02-12.ギスリム王、秘密を明かす2
「この玉璽がわが手にある限り、アガシャーの立場は僭王に過ぎぬ」
ギスリム王は笑いながらそう言った。
「なぜそれを公表しないのですか? それさえあればアガシャー王の権威を否定できたでしょうに」
「時機というものを見誤ってはならぬからな。その時機を作るためにバルゴサ領内にわが手のものを暗躍させ、反アガシャーの機運を高めようという画策はしたのだ。だが、アガシャーは己の意に反する勢力をことごとく弾圧し、国内の権力を一手に握った。母の従兄弟にあたるシャザームを暗殺者として送り込んだがこれも失敗に終わった」
ギスリム王はやや自嘲気味に笑った。
「トラホルンの王座に就く以前には、私はあと30年待つつもりだった。トラホルンの世継ぎに我が血を引く者を据え、それまでの間にバルゴサ内に一大勢力を作り上げて支援する。そして玉璽をかかげてトラホルンの兵たちを率いバルゴサの玉座を狙う。僭王アガシャーは今すでに50を越えておるからそのころには生きてはおるまい。アガシャーの世継ぎが誰になろうともあの者よりは与しやすいであろうとな」
「ところが、潮目が変わった?」
「そうだ。攻め手としては役に立たないと思われていた自衛隊と軍事同盟を結び、なおかつ彼らとさらに深く結びつくことになった」
「新日本共和国の領土をアガシャーが欲したから?」
「うむ。いずれやってくる戦いは、我々トラホルンのために加勢する戦いではなくなった。彼ら自身の戦いになったのだ」
「もしかして、アガシャーにイェルベ川西岸までの征服を思い立たせたのも、お父様の策によるものなのですか?」
ギスリム王は肯定も否定もすることなく、あいまいに笑って見せた。
「アガシャー王にあえてトラホルンを攻めさせ、自衛隊を使ってこれを迎撃する。そしてアガシャー王の軍勢が壊滅したところで、お父様は玉璽をかかげてバルゴサの王権を主張なさる、と」
11歳の少女には全く似つかわしくない、策略家の笑みを浮かべてサルヴァは確かめるようにそう言った。
「そしてその王権、いずれはわたくしのものになる。そう考えていてよろしいのですね?」
「ことがうまく運べば、だがな」
ギスリム王は苦笑いをしつつうなずいた。
「新日本共和国大統領は、その時には代替わりしておろう。あの老人、そこまで長生きしていればいいが」
「老人?」
「モリモトモトイという男だ。新日本共和国で現在2番目に力を持つ位置にいる。いずれその老人が<竜殺し>の後を襲って大統領になるだろう」
「その者と、お父様は何か密約を結んでいますの?」
ギスリムは、また肯定も否定もせずにあいまいな笑みを浮かべた。