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第32話 学習

 あれから一週間。

 俺は、月島ゆかりの部屋に寝泊まりし、昼間は彼女の教室で子供達と共に学んでいる。


 生徒達は快く俺を受け入れてくれた――と言うよりは、今回も上手く取り入る事ができた。

 10歳から14歳程度の(ように見える)子供が20人ほどだ。

 ――確かにこれは学校というよりは、寺子屋の様なものだ。


 授業の内容は読み書きが中心で、今の俺の言語能力的には付いて行くのも大変な内容だ。

 他にもこの世界の成り立ちや歴史、時折地理の授業もあった。

 世界の成り立ち――つまり神話の類いは、地球の各地で見られるそれと大差無いように思え余り興味をそそられなかったが、歴史や地理となると話は別だ。

 今からこの世界で生きるならば、それらの情報はどれだけあっても尚、足りない。

 政治や経済についてはまだ子供達には早いのかカリキュラム外なのか、授業で扱われる事はなかった。


 まだ学習期間は一週間であるものの、俺は幾ばくかの知識と理解を得る事ができた。


 読み書き――文字は一種のアルファベット、表音文字だが、音数は多く31音から成る。

 ゆかりはドイツ語を学んでいたとの事だし、語学の才があるのだろう。授業はとても丁寧で分かり易いものだった。

 しかし読む事にはなんとか慣れてきたが、書くのとなるとまた勝手が違う。

 思えば、英語ですらライティングは苦手だったのだ。

 繰り返し練習するより、ないだろう。


 神話――神々の戦いが先にあり、そこに後から人間も争いに参加したような話を数度聞いた。

 この世界の人々のアイデンティティを知るには重要なのかも知れないが、正直神代の話を聞かされた所で得るものは少ない。

 しかし子供達には興味の対象であるらしく、お伽噺よろしくに頷きながら、みな大人しく聞いていた。

 純心というべきか、スレていないというべきか。

 現代日本ならあまり見られない光景だろう。


 歴史――ゆかりの話す所、つまり教室に残された本の語る所では、おおよそ3000年にわたる歴史認識があるようだ。

 技術の進歩は遅々としている様だが、その理由は分からない。

 人口の稠密化がそこまで進んでいないのか、それとも他に技術の進歩を妨げる何かがあるのだろうか。

 神代の話と合わせ、未だこの地には宗教が根強く残っている様なので、それが何らかの形で阻害要因となっている可能性はある。

 宗教についても、いずれ詳しく聞きたいものだ。


 地理――やはりというか当然というか、他にも都市と言える規模の街はあるらしい。

 また、この街が近隣――移動に数日程度の範囲――で一番の規模という訳でもない様だ。

 ゆかりは行った事がないとはいえ、近隣で一番の都市は少なくともこの都市の倍の規模だと認識している様だ――この都市が実際にどの程度の人口を擁するかも知れないため、正確な事は分からないが。


 ちなみに、俺が『街』として覚えていた単語はトルダナというこの都市を示す固有名詞であり、『村』はサリアトという名称の村だった様だ。


 その他――俺の理解した所この世界、というかこの文明では、各所で8進数が基準となる様だ。

 一週間は8日。それが概ね3週繰り返してひと月。一年は16ヶ月と長い。

 数字のカウントも当然8進数なのだが、これは先々間違いなく苦労するだろう――どうしても10進数に変換せねばどれくらいの数字か感覚が掴めないし、俺は暗算が苦手だからだ。

 四則演算は知られていないか、または一般的ではないのか、ごく簡単な足し引きをのみ、この教室では教えている様だ。


 未だ、この世界全てが作り物ではないかとの疑念はあるが、日々を過ごし学んでいる内にそれも薄れていくのを感じる。

 俺の姿形は確かに若返っているが、無茶を言えばそれだって全身整形という手段がある。

 何か、この世界が別世界であるという決定的な証拠はないだろうか。


 そう思いながらも、俺は朝に学び昼に学び、夜にはゆかりを抱いて過ごした。

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