02-08.格闘王、試合のあと
話は少し戻る――。
岡崎とロトムの試合が終わった後、成立した二人のカップルは会場の人々から歓声をもって祝福された。
「あー、いやー、本当に俺でいいの? 本当に本当に俺でいいの?」
岡崎は思いもかけず、自分の妻になると言い出した少女を相手に何度も確認してしまった。
「お姉さまと結ばれることになったとしても同じことをたずねたのですか?」
サルヴァ姫はケラケラと笑って言った。
「もしかして、お姉さまのほうがザッキーのお好み?」
「あ、いや、そういうわけじゃないんだけど……」
「私が子供すぎるのが気になるということなら、3年ほど待っていてくださいな」
とても11歳の子供とは思えない言いぐさで、サルヴァは岡崎の左腕に手を置いた。
「オカザキ、思いもかけずお前とは兄弟になってしまったな」
ボルハンのロトムがおずおずと岡崎に近づいてきて言った。
「オカザキというのは家名だと聞いているが、名は何というのだ?」
「チヒロ。子供のころに女の名前みたいだって冷やかされたから家名のほうを名乗っているのさ」
「チヒロ。不思議な響きの名前だが、良い名前ではないか」
「そなたが人形師ザッキーだというのは本当なのか?」
と、第一王女シーリンが興味深そうに尋ねてきた。
「ああ、はい。本当ですよ。ザッキーの新作が出なくなったのは俺がイムルダールに異動したからなんです」
「そうだったのか! ザッキーのあみぐるみは私もたくさん集めていたのだ」
シーリンははしゃいで言った。どうやら可愛いもの好きであるらしい。
「今度時間があったら作って差し上げますよ。姉妹でおそろいのものでも、なんでも」
シーリンとサルヴァは手を取り合ってきゃっきゃと声を上げた。
「ところで、試合に参加するにあたってあんまり深く考えていなかったんですが、王女様と結婚するってなると私の身分はどうなるんですかね? 王女様たちがトラホルン人をやめて日本人になるんですか?」
「言っていることがよくわからないのだけれど、新日本国で暮らすとトラホルン人を辞めなくてはならないの?」
と、サルヴァが首をかしげて言った。
「ああ、<国籍>っていう概念はないのか……。ええと、結婚するとなったら新日本国とトラホルンのどちらで暮らします?」
「それは当然トラホルンでしょう。新日本共和国は出来上がったばかりでイズモには何もないと聞いています」
「でしょうねえ……。ってことは俺もいずれは自衛隊を辞めてトラホルン人にならなくちゃならないのか」
岡崎は、ううむ、と考えこんだ。