04-02.魔導少女、錬金術を学ぶ
その日の学院の話題といったら、教師ライラスについてだった。
イルマが弟子入りを申し出た翌日に、ライラスは不潔に見えたフケだらけのもじゃもじゃの髪の毛を全部剃り上げてきた。
さらに、いつ洗濯したのか分からないような着古しの研究衣を新調し、あまつさえ靴まで新品を買いそろえていた。
「ライラス先生、どうしちゃったんですか?」
校内で噂になっていることは朝から知っていたが、授業が終了した後に研究室を訪れてイルマは思わずそう尋ねてしまった。
「心境の変化というやつかなあ」
ライラスは苦笑いをして言った。
「今まで他人にどう思われようと気にしないと思ってきたんだけど、君に嫌な思いをさせたくはないと思ったので」
「清潔感があって前よりいいと思いますよ」
イルマは素直にそう答えた。
「それはよかった」
ライラスはそう言って笑った。
「魔晶石の作り方を学びたいということだったね」
ライラスの問いかけにイルマはこっくりとうなずいた。
「学院のほうから何か問題視されるといけないから、僕の研究を手伝ってもらうという形で校長には報告している」
ライラスはそれから、少し言いにくそうに言った。
「その……、僕のほうに他意は無いんだが、男女が二人で密室に毎日となるとあらぬ疑いをもたれるかもしれない。君と同郷のタモツくん、ヴィーツくんも一所に連れてきてはどうかな?」
「え? いいんですか?」
イルマは内心喜んだ。それでいいなら話は早い。
「ただし、魔晶石の作り方を学ぶということについては他言無用だ。高度な魔導の手ほどきを、特定の生徒にだけ贔屓して教えているとなると僕も教頭からたたかれるかもしれないし。あくまで僕自身の研究を助手として手伝うという名目で頼むよ」
ライラスはそのように念を押した。
翌日の昼にタモツ、ヴィーツに中庭で合流したイルマはことの経緯を報告した。
「てっきり二人っきりになって、イルマにいやらしいことをするのかと思ってたのに」
ヴィーツは拍子抜けしたように言った。
「身なりに気を遣わないから生徒に悪く思われていただけで、良い先生だと思うわよ」
イルマは言った。
「僕たちにとっては都合が良い話だね。先生の研究を手伝うという名目でか」
タモツはうなずいた。
「僕はオシイ商会との定時連絡があるから少し遅れるけど、二人は先に行っていて」
「錬金術って、俺は個人的にあんまり関心ないんだけどなー」
「あんたなら、やってみたら才能あるかもしれないわよ!」
気乗りしない感じのヴィーツを、イルマはそう言っておだてた。