第9話 情報
「わたし、むこう」
現状を説明する試みを、開始する。
先ずは俺が元来た獣道を指す。
枝を拾い、地面に棒人間を描く。
「わたし」
そこに、二人の棒人間を加える。
さらに横向きの棒人間を描き加えると――二人は、興味を示し身を乗り出した。
ジェスチャーで、果たしてどこまで通じるものだろうか?
俺は傍らに置いていた鉈を取り出し――警戒されぬよう、ゆっくりと動きながら――その刃を自らに向けた。
続けて両手を挙げる。
「わたし」
そして楕円を描き、棒を四本に、頭としてもうひとつ楕円。
「うま」
さらにあの特徴的な、馬の額の長い角飾り……。
「xxxx!xxxxxx!」
男は語気を強め、俺に詰め寄る。
彼も手に枝を握り、楕円から生える一本の線をなぞった。
「角?」
「つの?」
俺は自分の額から、一本の角が伸びている様子を真似て見せた。
「角xxxxxx馬!」
女も口調を強め、二人は視線を交わした。
俺は馬の背に跨がる棒人間を描き加え、その手には剣を持たせた。
「コレハ?」
男の腰に提げられた剣を示す。
「これか?剣だな? 」
明らかに男は興奮している。
一体どこに反応したのだろう?
「けん」
そう言って、騎手の手にある剣をなぞると、またも二人は視線を交わしたが、その表情は、険しかった。
その後、騎手が一人の首を跳ねた事、一人は逃げ、騎手はそれを追って森に消えた事をどうにか伝えた――伝えられたと、思う。
二人は神妙な面持ちだったが、何かに得心がいったようで、頻りと言葉を交わしては頷き合っている。
「向こうの道なんだな?」
「むこう、みち、もり」
必死に頷いて見せる。
どうやらあの騎手は、彼らにとって重要な意味を持つらしい。
本当は遭遇した偶発事件ではなく、俺の置かれた境遇について説明したいのだが、二人はすっかり興奮し真面目な面持ちで話し合っている。
どうせ不確定な誘拐や事故に巻き込まれた可能性についてなど、到底説明は出来ない。
今は、ここまでか。
不意に、女は俺に向き合い手を取り、満面の笑みを向けてきた。
おそらく感謝の意を述べている様だが、理解は無理だ。
一体何を得たのだろうか? 騎手に関わる事に違いないとは思うが、それが捜し人なのか討伐対象なのか、避けるべき相手なのか――。
続けて男も、俺の手を取った。但し、今度は何かを握らせて。
手のひらに目を遣ると、数枚の硬貨を渡されたのだと分かった。
意味が分からず顔を上げたが、男は既に炎を見つめ考え込んでおり、女は尚も俺の手を握らせ『取っておけ』と言わんばかりの仕草を見せた。
彼らにとって騎手の情報がどんな意味を持つにせよ、俺に取っては金銭での報いはそう有り難くも無い。
先ず人里にたどり着かなくば、使う間もなくのたれ死にだからだ。
とはいえ好意を無下にもできぬので、俺はその硬貨を恭しく賜る事にした。
その後これ以上の交流は無く、二人は早々に眠る準備に入った。
仕方なしに俺も休む事に決め、焚火に枝をくべて横になった……。




