02-19.元特務隊長、ドラゴン飯店に行く
バイアランの視察を終えて、ハジメと護衛の4人は来た道のおおむね逆をたどって帰路についた。
一点違ったのは、王都ボルハンに立ち寄って夕食を取ったことだった。
足を運んだのは元特務隊の料理人たちが出した店、ドラゴン飯店である。
夕食時にはいつも通りに行列ができていたが、ハジメたちは大統領の特権を振りかざすことなく素直に列に並んだ。
メディアや肖像画が広まっているような世界ではなかったため、列に並んでいた誰もがハジメを新日本国の大統領、<竜殺しのハジメ>その人だとは思いもしないようだった。
やがてハジメたちの番がやってきて女性店員に案内され、ハジメたちはカウンター席についた。
「よお、鉄さん、双葉」
長身のハジメが伸びあがって、カウンター越しにかつての部下たちに声をかけた。
「え? 隊長?」
「まじっすか。なんでいるんですか?」
「来てみたかったから来てみたんだよ! うまいものが出てくるんだろうな?」
「そりゃもちろん。なんにします?」
ハジメはお供の四人にそれぞれ何を食べたいか尋ね、まとめて注文した。
現世式の料理一本でやっているこの店のメニューには懐かしい名前がずらっと並んでおり、異世界式の料理は基本的にない。
これで連日客がひっきりなしに訪れる人気店になったのだから、金井たちの腕前は証明されたということだろう。
「それにしても随分思い切ったよなー」
「メニューのことですか? いちおうダラボアの店でテストを繰り返してましたからね、勝算はありありでしたよ」
「あっちの店でやらしてもらっている時から、現世風の料理は人気がありましたしねえ」
「うっまい! 懐かしいっ!」
運ばれてきた餃子定食を口にして、護衛の一人が感嘆の叫びをあげた。
塩ラーメンを頼んだもう一人は、無言でずっと食べ続けている。
鶏のから揚げ定食を頼んだ護衛は、一口ごとにうんうんとうなずいていた。
そして、レバニラ炒めを頼んだ持田2尉は、
「まさかこの世界の食材でレバニラを再現できるなんて……」
と、驚きを隠せないようだった。
ハジメはビーフシチューを頼んで、これはやむなく硬いこの世界のパンをちぎって浸して食べていた。
「パンは現世風に作れねえの?」
「パン作りはしたことがないのと、焼き窯をどうしたらいいか分からなくて。やわらかいパンがつくれたら売れるとは思うんですがね」
「ナンとかピザとか焼くような窯の作り方なんざ、自衛官に聞いても判らねえよなあ」
「たまたま、そういう店の息子でも転移してきたらいいんですがね」
金井はそう言って笑った。