02-11.ギスリム王、秘密を明かす
「王配が誰であろうと、そんなことは大した問題ではありませぬ。ならば<竜殺し>の名声を持つあの男が良い。性格も穏やかで戦いに強い。うってつけでございましょう」
サルヴァはそう言って邪気のない笑みを浮かべた。
ギスリム王が第二王女サルヴァの自室を訪ねたのは武術大会が行われた翌日のことであった。
サルヴァ姫の姉であるシーリン姫は良くも悪くも自分に嘘がつけず、思ったことがすぐ顔に出る性分であった。
反対に、サルヴァはいつも笑みを絶やさずどのような人間とも打ち解けたように話ができる。
大方の人間には明るく無邪気で人好きのする姫君としか映ってはおるまい、とギスリムは内心で苦笑いをしていた。
(政治や策謀を好む気性といい、人前では快活にふるまってその実腹の内では様々な考えをめぐらす性分といい、この娘は私によく似ている……)
ギスリムはサルヴァの頭に右手を置き、その髪をいとおしく撫でた。
「女王になる、か。お前の性分はよく理解していたつもりだったが、私が思うよりもお前は大人になったようだなサルヴァ」
「まだまだ未熟ですわ。早くお父様に追いつきたいものです」
「まだ早いかと思っていたのだが、お前にはもう話しておこう」
ギスリム王はサルヴァの頭から手を放し、テーブル越しにサルヴァと向かい合った。
「お前は、バルゴサ王家に伝わる<玉璽>(ぎょくじ)というものについて聞いたことがあるか?」
「古代魔法国家イムルとバルゴサの前身となったバルグ王国の時代から伝わるという、あの?」
「そうだ。竜玉石という宝玉で出来ており、今の時代の技術では到底再現できない作りの、非常に精巧にできた印章だ」
サルヴァの目が一瞬光った。
「まるで実物を見たようなおっしゃりよう。その玉璽というもの、もしやお父様の手におありですの?」
「サルヴァ、お前は……」
ギスリムは一瞬たじろいだ。
「その通りだ。玉璽は常に私が肌身離さず身に着けておる」
ギスリムは胸元から小さな皮袋を取り出し、中から水色に淡く光る水晶の柱のようなものを取り出してみせた。
「見るがいい。これがバルゴサの王権を象徴する<玉璽>だ」
「きれい……」
サルヴァはうっとりとそれを見つめた。
しばらく娘に玉璽を見せた後、ギスリムは再びそれを皮袋にしまって胸元に隠した。
「お父様の母君、亡くなられたおばあさまが玉璽の継承者だったのですか?」
「そうだ。正確には双子の兄だったイシャー王子が、というべきか。妹のイスラン王女は、アガシャーの策謀で起こったバルゴサの内乱からトラホルンに落ちのび、ラーナと名を変えて踊り子に身をやつした。テモス村に身を潜めていたところをわが父ヘンギスに見初められたというわけだ」
ギスリムはそう言って笑った。




