127 封印
白い炎が収まるとそこにはボロボロになったミナトが倒れ込んでいた。
もう戦えそうには見えないな。
「く…くそ…」
「終わった…のか?」
「ミナトから魔王の気配が消えました。恐らくハル様の女神の力で浄化されたのでしょう」
ルーナさんが教えてくれる。
純白の炎…女神の力。
魔王の魂すら消し去るのか。
見るとマリクの身体が足元から崩れ始めている。
「ミナトは本来普通の人です。禁術にて魔王の魂を錬成したことで人の身体を捨て、寿命以上に生き長らえていたのでしょう」
「その魔王の魂をハルが浄化したため…」
「はい。肉体が崩壊し始めているのでしょう」
人を辞めて闇に落ちた者は人として終わる事も出来なくなるってことか。
ふと見ると、ゼノンがミナトに近づいていき、
倒れ込んだミナトへ向かって声をかける。
「ミナト……俺は…」
「…黙れ。何も言うな…。謝罪も何も意味が無い。くそ…真なる魔王の魂さえあれば…」
真なる魔王の魂…。
俺がなぜか持っているものだな。
俺もミナトに近づき…
「もう終わりにしよう。世界を滅ぼした所で何も変わらないだろ?」
「お前さえ…お前の魔王の魂さえ……」
足元から身体が崩れているミナト。
このまま放っておいてもいずれ塵と化すのだろう。
最早救う術は無いと思う。だけどハルはそれでも救いたい、分かり合いたいと言ってたもんな…。
せめて…せめて最後は…
「ほら手を取れ。倒れ込んだままじゃなくて。まだ、起き上がれるだろう?」
俺は魔剣を右手に持ったままミナトに左手を差し伸べる。何かあればこの剣で俺が…トドメを。
「…何のつもりだ?」
「うちの女神さんはお前を救いたいと言っていてな。あの白い炎で焼かれてもお前そのものはこうして残ったのもそのためだろう。せめて…最後は人として終われよ」
「…人として…か。どこまでもお前らはお人好しだな…」
ミナトが俺の差し出した手を掴もうと手を伸ばす。
その時ミナトの目に怪しい光が灯った。
「……ユウキ様!!ダメです!!!その男はまだ!!」
後ろからルーナさんの叫び声が聞こえてくる。
「遅い!!」
「何を!?」
差し出した俺の左手へミナトが手を伸ばす。
俺の手を掴むのではなく…身につけていた腕輪へ。
まさか!こいつ!?
「この時を…(待っていた!)」
ミナトの声ともう1つ声が俺の頭の中に重なって聞こえる。
…アイツの…リクの声が。
「魔王の力は失っても!まだ僕には役割の力がある!逆錬成!」
次の瞬間俺の左手に着けていた腕輪が音も立てずに崩れ落ちる。
この世界に召喚された日にルーナさんにつけてもらった腕輪。
アイツの力を封じ込めるための腕輪。
腕輪が壊れた瞬間俺の中から黒い力が溢れ出てくる。
「ハハハッ!さぁ世界の悪意よ!この世界を滅ぼせっ!!器は完成しているぞ!」
俺の中が黒く染まっていく。
「こ…れは!あ…の時と…同…じ…」
身体の力が抜け立っていられずその場に座り込む。
「いけません!ハル様!ユウキ様を!」
「ユウキ!」
ルーナさんの言葉に反応し、
ハルが女神の光を放ち俺を包む。
「無駄だ!器は完成していると言っただろう!」
ミナトの言葉通りハルの光は虚しく四散した。
「ミナト!てめえ何をした!」
「くっははははっ!奴の封印を解いたのさ!精霊王があの腕輪で封印していたこの世界の悪意の塊をな!」
「どういう意味だ!?」
「あの男の中にもう一人存在していることはゼノンも知ってるのだろう?【世界を滅ぼすモノ】の存在を!あれはこの世界に裏切られた者たちの負の怨念!悪意そのものだ!!」
ミナトが話す間も俺の中が黒くなっていく…
身体が動かない…心も何も考えられなくなってきた…
「何故貴方がそれを知っているのです!私の事も含め!」
ルーナさんがミナトを問いただしている。
「【世界を滅ぼすモノ】から教えられたのさ!不完全とはいえ魔王の魂を持つことで僕にも繋がっていたんだよ!だから僕はこの時を待っていた!僕の力が不完全でこの世界を滅せないのなら…滅ぼせる力を暴走させればいい!魔王として完成した器であれば【世界を滅ぼすモノ】の力を思う存分使えるだろうさ!!!」
「なんて…なんて事を!貴方は何をしているのか、わかっているのですか!?」
「わかっているさ!この世界が滅ぶのさ!お前達が排除してきた悪意によってな!!」
ルーナさんがミナトを糾弾するが意に介していない。
「ユウキ!!今助けるからね!!前の時みたく直接ユウキに触れられれば!」
ハルが俺を助けるために走り寄ってくる。
「だ…め……だ。く………る……な」
もう…俺が俺じゃなくなる。
(その通りダ…貴様はもう眠レ)
意識が……闇に……溶ける………
俺の身体から尋常ではない黒い波動が放たれ、
ハルを含めたその場にいる皆を吹き飛ばす。
「キャァァァァッ!」
「ぐっ!」
「精霊達!皆さんを守りなさい!」
吹き飛ばされた皆をルーナさんの指示の元で精霊達がそれぞれの力を使い受け止める。
「…痛たた。…ユウキ…ユウキは!?」
ハルが俺の様子を探る。
「……長かったナ。ようやく…ようやく我の願いが叶う時が来タ。この世界を…滅ぼす時ガ」
そこに立っていたのはユウキであってユウキでない存在であった。




