第03話『ブリーフィング』
〝てるづき〟が横須賀を出港してから十二時間後の午前六時。
東の空に燦燦と力強く光を照らし続ける太陽が海から上がり、大海を移動する護衛艦を照らす。
護衛艦に休息の時はない。二十四時間常に稼働し続け、いついかなる時でも対応できるようにクルーたちは自分たちの仕事を全うする。
そんな中、〝てるづき〟出航から十二時間遅れて東京を出立したSH-60Kが、〝てるづき〟の航空機管制レーダーに反応を示した。
今いる場所は東京から二百六十キロほど離れた沖合だ。ヘリにとっては航続距離三分の一の距離で、離陸から一時間弱で追いついた計算になる。
護衛艦が十二時間かけて移動した距離をわずか一時間でヘリは移動してしまう。
その代わりに航行時間が短い。航空機は速度では勝っても、それ以外は船舶には負けてしまう。もちろんどちらでも優れている点と劣っている点があるため、片方だけがいいというわけではない。
なにより空を飛べる利点は何物にも代えがたい。
それは対潜ヘリを運用する海自はよく知っていた。
『CICより艦橋。SH-60Kをレーダーで確認。同時に着艦許可を求めています。送れ』
「艦橋よりCIC。着陸を許可すると伝えろ。終わり」
航海長が着艦許可を下す。
「……アメリカ駆逐艦は変わらずか?」
秋庭艦長は航海用レーダーの前に立つ士官に尋ねた。
「はい。本艦の後方十五海里を変わらずに航行しています。艦名はDDG‐115 ラファエル・ペラルタと分かりました」
「横須賀配備で最新艦か……」
変わらず〝てるづき〟は何のために指定された海域に向かっているのかわかっていない。横須賀に問い合わせても後に来る人員が来た時に説明がされるとして秘匿が続いている。
無線傍受を考えてのことだろうが、そこまで頑なに秘密にするなにかがあの海域にあると言うことだ。
だとすれば汎用護衛艦一艦では荷が重いのではないかと抱いてしまう。
ミサイル護衛艦の僚艦防衛として建造された〝あきづき〟型は、他の汎用護衛艦と比べて優れた防空能力を持っている。とはいえイージス艦と戦って勝つ思想で建造されてはいないから、同じ隊のDDG‐174〝きりしま〟の僚艦として行くべきではないかと考えてしまうのだ。
一体我が艦で何を成せと市ヶ谷は抱いている。
その答えがもうすぐ着艦する。
「SH-60K、本艦まで三海里」
「後部甲板に向かう。艦橋は副長に一任する」
「了解」
極秘任務に対する客人が来るなら、出迎えるなら艦長がしなければならない。おそらく階級も二佐以上だろう。
艦内を移動していると、現在当直のクルーたちが各々の職務を遂行している。
秋庭艦長とすれ違う際、クルーたちは敬礼をして秋庭もそれに答えた。護衛艦に限らず、軍艦に於いて艦長は乗組員の中では最も偉い。その艦長に敬意を払わないのは無礼に当たり、閉鎖環境下ゆえの規律を守る意味も込めて敬礼をさせ、そして返すのだ。
ヘリ着艦に合わせて〝てるづき〟は航空機着艦手順に入る。
速力を微速に落とし、風向きから着艦しやすい進路を取り、ベアトラップでヘリを捕らえて安全に着艦させる。
艦とヘリ、両方のやり取りを密に行って出来ることで、難しい作業の一つだ。
ヘリの着艦時刻を九時間も伸ばしたのも、人員の準備と夜間に着艦せず日が昇ってからの方がよいと判断したからだろう。
その間、秋庭艦長含め〝てるづき〟総員二百十五人は、情報の無い闇夜を過ごした。
乗組員は表情には出さないものの、自分たちは何のために移動しているのか気になって仕方ないはずだ。
艦長としてその不安と疑念は晴らす責任がある。航海に於いて一寸先が闇がどれだけ恐怖なのかは痛いほど知っていた。それは情報であっても同じで、その恐怖は時に適切な判断を鈍らせる。
極秘でも通常でも、任務を完ぺきにこなすのはその不安を払拭するのが重要だ。
秋庭艦長が後部甲板に着くと、ヘリコプター特有のローターと風切り音が響き、風圧で巻き上げられた海水の水しぶきが飛び交う。
本土から任務に関わる人員を乗せたSH-60Kは甲板から左舷の位置にある海上で滞空し、タイミングを合わせて着艦場へと高度を変えずにスライド移動する。
ヘリの底部には「RAST-J(通称ベアトラップ)」と呼ばれる固定装置となる突起物がある。まずそこからガイドワイヤーを甲板に垂らし、それを甲板にある巻き取り装置に担当員が固定をする。
その後、ヘリはバランスを保ちながら出力を落とし、ワイヤーを巻き取ることで着実に甲板内に着艦をさせるのだ。
凪ならまだしも、荒天時ではこのシステムによってヘリの離発着をスムーズにさせた。
ヘリと〝てるづき〟はワイヤーでつながれ、多少甲板から巻き上がった風でふらつきながらも、ベアトラップによって大きな動揺を起こすことなく甲板に着艦したのだった。
着艦したことでローターの出力は一気に弱まっていく。とはいえ高速回転する部分だから、完全に停止するまで数分と掛かる。生み出す風は猛烈で、ただかぶっているだけでは帽子などはあっという間に海に飛ばされるだろう。
ローターの回転が目に見えて落ちると、担当員が近づいてSH-60Kの側面扉を開けた。
最初に出てきた人物を見て、秋庭艦長は一気に気を引き締めた。
ヘリから出てきたのは統合幕僚監部作戦部幕僚長補佐の波川海将補だ。
統合幕僚監部作戦部幕僚長補佐。防衛省の中枢、全自衛隊の運用を統括する統幕の作戦部に属する将官だ。海将補は現場の艦長からすれば雲の上の存在で、通常なら顔を合わせることすらない。
その人物がわざわざ艦に乗り込むというのは、単なる哨戒や演習ではない。防衛省直轄、国家規模の極秘任務。少なくとも現場判断で終わる話ではなく、日本全体の安全保障に関わる何か、そのくらいの重さを意味している。
続いて防衛省の制服組一名と背広組二名の男女が三人降り、担当員に声をかけるとヘリから備品の入ったケースを下ろす。
波川海将補は風に煽られながらも、出迎えに来た秋庭艦長へと近づいて敬礼をする。
「艦長、出迎えご苦労。そして突然の緊急出航もだ」
「艦長として当然のことをしたまでです。そのために日々訓練しております。波川海将補、お会いできて光栄です」
「うむ。内容不明での緊急出航で色々と考えていることがあるだろう。それをこれから口頭で説明する」
「では、暗号通信含めて遠距離通信は避けるべき事案があった、と言うことですか?」
「そうだ。後方にいるアメリカ駆逐艦がその証左だ」
「分かりました。では士官室に案内します。副長も同席させてよろしいですか?」
「もちろんだ。公表するまでは戒厳令は出すが、その後にクルーに説明して構わない」
「了解しました。誰か、副長を士官室に来るよう連絡を。艦橋は航海長に一任すると伝えろ」
「了」
秋庭艦長は近くにいる隊員に指示を出し、波川海将補と三名を艦内にある士官室へと案内する。
他の三人も幹部なのだろう。風貌から分かる。
背広組男女一名ずつ。男性は四十代後半で、女性は三十代に見えるが若さに負けていない風格がある。制服組の男性は秋庭と同じ二佐だ。
要は全員が上級幹部で纏められている。
やはり重大な事案が起きたのだ。
間違いなく防衛省ではなく官邸の判断で動いているとみていい。
緊張感はあっても平和だった日常が音を立てて崩れる感じがする。
しかし、日本を守るために自衛官となり、護衛艦に乗っている以上、何が起きようと責務を全うする。
秋庭艦長は唾液を飲み込みながら通路を歩き続けた。
*
護衛艦に限らず、軍艦内部のトップは艦長である。
例えば総理大臣が護衛艦に乗り、一晩過ごすことになっても艦長は艦長室を総理大臣に明け渡すことはない。あくまで『護衛艦』の統率は艦長の責務であり、それ以上の上官は司令官として乗艦しない限り来賓として扱われる。
士官室の席順でもそれは現れ、海将補の統合幕僚監部作戦部幕僚長補佐が来ても座るのは右隣の来賓席となり、上座は艦長が座る。
「……まずは秋庭艦長、久坂副長、ろくな説明もせず単艦による緊急出航には苦労を掛けた」
波川海将補は座りながら労いの言葉を発した。
「いえ、自衛官たるもの、国防のためでありましたらいついかなる命令にも遵守します」
「そのために自分ら含め一同は訓練しています。文句を言う隊員はいません」
「それは何よりだ。ではこの船が今どこに何をしに行くのか説明をする。だがその前に自己紹介だ。私は波川圭吾海将補。統合幕僚監部 作戦部幕僚長補佐をしている」
波川海将補が自己紹介をすると、隣の制服組の男性に顔を向けた。
「自分は防衛省 情報本部 情報部 情報分析課 首席分析官。来須俊和二等陸佐。よろしく」
「私は防衛装備庁 技術戦略部 開発企画課 課長補佐の坂井則夫です」
「わ、私は防衛省 法務官室 法務官の手岸聖良です」
と、背広組の男女と自己紹介をする。
肩書きが長いが、簡潔に言えば指導者、分析官、技術者、法律家だ。
「自分は〝てるづき〟副長の久坂敏光三等海佐です」
「〝てるづき〟艦長、秋庭一輝二等海佐です」
六名の自己紹介が終わる。
「うむ。では改めて緊急出航と、私ら含め四人がここに来た説明をする」
波川海将補は、昨日の衝撃波から始まり、四国海盆海域に現れた謎の艦隊が、自称日本国国防軍天上自衛隊と名乗り、その艦隊は西暦2073年の異星の日本から来て、証拠として艦隊を宙に浮かせた映像を見せつつ説明をした。
「……なんすか、この映画が飛び出てきたような話は……」
あまりに現実離れした説明に久坂副長はぼそっと呟いた。
「副長がそう思うのは無理はない。私もこの話を笠原防衛大臣から聞いたときは疑ったよ」
波川海将補は苦笑しながら久坂副長に同調する。
「……ですが、海将補に本省の幹部が……言え、大臣に言われたとなれば今の説明は全部事実なのでしょう?」
秋庭艦長も内心は信じられることではないが、それを伝える人物の肩書きを考えると無理やりでも事実と認めるしかない。
そして否定したところでこれからすることは変わらないのだ。ならば事実として動くほうが無駄に考える必要がないから楽だ。
「それを確認するためにもじかに接触する必要がある。だから急遽〝てるづき〟に出てもらったんだ。相手の素性が分からないため危険が伴うが……」
「理解しました。では後方を航行しているアメリカ駆逐艦も?」
「だろうな。おそらくPX-2との会話を傍受したのだろう。あの会話は暗号化されていなかったからな」
「なるほど。それで我々に後れを取られまいと出したわけですか」
「中国、ロシア、フィリピン、インドネシアもこのことは把握しているだろう。とはいえ位置的に動けるのは日本と在日米軍くらいだ」
「横須賀は米軍の動きは把握しているのですか?」
「いや。奴さんの無断行動だ。いつものことながら身勝手なことだよ」
波川海将補は腕を組みながら愚痴をこぼす。
表向きは自衛隊と米軍は友好関係であるが、その実裏では色々と思うことはある。
手岸法務官が挙手をした。
「便宜上所属不明艦隊を天自艦隊と呼びまずが、天自艦隊はその言い分を信じれば日本出身であっても属する国がありません。帰国することが出来ない漂流者となり、そこをアメリカは突いて取り込もうとしてると思われます。歴史が異なるので日米安保が天自艦隊の日本にあるのかは不明ですが、適応されるなら取り込みやすいですね」
「要は、アメリカは未来で異星の技術を見たいし、物によっては欲しい。そして日本が独占するのが嫌だから横取りか共有しようって腹だろ」
「傲慢さなのは今に始まったことではないが、他国で好き勝手をする」
決して公の場で話してはならないことではあるが、思うところはみな同じだ。
もちろん米軍がいることで日本の安全が確保されているのも事実なのでもどかしい話ではある。
「ですが……」
来須情報官が口を開く。
「もし天自艦隊の技術を日本が手にして独占できれば、この日本を取り巻く状況を一気に変えることもありえます。佐々木総理は以前から対米、対中ではなく日本の独自路線を進もうとしていますからね」
「むしろ独占すれば軍拡とかして厄介ごとも増えそうですが」
「……未知との遭遇で話が盛り上がるのはいいのですが、いまするべきは妄想を膨らませるより現実に何をするかでは?」
段々と話が想像の域に達しようとしていくため、秋庭艦長はその流れを是正する。
「そうだったな。現状、我々がすることはおおむね三つだ」
話を戻し、波川海将補は三本指を立てる。
「天自艦隊の技術水準の差がどれほどか。来歴と目的、今後の方針。我々との関係性の構築と交流手段の確立。今回はまずはこれらをする」
「分かりました。それで海将補、〝てるづき〟は皆さんが来訪している間は遊弋をして待機でよろしいですか?」
「それでいい。そして艦長、君も来てもらう」
「私もですか?」
「そうだ。艦長が任務中に艦を離れることはないが、現場指揮官目線でも見てもらう。その間の艦の指揮は副長にしてもらう」
海自に限らず、軍艦の艦長が任務中に艦を離れることはほぼない。それは艦長がその指揮する艦の中でトップであり、艦の中で従事する乗組員全員の責任者であるからだ。
責任者が現場を離れては統制が確保できなくなるため、急病などでない限り航海中に船を離れることはないのだ。
「それは統合幕僚監部、作戦部幕僚長補佐としての命令ですか?」
「そうだ。艦の責任者として艦を離れることに反対であることは理解している。だがこれは政府の判断でもある。急な話だが引き受けてくれ」
「命令である以上拒否はしません。ただ確認をしたまでであります。副長、目的の海域に達したところで艦長権限を一時的に副長に委譲し、期間は我々が天自艦隊より戻ってくるまでとする。〝てるづき〟を頼んだ」
内心どうあれ、命令を出されれば拒否権はない。秋庭艦長は同意して久坂副長に艦長権限を委譲する。
「承りました。責任をもって艦を任されます」
このためではないが、やむを得ない理由で艦長が操艦出来ないとき、艦を任せるのが副長の役目だ。久坂副長も常日頃この事態を想定しているため艦長権限委譲はすぐに終わった。
秋庭艦長は上が用意した天自艦隊の資料を目に通し、三つのすることについてイメージを高める。
「……日本国防軍、天上自衛隊隷下、第一次恒星間転移派遣隊。海将補、国防軍と天自艦隊は言っていますが、これは正規軍と判断してよろしいのですか?」
「官邸でもそこは注目していて、意見は真っ二つだ。国防軍としながら自衛隊とも名乗っているからな。正規軍なのか自衛隊なのかどっちなのだと総理含めて意見が割れてる」
「それなんですが、法的に軍隊として他国が扱うのであれば承認された国家がいなければなりません。そうでない限り軍隊と自称しても武装勢力として扱われるので、端的に言えばテロ組織ですね」
手岸法務官が解説する。
「海将補はどちらと?」
「解釈込みなら正規軍だと思っている。天上自衛隊はおそらく陸海空軍の意味として継続した、と言ったところだろう」
「それも含めて確認するべきですね。正規軍とするなら専守防衛を厳守してるのかも気になります」
「自衛隊を名乗っている以上、根底は変わっていないと願いたいな。数十万トンとあろう空母を軽々と浮かす技術力だ。それなりの兵器も持っているだろうから、有事になれば大問題になる」
「あれだけの質量を安易に浮かせられるなら、単純に相当の物体を高硬度の空から落とすだけで核兵器並みの威力にもなりますからな」
坂井技術官の言う通り、基礎技術が高ければ比例して武器類の質と破壊力も上がる。
浮遊技術が天自艦隊にとって普遍的なものだとしたら、装備している武器類も相応の物と言えるのだ。特定の国のように攻撃が安易であると対応は慎重にならないといけない。
「とはいえ、無許可で来たのは天自艦隊の方だ。別世界で、異星を過ごした未来の日本だとしても、日本気質は変わっていないことを祈ろう」
ここでどれだけ議論を重ねても、昨日のPX-2とやり取りした会話と映像しか情報がないので妄想の域を出ない。この先に行くには直に対話をするしかないのだ。
「海将補、最後の確認です。おそらく後方の米海軍のラファエル・ペラルタはどこかのタイミングで本艦か防衛省経由で接触を試みようとしてくると思われます。その時、日本はどう対応を?」
「不本意であるが日本に拒否権はない。言質は取らせないが、決定権があるとすれば天自艦隊にあるとして丸投げする方針だ。直で来た場合でも決定権はないと逃げていい」
同盟関係、日米安保、政治経済と少しでも圧を掛ければ日本は従ってしまう。だが日本は政治的逃げには定評があるため、うまいこと可否は自分たちではなく天自艦隊に向けて回避する方針だ。
「分かりました。通信士にはそのように返答するよう指示を出しておきます」
「ではこれにてブリーフィングを終了する。艦長、天自艦隊まで十海里になったら呼びかけ開始だ」
「分かりました」
通算二時間掛かったブリーフィングは終わり、秋庭艦長と久坂副長は波川海将補に敬礼をして士官室を後にした。
「副長、天自艦隊まで五十海里に近づいた時点で対潜監視態勢を強化せよ。水上艦はラファエルだけでも、潜水艦が僚艦として近づいてる可能性がある」
「了解。ですが、いたとして攻撃しますかね」
「どこの国であっても攻撃はないだろうが、余計なことをされて天自艦隊に動かれる方が面倒だ。監視してるぞとけん制して黙らせる」
〝てるづき〟の属する〝あきづき〟型と後継艦である〝あさひ〟型は対潜を得意としている。どちらかと言えば〝あきづき〟型は僚艦防空を重視し〝あさひ〟型は対潜に重視しているが、どちらも対潜では世界屈指の対応能力を持つ。
海で最も恐れるのは海中を静かに移動する潜水艦で、目に見える水上艦より音でしか探知できない潜水艦の方が脅威だ。
いつどこにいるのか分からないため、水上艦にとって潜水艦は常に最優先で対処すべき脅威とされる。
だから潜水艦に余計なことをさせないように、目を光らせていると知らせる必要がある。
専守防衛を守るなら天自艦隊は手を出さずとも、手岸法務官の言う通り非公式の武力勢力なら危険として攻撃をして、その攻撃を引き金に反撃をする可能性がわずかだがある。
それを止めるための必要な指示だ。
秋庭艦長と久坂副長は揃って艦橋へと上がる。
「艦長、副長、上がられまず」
艦橋に入ると当直士官が号令を出す。
久坂副長は艦橋左側の青いシートカバーが掛かった副長席に座り、秋庭艦長は艦内放送が出来るマイクの元へと向かった。
艦内放送で、この艦がどこに向かい、何をするのかをクルーに伝えるためだ。
「こちら艦長。全クルーに達する」
秋庭艦長はマイクを手にし、今さっき知った未知との遭遇任務を話した。
護衛艦は海を進む。その先に何が起こるのか不安を背負いながら。