエスト完了の報告でギルドを訪ね
受付のキャシーにギルドカードを渡して
討伐した魔獣の数とその報酬の確認を依頼してから
ギルマスと面談するとミッドランドでの作業内容を報告する。
2人の説明が終わるまで黙って聞いていたギルマスのアンドリューは
「わかった。よくやってくれた。充分だろう。
ミッドランドのギルマスには俺から連絡しておく。
それにしてもお前らの話を聞く限り、ロチェスターと魔族領
との間に高い山があるってことは国にとっては助かるな」
「逆に言うと、ミッドランドは大変だと思う。
元々魔獣が生まれやすい条件の上に、あの国民性だろう?
まぁ、俺たちが知ったことではないけどな」
開き直っているレンの発言にギルマスも苦笑しながら
「ケツに火がつかないと目が覚めないさ、あいつらは。
今でも一部の人が何とかしようと動いてはいるが
殆どの国民や冒険者は聞く耳持たずだからな」
ミッドランドの王都で絡んできた冒険者を思い出しながら
レンはギルマスの言葉に同意する。
「いずれにしてもこれでクエスト終了だ。
倒した魔獣の魔石はギルドで買い取ってこちらから
ミッドランドの王都のギルドに渡しておく。
2人ともご苦労さんだった。キャシーから報酬を
受け取っておいてくれ」
ギルマスとの面談を終えて二人はキャシーから報酬を貰い、
そのまま自宅に戻っていった。
毎夜自宅には戻っていたとはいえ、他国の南部に密入国して
魔獣の間引きを暫くしていた二人は、
クエスト終了後の数日は南のダンジョンの79階での訓練もせずに
疲れを取る為にゆっくり休んでいた
レンとティエラが休んでいる間、ギルマスのアンドリューは
領主の元を訪ね、今回のレンとティエラの一連の動きを
領主に報告していた。
「まったくどうしようもねぇな。ミッドランドの奴らは」
報告を受けた領主のヴァンフィールドが吐き捨てる様に言う。
「あの二人も不愉快な目にあったみたいだ。
それよりもそんな調子だと魔王復活の際に一番に
やられちまうんじゃないかなと他人事ながら心配になるよ」
アンドリューは昔のパーティ仲間の領主と2人きりの時の
口調で答える。
「まぁ、あいつらは痛い目に合わないと目が覚めないだろうな。
痛い目にあったときに命が残ってるかどうかは分からないがな」
領主のヴァンフィールドはそこまで言うと一旦口を止めてから
「それにしてもレン達は相変わらずきっちり仕事してるじゃないかよ。」
「ああ、ギルドのエースとしても文句ない働きだ。
もう一つ言うと、当人達は全く気付いてないが、
彼ら二人がうちのギルドにいるだけで
うちのギルド内の冒険者が一つにまとまっている」
そう言うと、領主が身を乗り出し
「ほう。と言うと?」
「あの二人はここベルグードのギルドじゃあ桁違いのNo.1ペアだ。
であるにも関わらず全く驕ったりしないし、威張らない。
しょっちゅうギルドの酒場で他の冒険者と飲んでは
自分達の知識を周りに教えている。周りもあいつらが言うことは
頭から信用するしな。
つまり、当人達が気付かない内にここの冒険者の中の
ボスになっちまってるんだよ」
「ふふ、ベルグードのやさぐれ連中を締めてるって訳か」
「ほかのギルドじゃあ頻繁に起こっているNo.1の座をめぐる争いや
ギルドの冒険者同士の派閥抗争、そんなものがあいつらが魔法剣士になる
少し前からここでは全く無くなっているんだよ。」
アンドリューが最近のベルグードのギルド事情を領主に説明する。
「圧倒的な力を持つ者の前にはそんなことは無意味だって
分かってるのか」
領主が言うと
「多分そうだろう。俺たちが冒険者だった頃はしょっちゅう
冒険者同士のいざこざや、No.1と言われたパーティに喧嘩を
売るパーティとかあっただろう?
もちろん加護の元ってのが判明したのも理由の一つだろうけど
それ以外に言えるのは、どうやっても勝てない奴とは
喧嘩するより仲良くしておいた方がメリットが大きいと
皆が理解したことだな」
アンドリューの言葉に領主が笑いながら
「俺たちの時代には想像もつかなかった話じゃないかよ。
それだけレンとティエラって二人の存在がでかいって事だよな」
「ああ。全くその通りだ。あいつらの存在は極めてでかい。
こりゃ家以外にも何か考えてた方がいいかも知れないな」
アンドリューが領主の顔を見ながら冗談とも本気とも
とれない口調で言うと領主のヴァンフィールドは
「金はダメ、家は持ってる、地位には興味無い
何をしたらいいんだよ?」
「何もしないのがいいのさ」
領主の問いにあっさりと答えるギルマス
「あいつら2人を縛らずに好きにさせておけば
いいのさ。それが一番いい方法だ」
そう言うとヴァンフィールドも納得した顔で
「なるほど。元々自由でいたいって言ってたしな。
その通りにさせときゃ安心か」
「そう言うことだ。」
ミッドランドから戻って4日後
2人は久しぶりにギルドに顔を出した
知り合いの冒険者と挨拶を交わし
受付のキャシーの所へ行き
「今日からまた南のダンジョンに潜るよ」
「78階とか79階でしたっけ?」
「そうそう。79階でレベル上げね」
ティエラが言うとキャシーも
「LV74になるとレベル上げする場所も
ほとんどありませんものね」
「そうなのよね。ダンジョンの奥くらいしかなくて。」
受付のキャシーとそんなやりとりをしていると
そのやりとりを聞いていたカウンター近くにいる冒険者達は
「レベル74ってどんな世界なんだよ?」
「あのダンジョンの79階? 俺たちなら1撃で死亡だな」
などと口々に言っている。
「夕方には帰ってくる」
そう言って知り合いの冒険者と挨拶を交わしてから
城の外に出て、テレポリングで南のダンジョンの
入り口に飛ぶ二人。
ダンジョンの入り口の受付で手続きを済ませると
転送板で79階に飛んだ二人
目の前に広がる魔王城を模した内部の廊下を見ながら
「しばらくこのフロアに籠るぞ」
「長い間いたくないフロアだけど仕方無いわよね」
79階の階段を降りたところで通路の先には1体の魔人が
見えている。神獣の加護によって能力はアップ
しているものの、相手のレベルも上がっていると
言われていたので、2人は慎重に魔人に
近づいていく。
「うっ、気付くのが早い」
以前よりかなり前の距離で魔人がこちらに気付いた
「100メートル位か? 相手の能力も倍になってると
考えた方がいいな」
「そうね。でも倒したら経験値も倍かもよ」
「そりゃ楽しみだ」
大きな斧を振り上げてこちらに突進してくる魔人を
通路で待ち受ける二人。
ギリギリのタイミングで通路の左右に分かれて
レンに振り下ろしてきた斧をレンが剣で受け止めると
同時にティエラが魔人の腹に片手剣を払う様に
切りつける。
そしてよろめいたところを今度はレンが
片手剣で袈裟懸けに切りつけて絶命させる。
「一撃が重くなってるけど、何とか対応できそうだ」
「2回の攻撃で倒せるなら何とかなる?」
「たぶん。ただ複数体出てきたらどうかな」
目の前で光の粒になって消えていく魔人を見ながら
打ち合わせをしていく
「いずれにしても油断したら一発でやられるから
慎重に進んで行こう」
「時間はたっぷりあるしね」
その後の79階への階段を降りたところをキャンプにし
この日は通路に湧く1体のみを何度も倒していた
湧くたびに魔人のジョブが変わり、戦士系や盾系ジョブも
あれば魔法系ジョブの時もあり、それらに対応することで
2人は上位魔人との戦い方を試行錯誤しながら学習していった。
そうして79階の入り口で1体の魔人相手に様々な
討伐方法を実践したいたところ、3日目の夕刻。
2人のレベルはLV75にアップした。
「倒して得られる経験値も増えてるわね」
「ああ。これはモチベ維持にはいいな」
そのまま地上に戻り、ベルグードのギルドに
顔を出してギルドカードを受付のキャシーに
提示すると、
「LV75になったんですね。おめでとうございます」
「ありがとう」
ティエラが答えると、その言葉に続いてレンが
「ところで、他の冒険者達も順調にレベル上がってるのかい?」
「そうですね。上位転生条件がクリアになってからは
皆さんダンジョンにこもってレベル上げされてて、
順調にレベル上がってますね。
このギルドの実力も相当アップしていると思いますよ。
これもそれもお二人のおかげですね」
2人を褒めたあと、キャシーは
「ただ、皆さんダンジョンに行かれるので地上の魔物の
討伐する人が少なくなっていて」
「やっぱりそうなるか」
そうなるとは2人とも予想していたが…
「じゃあ、差し支えない範囲、他の冒険者のクエストまで
とる気はないので、私達が地上の魔獣の間引きを
するよ」
ティエラがキャシーに提案すると、顔色を輝かせ
「本当ですか? それは助かります。でも
地上の魔物倒しても余り経験値にならないんですが
それでもいいですか?」
「もちろん。住民や街に出入りする商人達が
安心して歩ける様にするのが目的だから、全然かまわない。
経験値は地下に潜れば稼げるしな。それにこっちは
急いでレベル上げする程でもないし。」
「そうね。お世話になってる街の人が困ってるなら
お手伝いするのは当然でしょ?」
「ありがとうございます。じゃあ明日お願いする
地上の魔獣の討伐のクエストをまとめておきます」
翌朝ギルドに顔を出すと、キャシーがクエストを
まとめておいてくれ、カウンターの上に用紙を広げ、
「取り敢えずこれがお願いしたいクエストです。
基本街の周囲の道路沿い、森にいる魔獣の討伐と
なります。魔石を持ってきていただければこちらで
クエスト終了の証明と買い取りをしますので。」
キャシーの説明を聞いてから
ギルドを出ようとするとそこにいた他の冒険者から
「今日もダンジョンかい?」
「いや。街の周囲の雑魚掃除だよ。皆ダンジョンに
籠ってるから地上の魔物の討伐が追い付かないらしくてな」
そう言うとその冒険者も
「いやぁ、地上のクエストもこなさないといけないとは
分かってはいるんだけどな。でも加護の元がダンジョンに
あるって聞くとな…」
歯切れの悪い口調で言うが、それに対しては
「こっちは俺とティエラで間引きしとくからさ。
別にあんただけの話じゃないから気にするなよ」
「悪いな」
そんな挨拶を交わして城の外にでる
「久しぶりだね。この辺りの探索も」
2人にとってはランクC、ランクDの魔獣退治は
何も問題がないので、ティエラはピクニック気分で
道を歩いている。
「俺たちには雑魚でも普通の市民や商人にとっては
強敵になるからな、しっかり仕事しようぜ」
暫く道を歩いてから探索スキルに導かれる様に
森の中に入っていく。
その後は集団で固まっていたゴブリンやオークを
次々と倒しては魔石を取り出し
また探索スキルを作動させて違う集団を探しては
討伐していく
途中で昼休憩をしたものの
その日だけでベルグードの周囲をグルっと回って
50体以上の魔獣を退治して街に戻ってきた
ギルドに魔石を差し出すとその数を数えたキャシーからは
「1日でこれだけ倒して頂くと助かります
ありがとうございます」
「あと2,3日やったら暫くは大丈夫かな?」
「そうですね」
そんなやり取りがあり、結局都合3日間、
レンとティエラは街の周辺にいる魔獣退治をして
相当数の魔獣の間引きを行った
3日目が終わった後、ギルドからはお礼の言葉と
3日間で倒した魔石の買取、クエスト報酬の提示が
あり、それを受け取った二人は
「じゃあ、明日からは俺たちもダンジョンにこもるから」
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