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第16話 同行許可

 行商人や露店商の話からすると、どうやら村からそう遠くない場所にそれなりに大きな街があるらしい。

 この村には生活雑貨を扱う常設の商店も無いので、定期的にこうして市を開いているのだそうだ。


 ――大きな街!

 考えてみると当然だ。

 俺が従事していた貝や魚の仕分けにしろ、明らかに現地消費量以上の漁獲量があったのだから。

 ここは、郊外の食料生産地域という事だろうか。

 この村では、いくら探せど――探すほどの規模でもなく――行政機関らしきものは無かったのだが、それなりの街ならば。

 俺は、街の存在にひとり色めき立った。


 向かうべき――だろうな。是が非でも。

 この村は良い所だし、親しくなった連中もいる。

 しかし、俺は日本に帰らなければ。


 日本での生活を思い出し、従事していた仕事の事を考える。

 一体どれほど穴を開けたものなのか。

 とっくに解雇されてしまっていたり、するだろうか。

 現状、自らの状況を『海外でトラブルに遇い記憶を失った』と解釈しているものの、そもそも何故俺は外国に居るのだろう。

 長期の有給なのか、まさか退職して旅に出たのか?

 32歳にもなってバックパッカーになるなど……俺の事なので有り得ないとも言い切れないのが、なんとももどかしい。

 過去、気分屋の俺がどういった行動に出たにせよ、今は日本が恋しい。


 とにかく、最終的には大使館だ。

 そうすれば日本に帰れる!


 俺は尚も行商人から話を聞き出し、明後日にはみな街に戻るとの情報を得た。

 更に――同行の許可だ。


 街までは荷馬車で一日半程度。安全の為、みな一緒に戻るらしい。

 茶色の硬貨五枚で、その旅程の末席に加えてもらう事が出来た。

 安全の為、というのが気に掛かると言えば気に掛かる。

 事実俺とて、野盗と遭遇したのだから。

 とは言え定期的なキャラバンの様だし、同行できれば危険はあるまい。


 そうと決まれば、準備が必要だ。

 この村でさえ、一際みすぼらしい格好の俺だ。

 市街地では一等酷く見えるだろうし、それこそ乞食が如く扱われるのも困る。

 経済発展目覚ましい国では、唐突に驚くような大都市が表れる事もあると聞く。

 いくらこの村が伝統的な生活を営んでいるからといって、街もそうとは限らない。

 見てくれを、何とかしなければ。


 懐も暖かくなり目的に一歩近づいたと確信した俺は、すっかりと上機嫌になった。

 鼻歌混じりに行商人の露店を改めて一回りし、必要物資を買い漁った。


 衣類を全て脱ぎ捨て、橋の下で川に浸かる。

 水は冷たいが、今は気にもならない。

 川から上がり、買ったばかりの厚手の布で体を拭う。

 バスタオルがずっと欲しかった。

 吸水性はいまいちだが、濡れ晒しよりは遥かにましだ。


 カラダを清めた後は、下ろし立て――と言えれば良いのだけれど、恐らく全てが古着――の衣類に袖を通す。

 靴もシャツも上着も、やはり全てが手製であって工業製品ではない。

 服はともかく、靴はスニーカーが手に入れば助かったのだが。


 全て手製の品であるのは、何か意味があるのだろうか。

 未開だからというより――例えば規制とか?だが何のために。

 物流がある以上、どうあっても大量生産品の方が安上がりだろうに。

 まあ今は、靴下を履いてから靴を履ける幸福に、感謝したい。


 雑嚢の荷物も全て、革製のリュックに移した――あの、鉈と短剣もだ。

 何とはなしにずっと持ったままだが、このままこれを使う様な機会が無いと良いのだけれど。


 自らの出で立ちを改めそれを良しとした俺は、もう一度ボロきれに着替えた。

 明日、最後の仕事をしなければいけないからだ。


 そして、言葉を教えてくれて、色々と世話を焼いてくれた小さな友人達に、別れを告げなければ。

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