雨上がりの町
雨上がり、朝霧に包まれた道を歩く私。
濡れた襟足。着崩れたシャツ。しわの入ったスカート。薄いストッキング。低いヒール──
平日の早朝にふらふら歩く私を見て人はどう思うだろう。
水商売の帰り。酔っ払い。男にフラれた。悪い男に引っかかった──
すれ違う人々は私を見ていないのか見ない振りをしているのか知らない。
繁華街を歩いている筈なのに私の目には建物が見えない。
山の合間をくねくねと曲がるアスファルトの道路を歩いている気分だ。
水割り。強いカクテル。夕べ飲んだ酒を思い出す。
初めて入った薄暗いバー。ジャズ風の音楽。黒いカウンター。顔を忘れたバーテンダー──
駐車場の片隅で目覚める。湿気で髪が重い。
ただ会社を辞めただけ。
隣の部署の課長と不倫していたのがバレた。
理由はそれだけ。
向こうは遊び、私も遊びで軽い気持ちだった。
いつも水曜日にラブホで休憩と言う名の逢瀬。
中年の彼の行為は優しかった。痛みは入れられた時だけ。それ以上の無茶は求めて来ない。
彼の笑顔は無邪気で頬は柔らかく、中年の男に良くある脂っこさやボコボコした感覚はなかった。
どこからバレたのか会社で噂になって彼は転勤、居づらくなって私は辞めた。
「あいつ如きの為に送別会なんてやらなくていいよ」
トイレから戻って来た時、上司が誰かに言っていた。私の事だと思った。
「私如きの為に迷惑をかけてすみませんでした」
最後の出勤日に上司に言った。
上司は「体に気をつけて」と営業スマイルで答えて取引先に電話をかけて商談を始めた。
そして一人で飲んで今はこんな状態。自業自得ね。
始発の次の便の電車に乗って帰る。
コンビニでパンとサラダと缶ジュースを買って帰宅。
シャワーを浴びて朝食。食欲は普通だ。
眠気が急に来る。そうだね。寝よう。
昼過ぎに起きてスマホを見る。
一時間に何通も来る迷惑メール。本当うざい。送って来る奴は射殺されたらいいのに。
ちょっとイラっとしながらカップラーメンに湯を入れてテレビをつける。
ワイドショーを見ながら昼食。
虚しいコメンテーターの意見。お前がドヤ顔で言ったら世の中変わるのかよ。
仕事探さなきゃ。実家に帰って仕事見つけようかな。
面接で何て言うの? 前の会社で不倫して辞めましたなんて馬鹿正直に言えない。
水商売か。私に出来るかな。やっぱり無理。
メッセージが来た。不倫した彼から。
『本当にすまない』
何度目のお詫び。
『謝らなくていいよ』と返す。
『来週の月曜、空いているかな。出張でそっちに来るんだ。いつものカフェで話そう』
まあいいか。それまでゆっくりしよう。時間はいくらでもある。
印象の良い履歴書の書き方でも勉強しようか。
ネットでエントリーだけでもしようか。
承諾の返信をして洗濯を始める。いつもの日常の音。
でも音がしているのは平日の昼。いつも仕事していた時だ。
日当たりが中途半端なマンションで部屋干し。乾燥機はない。エアコンで乾かす。
そんな午後を過ごしてコンビニで夕食を買って食べる。入浴して寝る。
会社を辞めた日と翌日はこんな感じ。いい一日じゃなかったのは確かだ。




