第三話『するぜ用意飲むぜ糖衣』
「ふぁぁぁ……」
僕はあくびをかみ殺しながら台所に向う。
妹の悪戯と、思春期の恋心のおかげですっかり寝坊した。もう、今更練習に出たところで学校に着く頃には皆が帰り支度をしてるころだろう。
今日は、ちょっぴり体調不良だってことで許してもらおう。
「あ、お兄ちゃんおっはよー。よく眠れた??」
妹が純真無垢な笑顔で聞いてくる。本来ならここで鉈かなにかを使って腹を横一文字に切り裂いて腸を取り出して天に掲げてあげるのが兄の正しい在り方なのだろうが……
「おう。もう今ままでぐっすりだ!」
このセリフに妹が、おかしいな?と言いたげな顔をする。やはり、こいつがクロだったか。
「まあいいや。あ、お兄ちゃん。お父さんとお母さんはもう仕事出たからね。ご飯、これ。」
「うお……なんじゃこれは……」
妹が差し出してきたのはなんらかの黒い塊であった。
なんじゃこれは。この世の悪意とか瘴気みたいなのを具現化して固めたのか?
「いやー、朝からハンバーグ作ってみたらちょっと焦げちゃって☆てへ☆★」
「ちょっとじゃねーだろ! 真っ黒とか通り越してんぞ! 夜よりも深い黒じゃねーか!」
「あ、詩的な例えだね! お兄ちゃんかっこいー♪」
こいつには何を言っても無駄だ……。まあ、可愛いから許すが……いかんせんこのハンバーグを食ったら確実に寿命が短くなる。死亡フラグがこんなに身近に立ったのは初めてだ。
「とりあえず、食べといてね! 私今から図書館行って来るからねー。んじゃ、後片付けは任せた☆」
「おい! 自分のぶんぐらいは……」
妹は、ウインクしながら走り去る。
そして、僕の目の前には妹の食べ終わった食器、そして黒い悪意の塊が残るだけであった……。
食後、文句を言いながらもしっかり後片付けをする僕は偉いと思う。
何気なく、テレビでもつける。夏休みということもあってか、ちびっこ向けなアニメが再放送してる。
そんなにアニメを見る方ではなかったが……懐かしいものもあった。
ふむ。
ちょっち、時間の潰し方に困るな……。
ダラダラとこのまま懐かしのアニメを見るのも悪くはないが……せっかくのいい天気。夏休み。勿体無いといえば勿体無い。
かといって……どこかに行くってのも……あてはないし……。
なにより、今日の丑三つ時イベントのために体力を温存しておかなければならない。
そういえば……詳細は全く知らないのだが……。後で田中(頭悪すぎ)に連絡でもすっか……。
一応眠っておこうか、それとものんびり漫画でも読みながら時間を潰すか……。
そんなこんなで漫画でも取りに行こうとしたとき、都合よく電話がかかってくる。
都合よく、田中(偏差値2)だった。うむ。すごい、都合がいいな。
『あーもしもし、俺俺。』
「俺俺詐欺ならお断りだぞ。」
『ばっか! 違う! 俺俺、田中だっての!』
「携帯なんだから見たらわかるよ。俺も後で連絡しようと思ってたところだから丁度いいや。あのさ、今日の肝だめしのことなんだけど……。」
『おお、俺もそのことで電話したのよ。とりあえず、待ち合わせは昨日もメール入れたけど2時な。丑三つ時だぜ!』
この、謎のテンションに少し頭痛がする。
『あ、あと、来るメンバーなんだけど井筒さんのほかにも山田や小谷とかもくるぜー。』
「マジかよ。すげーな。。。」
山田さんと小谷さんってのは……うちのクラスの女子で、まあ誤解を恐れずに言うとクラスの綺麗どころってやつだ。はっきり言えば可愛いのだ。
『男は俺とお前と西植と……あと何人かくるわ。もちろん女子もな。』
「結構集めたんだな?」
『せっかくの夏休みイベントだし、たくさんのほうが案外盛り上がるし、なによりこそーっといなくなても目立たないだろー。タクミちゃーん♪』
「ああ、お前が誰かに殺されてバラバラにされて埋められても誰も気付かない」
『くわー。せめてタクミちゃんは気付いてほしいね!』
「とりあえず、2時に何処待ち合わせだ?」
『とりあえず空港の近くのコンビニあんだろ?あっこの前で待ち合わせってことになってる。』
「あいよー。」
『あ、結構ややこしいところ通るかもしんないからサンダルとかじゃなくてスニーカー履いてこいよー。あと、何か面白グッズな!』
「お前がややこしいって言う所なんて絶対に行きたくないが……了解した。じゃあな」
電話を切る。
なんとも、思いのほかでかいイベントだったようだ。クラブに行ったら学校の友達とは夏休みでも会える。同じクラスの子も大抵はなんらかの部活に入ってるし……会えるっちゃ会える。
でも、それは夏休みでも皆は制服なのだ。まあ、学校なんだから当たり前だが。夏休みといえど制服だと、いつもと同じで味気ない。
しかしこうやってプライベートで皆が集まるとなると、私服だろうし、ちょっとドキドキするな。
間違ってもダサいなんて思われたくないぞ……でもまあ、夏だし……デニムにシャツとかだけど。
っていうか……面白グッズ??なんだそりゃ?
なんだろう。らっきょとか?
……ううむ。なんでもいいか。日の丸の旗でも持っていってやろう。おおいに邪魔になりそうだが。
空港、か……。
どこの町にも、どこの学校にも、七つ不思議やら怪談やらがあるもんだ。もちろんそれは僕の町も例外ではないわけで。
いわく、町外れの丘の上にある潰れた廃ホテルには恋人とのいざこざで飛び降り自殺した女の霊が出る。
いわく、満月の夜に市民プール近くでチュパカブラがでる。
いわく、稲荷神社に三日間毎日おいなりさんを持って行って願い事をすれば、結構叶う。
などなど。
三つ目のとかは結構って言ってるあたりがミソらしい。ちょいちょい、はずれるってことだね。わかります。二つ目のチュパカブラってのは、プエルトリコの妖怪みたいなもんさ。気になったら辞書で調べろ!
そんななかに、飛行場の話がある。まあ、空港だ。
うちの町には一応、飛行場がある。といっても、国内線なんかを細々と走らせてる小さな空港だ。いまだにプロペラ機が飛んでたりする。国内どころか、なにか次元の違うところに飛んでいってる感じだ。プロペラて……。
まあ、小さなセスナなんかも飛ぶ。小さい頃は結構飛行機を見に行ったりもした。ガキってのは、ああいうのに弱いもんさ。
そんな、こじんまりした空港だが僕が中学生になったあたりだろうか。とある事件が起こった。殺人事件だ。
すごく身近で起きただけによく覚えている。
空港近くに住む老夫婦が殺された。犯人は、強盗目的で家に忍び込んで見つかって、殺したらしい。そしてあろうことかバラバラにし、その老夫婦の遺体を空港の中のクローバーだらけの土地に埋めたんだとか。
犯人は捕まって警察に洗いざらい自供した。そして、自供した場所に、クローバーのしたに遺体は確かにあった。
一人だけ。
腐敗していて、バラバラになった遺体は見た目にどちらかはわからなかったそうだけど後にそれは奥さんだったことがわかった。
ならば、夫は?
犯人は間違いなく2人をそこに埋めたと言う。しかし、出てきたのは奥さん一人。
死人は、一人で動かない。バラバラになった遺体は歩けない。
夫は、バラバラになりながらも奥さんを探して歩きさまよってるらしい。毎日。夜になると。埋められた日から、毎日、昨日も、今日も、明日も……。
……なんていう怪奇ホラー。
しかし、この話も何処まで本当だろうか。実際にニュースになったのは老夫婦が殺されたってとこまで。空港近くで遺体は見つかったらしいが……片方の遺体しか見つからなかったとか、そのあたりは正直本当かどうかはわからない噂話だ。
でもまあ、火のないところに煙は立たないっていうし。思春期の僕達には充分刺激的な話ではあったので、語り継がれているわけだけど。
一応、塩とか持っていったほうがいいかしら……。っていうか、老夫婦、こんな遊び半分で行ってごめんなさい。でも、好きな子が行くっていってんだから……僕は……ある意味真剣だ!成仏してくださいまし。
僕は、南無阿弥陀仏とつぶやきながらいそいそと自分の部屋にもどり用意をして眠りにつくことにした。一応、たくさん寝とかないとなー。オールになる可能性のが高そうだし……。
寝つきがいいのが、僕の唯一の取り柄である。
何が言いたいかというと、もう、寝たってこと。
さあ、起きたら、空港近くのコンビニへ……GO!!!!!!!!!!!!!!




