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夢幻戦隊MSガールズ  作者: 硫化鉄
第一話 「へ、変身!?」

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シーン5 @下校途中

 学校帰りのいつもの道は、様相を一変させていた。幹線道路は複数の事故で渋滞、というよりもほぼ完全に麻痺していた。緊急車両ですら、わずかにいくつかの脇道を縫うようにしてようやく移動することができるといった状態だ。もちろん現場付近まで近づくことなどできるはずもない。

 遠くに、近くに、サイレンの音が途切れることなく鳴り響いていた。異常事態である。


「うーん……、やっぱり、どう考えてもおかしいわね……」


 この状況に、智恵は思考を巡らせていた。水上が言っていた事は正しかったが、想像をはるかに上回っていたのだ。


「そうだよねー! 春川のやつ! いーっつも鏡見て前髪ばっかりいじっててさ!」


 即同意してくるあかり。だが話題がずれてしまっている。この異常事態に気付いていないのか、気にならないのか――。


「うんうん、春川くんって、綺麗な顔してるけど、ちょっとユニークだよね」

「ユニークって言うか……。単に自分大好きー!! なだけでしょ」


 キャッキャと話す美佳とあかり。今の彼女たちにはサイレンの音よりも、春川へのダメ出しの方が重要らしい。

 しかし、智恵は違った。というより、春川に対する興味が全くなかった。


「まぁ、春川のおかしいのは今に始まった事じゃないけど。でも原因不明の交通事故が多発しているっておかしくない? こんなに事故ばっかり起きてるなんて、普通じゃないわ」


 あかりは、智恵に言われて今頃気付いたように、周囲を見回した。


「そ、そういえばそうだね」

「智恵ちゃんは『原因不明』って嫌いだもんね」


 美佳は相変わらずの笑顔を智恵に言った。問題の解決は智恵がしてくれる、という絶大なる信頼感。


「うん。原因は必ずあるはずだし、多発してるなら関連性だってあるかも知れないでしょ?」

「それは……そうだね」


 現状は常軌を逸している。その事に、あかりもようやく気付いて、真剣な面持ちで腕組みをした。


「そうか……。もしかしたら、何か大きな悪の組織が……」

「悪の組織! あかりちゃん好きそう!」

「うんうん! 悪の組織がなかったら、正義のヒーローもただの力持ちだもんね!」


 果てしなく脱線していく気配の二人。そんな中、智恵は一人、思考を続けていた。


「原因不明……連続交通事故……。この近隣一帯に、突然運転する人の集中力を乱す磁場が発生しているのかも……。

……地球の自転と公転、そして太陽の黒点が影響して……地球温暖化の影響も……」


 とは言え、彼女も彼女なりの暴走を続けているようだ。


「智恵ちゃん……なんかよくわからないけどすごい……」

「悪の組織の陰謀っていうのも、ありそうだと思うけどなぁ……って、完全に妄想か」


 あかりが照れ笑いを浮かべた時。突然、あかりの耳に忘れる事の出来ない音楽が飛び込んできた。

 そのタイトルは「たたかえ雷牙!月にほえろ!」。ヒーロー番組「マスクドガイ・雷牙」のオープニングテーマである。

 サビの部分だけ繰り返されるその曲は、あかりの携帯電話から発せられていた。


「あかりちゃん、携帯なってるよ?」

「え、あれ? あたし、この曲着メロにしてたっけ……?」


 違和感を感じながら、あかりは携帯を耳に当てた。


「……はい?」


 おそるおそる声を出すあかりに、携帯から響いてきた声は――。


「……気をつけろ」


 男の声。あかりはその声を、どこかで聞いたことがあるような気がした。だが、知り合いの誰とも一致していない。


「だ、誰!?」

「気をつけろ。この世界は……狙われている!」


 男の声がそう告げると、通話は切れてしまった。


「狙われてるって……どういう、こと……?」


 呆然とつぶやくあかり。サイレンの音が、今更のようにあかりの心を騒がせ始めていた。


「あかりちゃん、どうしたの?」

「わかんない、この世界が狙われてるって……」

「なにそれ、いたずら電話じゃない?」


 不穏な状況に謎の電話。ただ事じゃない事態が起きている事を、三人は実感し始めていた。


「でも……あの声……」


 電話の主を声を思い出しながら、あかりがつぶやいた。どこかで聞いたことがあるはずなのに――。


「あかりちゃん、誰か知ってる人だったの?」


 珍しく考え込んでしまったあかり。危機を知らせて来た人物の正体は一体誰なのか。


「それにしても、このパトカーや救急車の数は異常だわ。この世界が狙われている、ね……。あたしも興味出てきたわ!

 まずはこの事故の調査からね! ちゃんとした調査の裏付けがないと、推理もただの妄想だもんね!」


 智恵が気合を入れて、メガネをくいっと上げた時。智恵の自転車のベルが鳴った。そして。

 急速に近づいてくる救急車のサイレン。

 一台の救急車が恐ろしいスピードで、美佳と智恵に突進してきていた。


「智恵、美佳、あぶないっ!!」


 あかりの叫び。智恵と美佳の悲鳴。

 その時、智恵の自転車が動き出し、ハンドルに智恵と美佳をひっかけてあかりの方へ走り出した。次の瞬間、智恵と美佳のいた路肩に救急車が突っ込み、大破した。


「智恵、美佳、大丈夫!?」

「うん……。チャリンコ智恵スペシャルがいきなり走り出して……引っぱられなかったら……」


 まだ思考が整理できていない顔の智恵。何が起こったのかは把握しているのだが、理解が全く追いついていなかった。自分たちを狙うように救急車が突っ込んできた事も不可解だったし、何より自転車が自律的に動くことなど考えられなかったのだ。


「私も智恵ちゃんの自転車に引っかけられて……。自転車君、助けてくれてありがとうっ」

「でもあたし、そんな機能は……」


 起きた事をあるがままに受け入れ、自転車にお礼を言う美佳。智恵はまだ納得がいかない顔で、自転車を見つめていた。


 その時。


「ふぇ~、運が良いね、姉ちゃんたち!」


 彼女たちにかけられた声。それは幼い男の子の声だった。


「誰っ!?」


 あかりが周囲を見回すが、声の主は見当たらない。


「小僧、みだりに現世界の人間に話しかけるな」


 続いて聞こえる、低く落ち着いた声。小僧と呼ばれた子供の声が即座に噛みついた。


「いいじゃねーかよちょっとくれえ!

 あ~あ、せっかく姉ちゃんたちに大けがで入院してもらって病院のベッドで悪夢のオンパレード、楽しんでもらおうと思ったのにさ!」


 その声が聞こえてくる方向は――。


「え……? あの子たち、飛んでる?」


 あかりが見上げた先。地面から10メートルほどの空中に、その声の主たちはいた。

 ディスペアーが送り込んだ尖兵たち。

 小さな乗用の雲――筋斗雲の上に立つ少年、孫悟空と、空を飛ぶ魔法の絨毯に座っている男、アラジンである。

 彼らが浮遊している姿は、まさに異様な光景であった。まるでおとぎ話だ。


「何かトリックが……? 反重力システムが開発されているなんて、聞いてない!」


 考え込む智恵。だが美佳はこの光景に心奪われていた。


「でも、こんな風景どこかで見たことある……誰の絵だったかなぁ……。

 妄想の世界が現実になる……なんか、素敵……」


 美佳のつぶやきに呼応するかのように、彼女の携帯電話がメロディを奏で始めた。

 モーツァルトの交響曲第25番ト短調より第1楽章。美佳が最も愛する楽曲の一つである。


「え、私の携帯? この曲、探してもなくて入れてなかったはず……」


「おい、おっさん。あいつら……」


 彼女たちを見下ろす悟空の眼が鋭く光る。それはアラジンも同様だった。


「うむ……」


 短くうなずき、【魔法のランプ】の蓋を開く。大量の煙が噴き出し、渦巻いた。


「出でよバクよ! あの娘たちの夢を食え!」

「バックバク~~!」


 アラジンの命令に呼応して、黒煙の塊からバクが姿を現した。


「か、怪物!?」

「夢を……食べる?」


 あかりと智恵が油断なく敵を見上げる横で、美佳は携帯を耳に当てた。


「も、もしもし……?」


 しかし、状況は美佳の電話など待ってはくれない。

 姿を現したバクは、あかり達三人を眺め、よだれを滴らせた。


「うまそう、かつ、腹一杯になりそうないい妄想を持ってるバクなぁ~。

 バックバク~! 夢喰い光線~~~バク~~~!」


 バクの双眸から虹色に輝く光が放たれた。

 夢喰い光線。浴びせられた人間を強制的に睡眠に落とし、その夢を引きずり出す能力を付与された光線だ。

 その光線が、電話に気を取られている美佳に向けて放たれた。


「お嬢様っ!!」


 電話から聞こえる上品な男性の声。そして携帯が美佳をかばうように、光線に向けて飛んだ。

 迫る光線に悲鳴を上げる美佳。

 ……だが。


「……何!? 携帯が……光線を弾いた……バク?」


 美佳を守り切った携帯が美佳の手に戻ると、同時にあかりと智恵の携帯が鳴りだした。


「ま、また……?」

「あたしのも……?」


 三人の携帯から、声が響く。


「お嬢様! 念写を!」

「だ、誰?」


 美佳には聞き覚えのない声。だが、その声は美佳の心を安心させる響きを持っていた。


「俺様たちを念写しろ!」

「念写……?」


 智恵の携帯から聞こえてくる声が、彼女の心をざわつかせる。その上から目線の言いぶりに、智恵は無意識に反感を抱いていた。


「そして、変身するんだ!」

「へ、変身!?」


 どこかで聞いたことがあるようなその声。そして『変身』というワード。あかりは自分の心が高揚していくのを感じていた。


「何……? 妄想界からの声だと……!?」


 三人の少女達に感じていた違和感の正体。それはアラジンにとって信じがたいものだった。


 だからと言って、その声に何ができるというのだ。


 アラジンはすぐに思い直した。


 我々が現世界に姿を、そしてその力を送り込むためにどれだけの準備をし、労力を払ってきたか。

 妄想界の住人は、現世界に力を及ぼすことなどできはしないのだ。我らディスペアーを除いて。


 だが、アラジンが見下ろす彼女たちに、信じられない事が起き始めていた。


「よくわかんないけど、変身しろって言われたら、やるしかないじゃない!」


 あかりの目が輝いていた。

 変身。それは彼女が幼いころからずっとあこがれてきたものだった。

 ヒーローにあこがれ、マスクドガイ雷牙にあこがれ、身体を鍛え続けてきたあかり。いつ正義の組織からオファーが来ても良いように、いつ悪の組織に改造されても逃げ出せるようにと頑張ってきたのだ。

 それが今。本当に変身できるチャンスが到来したとしか思えない状況だ。

 あかりの中に、やらない理由は皆無だった。


 えっと、変身するのってどうすればいいんだろ……? 変身ポーズ? ええと、念写ってことは……。


 ぐるぐると考えた末、あかりは携帯を額に当てた。


「……念写!」


 念を込めて叫ぶ。携帯が光を放った。

 画面から強烈な光があふれ、その中に一人の青年の顔が浮かび上がった。


「え……え!? こ、弧次郎……さん?」


 その姿は、今朝見かけた青年、犬神弧次郎。マスクドガイ雷牙本人だった。

 彼は感情の見えぬ表情で、あかりに語り掛けた。


「よし、俺の力をお前に託す……シンクロするんだ!」

「う……うん!」


 決意のこもった表情であかりがうなずくと、携帯からあふれた光があかりを包み込んだ。

 そして。


「あかりちゃんが……変身した?」

「ど、どうなっているの……?」


 二人の声に、あかりは自分の身体を確認した。ついにあこがれの変身を果たしたのだ。

 しかし。


「うわ、赤っ! マスクドガイじゃなくて、戦隊の方かぁ~~」


 ちょっとあかりの希望とはズレた変身だった。ヘルメットも赤一色、身体を包むスーツは全身タイツに腰回りのスカート。それも全て赤一色だ。戦隊のレッドだとしても、赤すぎる。


「な、なんだ!? あいつ、変身しやがった!」


 悟空が筋斗雲から身を乗り出すように、変身したあかりを見下ろした。変身は、妄想界では珍しくない能力だが、現世界にはその力を持つ者がいるはずはなかったのだ。


「妄想力を現世界に念写したのか……!!

 バクよ!あの娘たちを生かしておくな!」


 アラジンの檄が飛ぶ。妄想力を使って戦う現世界の人間。その力が測り切れず、アラジンは焦燥感を覚えていた。


「バックバク~!! もちろん、やらせていただくバク!

 バクの食事を邪魔するやつは、何人たりとも許さんバク!」


 バクは魔法の絨毯から飛び降り、あかりの前に着地する。その姿を見送りながら、悟空は悔し気に舌打ちした。


「ちっ……、俺らが完全にこっちに来れてればなぁ……!」


 悟空にはまだ、境界の穴を十分にあける事が出来ない。これは悟空の能力の問題ではなく、妄想界の闇の力が十分に集まっていないのが原因だ。

 だがまだ穴が小さいせいで、悟空もアラジンも、その力の大半を妄想界に置いてこざるを得ない現状。

 悟空は歯がゆかった。


 悟空とアラジン、そして智恵と美佳が見守る中、あかりとバクは数メートルの距離で対峙していた。


「よぉし、燃えてきた!! 真っ向勝負!!」


 突然現れた敵。そして訳もわからないまま、あかりは変身した。

 あかりは怪物バクに勝てるのか?

 そして智恵と美佳にかかってきた電話の正体は……?

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