01-04.元特務隊長、外遊する
新日本共和国初代大統領木下ハジメは、大統領夫人のカナデを伴ってトラホルン国内を巡っていた。
むろん、個人的な旅行ではない。護衛付きの国際的な儀礼であった。
行きには新日本国の飛び領地として認められているイェルベ、トラザム、カリザトの3個駐屯地を慰問した。
それから王都ボルハンでギスリム国王と会談をして、西へ帰る道すがらトラホルンの主要な街であるレスノー、ハリハット、イャジルを通過し歓待された。
トラホルン国内には今や反日、反自衛隊派というのはほとんど存在していないと思われたが、新日本国の領土の所有権を主張し始めたバルゴサなどから暗殺者が送り込まれてくるという可能性は考えられた。
大統領の身辺警護についている者たちは自衛隊出身の警護官たちで、いざとなれば大統領の盾や身代わりとなる覚悟を問われた者たちであった。
「どうだ、カナデ。大統領夫人になったって気がするか?」
ハジメは自分の横でにこやかにトラホルン庶民たちに手を振る妻に向かってたずねた。
「そうですねぇ。悪くないです」
カナデはまんざらでもなさそうだった。
長身のハジメと大柄なカナデのカップルは、遠目にも見栄えがした。
大柄な警護官たちは建物の2階の窓からクロスボウの矢が飛んでこないかとか、短刀を持った暴漢が飛び出してこないかとかを、絶えず想像して警戒しているようだった。
木下ハジメは20歳の時にこの世界に転移してきて、それ以来タモツとともに異世界自衛隊で武勲を重ねて昇進してきた。
幹部に任官してすぐに特務隊という新設された特殊部隊の長に任命され、そこでさらに様々な功績を打ち立てた。
特に名高いのがトラホルン西北に生息していた黒竜を討伐したことであり、以後彼は<竜殺しのハジメ>としてラール大陸全土にその名を知られる英雄になった。
3年前にハジメの妻となったカナデは、ハジメが黒竜を倒した後に引退した押井三郎の後釜として新たに特務隊に入ってきた部下であった。大柄で骨格のしっかりした女性で、胸が豊かな美人であった。ただし、性格はハジメに言わせればキテレツなやつだった。
カナデの前に副官的立場だった押井は引退後に交易商人として成功し、今もキャラバンを率いて大陸各地を巡っている。今頃はタモツたちを乗せてカディールに入っているころだろう。
長年の友人であるタモツの出発をハジメはぜひとも見送りたかったのだが、大統領という立場であってはそれも難しかった。