第11話『対面会議』
横須賀基地庁舎にある一室の前に秋庭は立ち留まった。
掲げられているプレートには総監室と記されている。
佐官で艦長と言う上級幹部になると基地のトップである総監と話をする機会が増えるが、それでも緊張はするものだ。
会社で言えば子会社の部長が社長に会うようなもの。しかも超巨大企業の子会社だから、その子会社自体規模も大きい。
小さな会社のように距離が近いわけではないから緊張はぬぐえない。
それでも来るように言われているから、秋庭はノックをして取っ手を回した。
「秋庭二佐、ご指示により来ました」
「入りたまえ」
総監室には海上自衛隊横須賀地方総監の朝間栄太海将が一人おり、秋庭が入ると目線をノートパソコンから向けた。
「秋庭二佐、急な呼び出しご苦労」
「いえ。自分に何か御用でしょうか」
「ある程度察しはついていると思うだろうが、今朝総理が公表した天自艦隊への対応についてだ」
直近の行動から呼び出されるとなればそれしかない。
「実際に天自艦隊に接触したのは自分たちですので」
「その通りだ。秋庭一輝二等海佐、本日正午をもって〝てるづき〟艦長の任を一時的に解き、この基地に設置される『所属不明艦隊対策班現地調査室』付を命じる」
「拝命します」
秋庭は下命について即座に返答した。
辞令と拝命の一連の行動は一種の儀式で拒否権はあってないようなものだ。佐官クラスになると上からの辞令に反射的な対応はするだけ無駄となる。
質疑応答はのちにするとして、まずは辞令を拝命をして儀式を終わらせた。
「詳細なことをお聞きしてもよろしいですか?」
「なんだ?」
朝間総監は辞令内容が入っている封筒を差し出し、秋庭は受け取りながら質問をした。
「後任の〝てるづき〟艦長は副長の久坂が?」
「そうだ。ただ、この人事は一時的なもので終了後にはまた艦長に戻ってもらう。だが秋庭二佐は〝てるづき〟に残り続け、今後の指示で天自艦隊へと出向いてもらうらしい」
「実際に接触したのが〝てるづき〟だから、また行くとなればそれしかありませんね」
「別世界であっても異世界ではないから、指定の場所を伝えれば天自艦隊は自ら向かうだろうが、そこは当事国として主導権を持っているようにしたいのだろうな」
印象的に天自艦隊はこの世界を知らないようなイメージを持ちやすいが、向こうもまた数日前までは『日本』にいたのだ。どこに来てもらうにせよ地理的乖離がないなら伝えれば自ら来る。それでも護衛艦を派遣することは、日本が先導して動いていることを内外に伝えるためだ。
そうすることで、技術的に向こうが優れていても本質的には日本が判断しているとなる。
「ちなみにその現地調査室の他のメンバーは、先日天自艦隊に同行した波川海将補の方々ですか?」
「そう聞いている。それに天自艦隊には君の孫娘がいるそうじゃないか。ならば外交上君以上に適任者はいなかろう」
「やはりそこですか」
秋葉典子。DNA鑑定で生物学的に孫であることが証明された。
父となる息子より年上の孫とはフィクションさながらの状況だが、天自艦隊と強い接点を持っている事実は、今の政府からすれば見逃せない点だ。
「個人的に実感はありませんが」
「それはそうだろう。SF映画みたいに宇宙やら異世界から自衛隊が来て、しかも孫娘が乗艦していたとなればな」
秋庭はそれなりに創作物は見てきた世代で、SFでもファンタジーでも、近年流行している異世界ものも知っている。
それでも別世界の日本が国土ごと異星に渡り、五十年の時間を経て自衛艦隊が転移してくる話は聞いたことがない。ましてや子孫が乗っているなんて猶更である。
「政府は天自艦隊をどうするのでしょうか」
「分からん。距離を置いて元の世界に帰れるよう協力するのか、技術供与を受けて協力をするのか。または吸収してわが自衛隊の一部にしてしまうか」
「最初の二つはありえても、最後は無理でしょうね」
「同感だ。向こうは向こうで従うべき主体があるからな。『日本』であっても異なる以上は受け入れないだろう。ましてや過去の日本に従うのはプライドも許さないだろうからな」
簡単に言えば、現代の自衛隊が大日本帝国に従うようなものだ。同じ日本であっても受け入れるのは難しい。
「だがこの事案は今まで以上に政治的問題を抱える。安保理も動くだろう」
「未来の技術となれば大国は黙ってませんからね」
「だとしても我々の仕事はこの国を守ることだ。政治的問題は付きまとってもそれは変わらない」
「はい。ちなみに〝てるづき〟艦内では私の立ち位置は対策班に属するので指揮系統からは外れる、でよろしいですか?」
「オブザーバーまでだな。艦としての判断は久坂三佐にしてもらう」
「意見は言っても判断は艦長、ですね」
自衛隊として指揮系統は厳守せねばならない。艦長としての任は解かれても、元艦長がいれば意見は聞きたくなる。が、あくまで意見を聞くだけで責任を持って判断するのは現職艦長だ。
そこを崩せば軍は軍でなくなる。
「細かい任務内容は室長となる海将補から伝えられる。二佐は引き続き〝てるづき〟で待機だ」
「分かりました」
「前代未聞の任務だが、完遂してくれ」
「全身全霊で対処します。それでは失礼します」
秋庭二佐は総監に一礼をして総監室から退出した。
「さて、どうするか」
自衛隊としての任務なら段取りはすぐに組めるが、これは枠組みから大きく逸脱する。それゆえに段取りを組もうとしても正しいかどうか常に疑問が湧いてくる。
方針は中央が決め、その方針を現場が実行する。それ自体は自衛隊の指揮系統と逸脱しないが、その内容は大きく違う。
海外派遣も任務の一つだから、海外の海軍との交流という外交は幾度と経験している。
しかし、今回は別世界の日本の自衛隊だ。他の地方方面隊との対応でいいのか、諸外国の海軍との対応でいいのか考えてしまう。
言葉は日本語。規律も軍となっても自衛隊の延長戦。人々も日本人。
違うのは世界と時代。
ジェネレーションギャップやカルチャーショックはまだしも、異星を経験したとなればどうマナー違反になるのか分からない。
向こうもそれは承知しているから気落ちする必要はないだろうが、自分が先陣を切って接触するとなれば責任は大きい。
「……まあ、やるしかないか」
どう悩んだところで手探りであることに変わりない。向こうも同じだから、初対面同士失敗と和解を繰り返しながら適解に歩み寄っていくだけだ。
秋庭はそう前向きに考え、船に戻る時間を伝えるべくスマホを操作したのだった。
*
天自艦隊所属、旗艦〝かが〟会議室。
世界転移をしてから三日目。
十隻からなる天自艦隊の各艦の艦長が一堂に会していた。
普段は利便性からリモートによる対話を行うが、重要な会議を開く場合は対面で行うことを義務付けている。これはリモートだからによる人に対しての希薄さを防ぐためだ。
画面越しの目線と実体での目線では伝え方が異なる。それによる意思の疎通の阻害を防ぐため、艦隊全体に関わる会議では集まることになっていた。
海自時代であれば艦から艦への移動はヘリやボートを使うため数十分と掛かり不都合だが、レヴィロン機関を使えばリフトまたは生身で十数分で移動ができるから苦労はない。
そうして艦長十人と幕僚部群司令、政治部代表部が集まる、文字通り天自艦隊のトップが集まった。
天自艦隊は本国から切り離されたスタンドアローンによる運用を目的に作られたあるため、従来とは異なる運用となっている。
天自艦隊に属する護衛艦六隻。補給艦二隻。隊員の居住と慰安を目的とした宿泊船二隻。各艦を指揮する艦長。艦隊全体を運用する幕僚部と司令官。諸外国と直接外交をする政治部代表。
こうした構成で成り立ち、政治部代表、群司令官。各艦長の順に指揮系統が守られているのだ。
「では会議を始めましょう」
新政代表は柔和な笑みを浮かべながら宣言をした。
「小口群司令、この三日間を過ごして隊員の様子はどうですか? 体裁や面目は考えず率直な反応を聞かせてください」
新政代表は事実を捉えたく、つい批判を避ける返答になりがちになるのを防ぐ。
「報告に上がっている限りでは個別の不安を口にする隊員はいますが、全体では落ち着いています」
各艦からヒヤリングを行い、それを艦長に集めて幕僚部へと情報が伝えられる。
「食料を含め消耗品の消費量は予定通りですか?」
「食料の消費量は規定値通りです。医薬品をはじめとした消耗品は三日目ということもあり、目立った消耗はありません」
さすがに三日目では大きな消費は発生しない。
天自艦隊の護衛艦の燃料は全艦核燃料棒を利用したレヴィニウムによるオール電化なため、旧型護衛艦のような燃料消費もない。あるのは隊員の燃料たる食糧だ。
補給艦〝くりこま〟〝ふじみ〟には艦隊に必要な物資が貯蔵されている。戦闘があったと加味しても二年間は無補給で艦隊を維持する前提だから、三日目では大きな障害にならない。
しかも1987年から分岐が始まり、2019年で独立したとはいえ同じ日本がいる現状、備蓄に関して不安を抱くことはないだろう。
昨日の佐々木総理との秘密会談でも好意的なのは確認済みだ。政治的懸念は残しても食糧問題は大きくする必要はない。
やはり注意すべきは隊員のメンタルケアだ。
「各艦の艦長は隊員の精神面でのフォローを全力でお願いします。本来ならアメリカに出向いて交渉となるところがとん挫してしまい、本国からの転移援助も帰還への保障も途絶えて内心不安になっていると思います。万一暴動が起きて秩序が崩壊すれば一瞬です。抑圧ではなく話を聞き、適度にガス抜きをして守ってください」
新政代表の指示に群司令をはじめ各艦の艦長はうなずく。
「では本題に入りましょう」
まずは艦隊全体の報告と共有を行い、対面会議による本題を代表は切り出した。
「昨日のこの世界の佐々木総理との会談で、概ね肯定的な意見はもらっています。個人的なことで正式な談話ではありませんが、最終的なセーフティーはあると見てください。その上で、我々はどこまで情報を開示するべきかを決めます」
現状、天自艦隊は安全と生存は問題ないが、当初の任務と帰還が破綻している。任務の遂行は困難で、目指すは振り出しに戻すべく元々の日本への帰還だ。そのためにはこの世界の支援が不可欠で、必然的に培ってきた技術を提供しないといけない。
しかも支援を受けたとしても帰還できる保証はなく、時間が経てば経つほど流出する情報も増える。
この世界に於いて天自艦隊が所有する技術は百年二百年は先を行くものだ。天自艦隊の日本は惑星フィリアという条件があったから時短できたが、それがなければ百年単位で時間がかかるだろう。
そして百年も時短する技術発展は、自滅へのカウントダウンも縮めてしまう。
熱を電気に変換するレヴィニウムでさえ、この世界では覇権レベルの物質だ。情報を手に入れるだけで戦争もあり得るから、おいそれと伝えるにはいかない。少なくとも新政代表は一人の人間としてでも責任の重さから躊躇してしまう。
「代表、まずは統一意見として我々は元の日本に帰還するを主任務にするでよろしいですか?」
最初に口を開いたのはDVM-190〝かが〟艦長の藤崎一佐。
「私はそう考えています。物理的転移のはずが、次元と時間の転移が起きた原因を究明し、一旦母国に戻って再度出発するのが筋と考えます。もしここから元の世界の地球に行っても、母国では混乱が起きているでしょうし、まずは帰還して報告。再度実証試験を経て地球に転移するかを判断するべきと考えます。まずはそこの決議を取りましょうか」
ここにいるのは天自艦隊の責任者だ。民主主義に則り、多数決を取って方針を整える。
「我々天自艦隊は元の世界に帰還をするか、挙手をお願いします」
艦長、群司令、代表の十二人全員が手を挙げた。
「では、この世界から元の世界の地球に向かうか、それとも母国に帰還するか。地球に向かうべきと考える方は挙手を」
挙手四人。
「過半数に達しなかったので、まずは母国に帰還することを主任務に変更します」
通常の国会と違い、人数が少ないから全体決定が早い。
「次に支援を求める国。ここは日本一択、と言いたいところですが、他の国を勧める人はいますか? もちろん各々の意見は尊重します」
「自分ですが、自分はアメリカのほうが短縮になると考えます」
挙手をして意見を述べるのはDDG-193〝あさま〟艦長遠目一佐。
「自分たちと違ってこの世界では日米同盟がありますし、国連の安保理もあります。日本に支援を求めても横やりが必ず来ますし、転移二日目で米海軍が来たし中国の魚雷も撃ってきています。どうせ日本を飛び越えてアメリカに行くなら、最初からアメリカに求めた方が早いと思います」
愛国心はないかと言いたくなるが、この世界の日本と自分たちの日本は別だ。思うところはあれど冷徹に考えると飛び越えた方が合理的なのは理解できる。
理解できるからその意見を頭こなしに否定することはしない。
「私は日本に求めるべきと考えますね。遠目艦長の意見も分かりますが、日本ならフィルターとして情報の制限ができます。もしアメリカに我々の技術を吸い上げられると改善改悪どちらもやりかねません。その点、日本なら憲法もあって民生品をメインに使うでしょうし、暴走しようものなら内外からの圧力で止まるかと」
DDG-194〝たかね〟女性艦長の手塚一佐が反論する。
「俺も手塚艦長と同じだ。利害や国益があってもあの先にあるのは日本だ。自衛隊だ。味方なのに頼まないのはどうかと思うね」
DDG-195〝しらね〟艦長轟木一佐が追い打ちをする。
「各々独自の意見を持っていてなによりです。日本に支援を頼むか他国に頼むか、議論は続けたいところですが、ここはディベートで意見を変えさせる場ではなく、全体の意思を統一する場です。ですので、各々日本か他国、どちらに支援を求めることが良いのかを考えて判断をしてください」
遠目艦長がアメリカに支援を求めるのも、手塚、轟木艦長が日本に支援を求めるのも間違いではない。そして正解でもない。決断の先にどう結果が待ち受けているのかは分からず、一寸先は闇は五十年前の日本が国家規模で経験してきた。
どのような選択をしようと、選択した先の対応が重要なのだ。そのためにはバラバラな意見ではなく、相反する意見だろうと選択した方針に従う統一意見が必要なため、新政代表はそのことを強調して判決を取る。
約二十分ほど時間をかけて各員の主張を伝えあい、支援を求める国をどうするかの決議を取った。
さすがにどこにも支援を求めず、艦隊のみでゲートを建設は知識と技術者はいても資源と設置場所がなければどうにもならないため、その主張をする人はいなかった。
果たして決議が九対三となり、この世界の日本に支援を求めることで統一された。
「では、まずは母国に帰国することを主任務に置き換え、帰国するための支援をこの世界の日本に依頼することとします」
新政代表が会議で決まったことを公言することで、天自艦隊全体の意見として統一された。
「続いては我ら天自艦隊の基本方針ですが、これはいついかなる状況でも本国の憲法を順守します」
この決定に異議を唱える人はいない。ここを安易に変えてしまっては文字通り武装勢力に成り下がってしまう。
主体となる本国日本はこの世界には存在しなくとも、天上自衛隊が属する国家は存在するのだ。その国家の指標を無視することは艦隊が壊滅してもしてはならない。
「我々が武器を使用するのは自分たちの身を守ることのみ。脅威を排除するために身を守る以上の攻撃は行いません。これは厳守してください」
「少なくともこの世界の武力でコクーンを突破することは核兵器以外ありませんので、通常の対空対潜で問題ありません」
「強いて言えば生身で来る潜水部隊だろうが、エミエストロンを含めた探索網を超えてくるのは至難の業だ」
「ですが、それをするのが人であります。いくら低いとはいえ可能性があるなら無視はしないようお願いします」
事実、天上自衛隊も二度に渡る紛争で可能性が低いことを無視せず行動したことで勝利した実績がある。装備面で優れているとはいえ、慢心して無視すれば足元を掬われる。
「小口群司令、この世界の日本以外の国の動きはどうなっていますか?」
「はい。アメリカ海軍〝ラファエル・ペラルダ〟帰還後、韓国、インドネシア、オーストラリア、フィリピン海軍の駆逐艦が二万六千ヤード(二十四キロ)付近を航行しているのを確認しています。ですが無線交信はありません。偵察と言ったところかと。航空機はありません」
「まだ素性を発表しただけでどこも方針を示していなければ露骨な動きはしませんね。支援を求めると知れば勧誘も来そうですが」
当事国である日本と、同盟国のアメリカはともかく、周辺諸国の動きが鈍いのは天自艦隊の本質が読み解けていないからだ。どこから来たのか分かっても、その本音や本質が不明では取り入れるわけにはいかない。しかし、国防と国益を考えれば無視するわけにもいかないから偵察はしたのだ。
「もし他国から連絡があったとしても、方針が定まっていないとして取り扱わないようお願いします。下手に現地を取られて面倒が増えるのは困りますから」
天自艦隊は日本と交流を結ぶ。そこに他国が割って入られると泥沼化する。
示唆を含めて言質を取らせないのが政治的防衛策だ。
「代表、今後日本にしろアメリカ、国連であれば安保理でしょうが、支援の見返りを求めます。どこまでをお渡ししますか?」
「ある程度の情報の開示はしますが、エミエストロンだけは一切の開示をしません。あれは社会を崩壊に追い込みますから」
この決定にも反論はない。
エミエストロンは最初の戦争時に敵側が使用して苦戦を強いられた。今は天自艦隊を含めて日本がそれを使用しているが、これは使い方次第で社会を滅ぼすため何があっても渡すわけにはいかない。
ただ、エミエストロンは資料の中の時系列上記さなければならないため、サイバーテロと茶を濁したうえで徹底的にその単語は排除している。
少なくともエミエストロンが知られそうになる時には自滅の道を選んででも葬り去らなければ、この世界の地球は早晩に滅ぶだろう。
「まずはレヴィニウムの精製法に限り、日本の管理に一任するのが良いと私は考えます」
新政代表は昨日佐々木総理と会談した内容を意識しつつ案を出す。
天自艦隊が抱えている技術水準と現代の地球の科学水準と比べてランク付けをつけると、エミエストロンは絶対にできず、転移技術のペオは高ランクで供与するにしても後半だ。今すぐするとなれば汎用性がずば抜けて高く、地球温暖化に貢献できるレヴィニウムが妥当という判断である。
「……私は製法ではなく現物の一部にすべきと具申します」
AOE-430補給艦〝ふじみ〟艦長青木二佐が挙手をして止める。
「現物であれば仮に一部が流出しても調べるのに時間がかかります。エミエストロンで流出した情報を止めることは出来ますが、広く流布してしまうとエミエストロンの存在を示唆してしまいます。ですので知識よりは現物にしてブレーキを掛けるべきと思います」
青木二佐の意見には合理性がある。時間を掛ければ成分から製造法を導き出すことは出来る。実際本国でもそうしてフォロン含めて製造している。
現物を渡すだけでなく、知識を教えて作らせるのは支援としては中長期と時間がかかっても有効的だが、今回は逆の意味となる。
「皆さんはどうでしょうか。現物か、知識か」
決議を取ると現物が過半数を超えた。
「では見返りを求められたら持参してきたレヴィニウムを百キロ渡すとしましょう。研究機関で調べるには十分でしょうし、他国が求めるには少ないと言えます」
ひとまず当面の基本方針はこれくらいで十分だろう。
「……これは憶測ですが、近々日本政府は我々に移動を願うと思います。おそらく硫黄島」
「その根拠はなんです? ここよりも本土から遠いですが」
「航空機の離発着ができ、自衛隊しかいない島であれば民間人の苦情がありません。気楽に本土と行き来できる距離ではありませんが、陸地に近づけるならそこが適当です」
今いる海域は本土から五百キロ離れ、硫黄島は千二百五十キロ離れている。倍以上離れることになるが、陸地に妨害なく近寄れるメリットは大きい。
本土から離れ、民間人がいない硫黄島は、様々な思想から堂々と動けない天自艦隊にとって唯一無二と言えるほどの場所なのだ。
「それにペオを建造するにしてもやはりそこが適任と思いますし、佐々木総理や笠原防衛大臣ならそこを選ぶと信じられます」
史上最大の苦難を乗り越えた時代の二人を知っているからこそ、新政は断言出来た。
「今すぐの話ではありませんが、いつでも移動できるよう整備と警戒をお願いします」
以上をもって対面会議は終了となった。
艦種まとめ。
DVM-190〝かが〟 艦長、藤崎
DDG-193〝あさま〟艦長、遠目
DDG-194〝たかね〟艦長、手塚
DDG-195〝しらね〟艦長、轟木
AOE-430〝ふじみ〟艦長、青木




