第1話:再ログイン先は「オダ」違い
1.「エグジット」の甘い夢
慶長十二年(1607年)。瀬戸内海、鞆の浦。
四十五年に及ぶ戦国プロジェクトを終え、俺――足利義昭こと佐藤は、人生の「利確」を迎えていた。
縁側で海を眺める。隣には、かつての「魔王」、信長。
「……最高の景色だな。これがFIREのゴールだ」
「奇妙な言葉ですが……悪くない終焉ですな」
意識が静かにフェードアウトしていく。
(これでようやく終われる。もう二度と、バグ対応(戦)も、仕様変更(主君の暴走)もない——)
完全なログアウト。
——のはずだった。
2.再起動の衝撃
『警告:未処理タスクを検知』
『二次アサインを開始します』
『Welcome back, Mr. SATO.』
(……は?)
次の瞬間——
衝撃。
「政貞様ァ!!」
轟音。悲鳴。血の臭い。
さっきまでの静寂は、完全に消えていた。
(……バグか? いや違う。これは——現場だ)
目を開ける。
燃える城。逃げ惑う兵。泥と血。
完全に“修羅場”だった。
自分が誰かに抱えられ、走らされていると気づく。
「おお! お目覚めになられましたか! オダ家の一大事にございます!」
(……オダ家?)
一瞬で思考が回る。
(また信長か。いいだろう。あいつのプロジェクトなら——)
だが、違和感があった。
装備が弱い。統制がない。
そして——旗。
風に煽られたそれに刻まれていたのは、
『小田』
「……は?」
織田ではない。
小田。
「……オダはオダでも、“格”が違うだろうが」
背筋が冷える。
3.絶望の確定
「殿を! 氏治様をお守りせねば!」
(……氏治? 誰だそれ)
脳内検索。
ヒット。
・戦国最弱
・九度落城
・愛されバカ社長
「……終わってるじゃねえか」
世界最大企業・織田グループではない。
ここは——
倒産寸前の零細企業、小田家。
しかも自分は、その筆頭家臣・菅谷政貞。
(よりによって、デッド案件かよ……)
4.愛されバカ社長のパニック
「政貞ぁぁ! 助けてくれぇぇ!!」
泥まみれの男が泣き叫びながら、こちらに縋りついてくる。
(……これが今回のCEOか)
「上杉謙信が来るんじゃあ! 小田城は燃え、家臣は散り散り……もう終わりじゃあ!」
(メンタルも終わってるな)
氏治は脇差に手をかける。
政貞は迷わず、その手を叩き落とした。
「勝手に倒産するな」
「は?」
「それ、ただの早まった損切りです」
「そ、そんぎり……?」
「社長が自己破産(自害)したら会社は終わりだ。まずは生き残る」
周囲を見渡す。
(資産ゼロ、負債過多、経営者無能……)
(……最高のクソ案件だな)
5.最初の経営判断:戦略的エグジット
「全員聞け!」
政貞の声が戦場に響く。
「これは敗北じゃない」
兵たちが顔を上げる。
「不採算部門を切り離しただけの——」
一拍。
「戦略的撤退だ」
ざわめきが広がる。
「城はまた取り返せる。だが、人とブランドは失えば終わりだ」
氏治の胸倉を掴み、引き寄せる。
「殿。あなたが会社だ。勝手に潰れるな」
「ま、政貞……」
「今すぐ土浦へ撤退する。撤退戦は俺がやる」
周囲に鋭く指示を飛ばす。
罠。陽動。情報撹乱。
即席とは思えない統制が、徐々に形を取り始める。
(FIRE後にこれかよ……)
泥と血にまみれた手を見下ろし、ため息を一つ。
(だがまあ——)
口角が上がる。
「再建してやるよ。この最弱企業」
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第1話・ステータス報告
•ログイン先: 永禄七年(1564年)、山王堂の戦い。
•現在のクライアント: 小田氏治(愛されバカ社長)。
•状況: 本社(小田城)喪失、倒産(滅亡)の危機。
•佐藤の現在地: 筆頭家臣・菅谷政貞。前作の「FIREの記憶」が、今の劣悪な環境をより辛くさせている。
【次号:第2話:ダメ社長(氏治)と過労死専務(政貞)】
「殿、泣き言を言う前に、まずキャッシュ(兵数)を確保してください!」
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また、歴史ものである本作とは別に、魔剣を手に戦う王女の復讐劇も書いており、戦記物としての熱量はそのままに、ファンタジーならではの逆転劇を描いています。
『魔剣に選ばれた王女 〜亡国から始まる反逆の戦記〜』
https://ncode.syosetu.com/novelview/infotop/ncode/n9418lx/
王女セリスと魔剣ノイエジールの戦いも、あわせて応援いただけると嬉しいです!




