第12話 漁村
特に注目はされていない事を幸いに、俺はその集落を見て回る事にした。
情報収集――と言えば聞こえは良いが、結局はどうして良いのかわからず、うろついてみるより他にないだけだ。
この潮の匂いのする集落――村、と呼んで差し支えないのかどうか分からないが、ここは小規模ながら僅かな活気がある。
行き交う人々。
子供たちの嬌声。
荷馬車や行商人らしき姿もある。その荷には魚が。
先ほどの網を修繕していた男達といい、漁を営んでいるようだ。
河口に面した、小さな漁村。
それがこの場所に対し俺が抱いたイメージだ。
民家は木と石と土。
僅かにレンガ組が見える。おそらくは日干しレンガだ。
窓枠にガラスは無く、木窓のみ。
温暖な気候だからだろうか? 朝晩はいくらか冷えるというのに。
人々は一様にみな背が高く、走り回る子供達を除けば、大抵が175センチある俺よりも大きい。
こんな、上背ある人々ばかりの民族が、いるだろうか?
逆に背の低い人々ばかりなら、ピグミーとの推測も立つのだけれど。
黒人種ではないのでアフリカ諸国では無いと思うが、かといって人種は判然としない。
目鼻立ちは割合はっきりとしているものの、日本人の俺から見れば外国人はみな彫りが深い。
コーカソイドにも見えるし、アルメノイドにも見える……。
髪は茶色、赤毛、黒色が同程度。稀にごく薄い茶色が、金髪めいても見える。
アルメノイドなら、やはり中東の辺りか……? いや、例えそうでも範囲が広すぎる。
若い頃、インドと台湾だけでなくもっと色々な国を見て回るべきだった……。
人々の装いも、あまり上等と言えたものではなかった。
僅かな行商人らしき人々を除けば、殆ど俺の格好に毛が生えた程度の服装だ。
ここの人々に比べると、先日出会いキャンプを共にした二人は幾分上等な服装だった事になる。
やはり現地人ではなかったのだろうか?であれば、僅かではあっても教わった言葉は無価値なのだろうか?機会を伺い、試してみるよりないだろう。
しかし気軽に試せない理由もある。
折々に、剣やその他、武器らしきものを腰から下げているのを見かけるからだ。
表向き以上に、治安は悪いのかもしれない。
そうでなくとも、踏んではいけないタブーを踏み抜く可能性は十分にある。
そうなれば、言葉も話せぬ俺がいつあの武器の露となるのか、知れたことではない。
誰かに話し掛ける際にも、ジェスチャーに最大限注意すべきだろう。
何気ないハンドサインが、とてつもなく失礼だったりすることも、あるからだ。
通りを眺め、ひとつ気付いてしまった。
まさか――まさか、ケータイやスマホを操作している人が誰一人として居ない!
なんてこった。気付くんじゃあ、なかったな。
いよいよ俺は落ち込んだ。
車の一台も走ってはいないし、これは相当に未開の奥地に、違いない。
『この手』の奥地は、通信すら危うい。
おそらくは行政施設にオンボロのwin2000が一台だけ、電話もそこにしか無いってオチだろう。
こんな所では、大使館どころか領事館だってある訳がない。
行政施設か……果たして、期待はできるだろうか?
行政機関を見つけ、大使館に連絡してもらい、助けを待つ。
言うは易し。大使館に連絡してもらうには、言葉の壁が――あまりにも、厚いだろうな。
項垂れてばかりも、居られない。
いよいよ腹が不平を漏らし出したからだ。
俺は海を目指した。
おそらく漁業に従事している連中がいるはずだ。
そうなれば、きっと周囲で何とかして食い物にありつけるだろう。
労働者あるところ飯場あり、だ。




