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第22話 日本語

『何か……お困りのようですが』


 日本語だ!

 声を掛けてきたのは、若い女だった。

 だが日本人ではない。

 漁村やこの街でよく見た、中東系とも欧州系とも言えない異国人だ。

 ――いや、異国人は俺なのだろうが。


『日本語が……通じますか?』


 俺は思わず呆気に取られ、日本語で話し掛けてきた相手に対し、間抜けな問いを発した。


『はい。あの、さっきも叫んでいましたよね?』


 ――助かった! 日本語が通じる相手だ! だが、どこまで?


『あの、俺は、日本から来たんですが……困っているんです!』

『日本、から』


 話を聞いてくれるとの事なので、俺達はバザールの喧騒を避けて路地に入った。


『俺は、宗方明むなかた あきらと申します。日本人です』

『ムナカタ――アキラさん』


 簡単に今までの成り行きを説明する。

 俺は久しぶりの日本語での会話に興奮しまくし立てる様に話してしまったが、どうやら概ね通じているようだ。

 女は落ち着いた様子で話を聞いていた。


『……それで、今日この街に』

『それは、大変でしたね』


『それで、なんとか日本に帰りたいんです。この街に大使館……いや、領事館はありませんか?』

『それは……おそらく……いいえ』


『ごめんなさい。日本語はすごく久しぶりで』と女は頭を下げた。

 彼女は話を続けたが、どうやらこの街には大使館も領事館も無いらしい。

 しかしそこまで期待していた訳では無い。最終的にそこに至ればよいのだ。

 大使館が無いなら、そこに通じる行政機関――役所で構わない。

 ただし、言葉の壁を乗り越えられれば、だ。


 話をしている分には、彼女の日本語は完璧だ。

 若干たどたどしいものの、ネイティブと言っても違和感がない程に。

 当然現地人なので、現地語も問題ないのだろう。

 他にも日本語が話せる人間が何人もいるのだろうか? それとも偶々彼女が日本語に明るいだけだろうか? おそらくは、後者だ。

 出来る事なら、というよりは千載一遇のこの機会を逃す訳にはいかない。


『大変恐縮ですが、どうか助けて頂けませんか?言葉が通じずに困っていたんです』

『それは、勿論です』

『少しですが、謝礼を致しますので』


『困った時は、お互い様ですよ』女は、俺を見て微笑んだ。

 ――人を安堵させる、優しい微笑みだ。


『ここではゆっくり話せないので』と、女は自宅への招待を申し出てくれた。

 付いて行くべきかどうか、正直俺は迷った。

 今、彼女の助けは必要だ。絶対に。

 しかしこの地の治安の悪さは分かっているし、つい先程もスリに遭ったばかりだ。

 海外の観光地では観光客を狙った犯罪などありふれたものだが、果たしてこの場合は――。


『お願いします』結局俺は、女について行く事にした。

 他に当てが無いのは確かで、この機会は逃せない。


『済みません。ご迷惑をお掛けする事になりまして』


 頭を下げる俺に、彼女は再び微笑んだ。


『いえ、ふふ。アキラさんは大人みたいな話し方をしますね』


 ――また、子供扱いか。

 やはりアジア人の顔は幼く見えるのだろうか?

 だがこれだけ流暢に日本語を話して、日本人の年を推し量れない等ということがあるだろうか。


 道を進む彼女の横を歩きながら、俺は改めて女を見た。

 目線の高さは俺より少し低い程度――この地ではみなそうだが、やはり女にしては背を高く感じる。

 肩まで垂らした濃い茶色の髪に、薄い褐色の肌。

 くりくりとした愛嬌ある瞳をしているが、どことなくエキゾチックな魅力がある。

 20代前半に思えるのだが、やはり外国人の年齢は良く分からない。


 彼女は道々の露店で、何かしらの食材を購入していた。

 ……謝礼にと思っていた銀色の硬貨は、先に渡すべきだろうか?

 いや、様子を見てからの方が良さそうだ。

 警戒を失くす事だけは、避けた方が良いだろう。

 俺は黙って彼女の後ろを歩いた。

 

『あの、そういえば、お名前を伺っても?』

『あっ!そうですね。失礼しました』


 女は俺に向き直る。


『月島 ゆかりと申します。私も日本人で、日本から来ました』

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