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エテルナ ―星の涙と帰る光―  作者: Takeko
第1章 レイという名
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剣の授与

スターリットの森の広場に、春の光が差し込んでいた。


冬の冷たさはもう薄れ、苔むした地面には淡い緑が戻っている。

古木の根元には小さな花が点々と咲き、風が枝葉を揺らすたび、木漏れ日が静かに形を変えた。


この場所で、ユーマは剣を振り続けてきた。


足を取られ、肩を打たれ、何度も膝をついた。

それでも、立ち上がった。


木剣の乾いた音が、広場に響く。


踏み込む。

受ける。

流す。

返す。


以前よりも、木剣は迷わず動いていた。

ガレンの剣を正面から受け止めるのではなく、力を逃がし、足を動かし、次の間合いへ移る。


まだ届かない。


ガレンの剣は速く、重く、静かだった。

けれど、何もできないわけではない。


食らいつくことはできる。


ユーマは半歩下がり、肩口へ伸びてきた剣を外へ流した。

すぐに踏み込み、短く突きを返す。


ガレンの木剣がそれを受けた。


乾いた音が、朝の空気に弾ける。


数合。


やがて、ガレンの剣が止まった。

ユーマも木剣を下ろす。


息は乱れていた。

肩は上下している。

けれど、足は崩れていなかった。


広場に、静けさが戻る。


風が抜け、足元の小さな花がかすかに揺れた。


ガレンはしばらくユーマを見ていた。

その視線が、足元から構え、木剣の先へと移る。


やがて、低く言った。


「……十分だ」


短い言葉だった。

けれど、その中には、ここまでの時間すべてが入っているようだった。


ユーマは一瞬、息を止める。


すぐには、言葉が出なかった。


十分。


その二文字が、胸の奥に静かに沈んでいく。


ガレンは木剣を下ろし、小屋の方へ歩き出した。


「そこで待ってろ」


「……分かった」


広場に残されたユーマの手には、まだ木剣の感触がある。


春の光はやわらかく、木々の影が苔の上に淡く伸びていた。

ガレンの背中が小屋の中へ消えても、胸の奥は落ち着かなかった。


叱られたわけではない。

試されているわけでもない。


けれど、何かが終わり、何かが始まろうとしている。

そんな気配が、森の空気の中にあった。


しばらくして、ガレンが戻ってきた。


その手には、布に包まれた細長いものがある。


ユーマは自然と背筋を伸ばした。


目の前で足を止めたガレンが、短く名を呼ぶ。


「ユーマ」


「うん」


「開けてみろ」


差し出された包みを受け取ると、布越しにも重さが伝わってきた。


木剣とは違う。

稽古用に借りた短い鉄剣とも違う。


もっと深く、手の中に沈む重さだった。


ユーマはゆっくり布をほどいた。


現れたのは、一振りの剣だった。


飾り気はない。

鍔も柄も質素で、宝石や彫刻があるわけでもない。


けれど、刃はまっすぐで、まだ新しい光を帯びていた。

春の光を静かに返し、銀色の線が森の空気の中に細く浮かんでいる。


「……これ」


声が漏れた。


剣を手に取る。


重い。


けれど、ただ重いだけではなかった。

柄は手に馴染み、刃の重さが腕へまっすぐ伝わってくる。


これまで振ってきた木剣の日々が、別の形になって手の中に収まったようだった。


喉が、少しだけ詰まる。


これが、本物の剣。


しばらく見つめてから、ユーマは小さく息を吐いた。


「いいのか?」


少しだけ慎重な声になった。


ガレンの目には、いつもよりわずかな柔らかさがあった。


「ベルデ村の鍛冶師に打たせた」


静かな声が続く。


「俺が教えるべきことは、だいたい教えた」


「まだ荒い。迷いもある。力も足りねえ」


一拍置いて、ガレンは言った。


「だが、剣を持つ覚悟はできた」


ユーマは、剣を握る手に力を込めた。


いつものように足りないところを指摘されると思っていた。

けれど、今の声は稽古中のものではない。


区切りを告げる声だった。


手のひらに、確かな重みが残る。


「……終わりじゃないんだよな」


ぽつりと呟く。


「ああ」


その一言で、胸の奥が少しだけ落ち着いた。


終わりではない。

ここからだ。


ユーマは顔を上げた。


「ありがとう、ガレン」


声は大きくなかった。

けれど、まっすぐ出た。


ガレンは軽く頷く。


「礼を言うのは、使い続けてからにしろ」


「うん」


ユーマは剣を見下ろした。


「剣はな」


ガレンの声が、低く落ちる。


「持つ奴の心を映す」


風が、二人の間を抜けた。

木漏れ日が刃の上で細く揺れる。


「迷えば鈍る。折れれば終わりだ」


ガレンは一拍置いて、続けた。


「だが、折れなきゃ最後まで戦える」


ユーマは小さく頷いた。


初めて異獣を倒した時の感触が、腕の奥に残っている。


刃に絡んだ熱。

倒れた体。

朝の光の中でほどけていった薄い靄。


忘れたわけではない。


その上で、この剣を持つ。


ユーマは剣を鞘に収めた。

金具が、小さく鳴る。


その音は、以前よりもずっと重く聞こえた。


「軽く抜くな」


ガレンが言った。


「だが、抜くと決めたなら――最後まで貫け」


「……分かった」


剣を腰に下げる。


少しだけ位置を直す。

まだ慣れない。


それでも、不思議と遠いものには感じなかった。


この森で、何度も転んだ。

何度も打たれた。

何度も立ち上がった。


その日々の先に、今の重みがある。


春の風が、広場を抜ける。

木漏れ日が二人を包み、足元の小さな花がかすかに揺れた。


ユーマはもう一度、腰の剣に手を添える。


そこにあることを確かめるように。


その重みはまだ、自分には少し重い。

けれどそれは、これから背負っていく重さだった。


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