シーン9 雷牙VS雷牙 決着。
「絶望の中で死んでゆけ……!
奥義……ッ! 万斬刀ーーッ!」
真雷牙の刃が、雷牙に迫る。
「弧次郎さんっ!!」
あかりの悲鳴にも似た声が響き渡った。その時。
「く……っ……ぉああああっ!」
雷牙が吼え、真雷牙の刃に突っ込んだ。そして。
「……ぐ……ッ……!」
うめき声を上げる雷牙。ガードした右腕が、真雷牙の刃の斬撃を受け止めていた。血飛沫が上がるが、その刃は骨で止まっている。
「何っ……!?」
真雷牙は驚いて剣を引いた。傷口からバシャッと血が落ちる。
雷牙の肉体再生能力が傷口を塞ぎはじめるが、受けるダメージの方が大きいのは明らかだ。
「奥義万斬刀で……斬られなかった……!?」
あかりは驚愕と安心の混じった複雑な気持ちだった。
――弧次郎さんが助かった! ……でも、なんで? 全ての物を斬り裂く万斬刀なのに……!
あかりの疑問に解答を与えたのは、戦いを前のめりで見入っていたガンジョーだった。
「なるほど……。わざと間合いの奥に入り込んで……!
どんな技も、インパクトのタイミングをずらせばその威力を減殺される。
やつはわざと敵の刃につっこみ、全てを斬り裂くというそのタイミングを外したんだ」
ガンジョーの分析に真雷牙は納得したようにうなずく。
「ふん、さすが俺を模しただけの事はある。いい判断と度胸だ。が……。
斬鉄ブレードで斬られた事には変わりあるまいッ!」
傷ついた腕をだらんと垂らしたまま、雷牙は真雷牙から目を背けなかった。出血は治りかけているが、しばらく右腕は使い物にならないだろう。だが、利腕が封じられてしまっても、戦いを放棄することなどできなかった。
「ぐ……っ……!」
雷牙の喉からくぐもったうめきが漏れる。
「弧次郎さん……!」
あかりが一歩前に出ようとするのを、ガンジョーが腕を掴んで止めた。今あかりが出て行ったところで、役に立つどころか足手纏いにしかならないだろう。
ガンジョーは、いざとなれば自分が盾になろうと考えていた。
「ふん……。万斬刀を破ったところで、何一つ状況は変わらんな……。
……情けないッ!」
真雷牙が雷牙の腹を蹴りつける。雷牙は崩れるように、地面にうずくまった。
「はぁ……はぁ……っ……」
「弧次郎さん! 弧次郎さん大丈夫!?」
あかりは雷牙に駆け寄ろうとするが、ガンジョーに腕を掴まれていて立ち上がる事が出来ない。
雷牙は顔を上げた。その目は真雷牙を見据えている。
「あかり……来るな……ッ!」
雷牙の声があかりを押しとどめた。あかりは視線を落とし、歯を食いしばる。
「ごめんなさい弧次郎さん、あたしが……あたしのせいで……!」
弱々しく謝罪の言葉を発するあかりに、雷牙の声が響いた。
「弱気になるな、あかり……。
お前に正義の心がある限り……世界を守る心がある限り……。
俺は……負けん……ッ!」
「弧次郎さん……っ!」
顔を上げたあかりの視界の中心で、傷ついた雷牙が立ち上がる。
「ふん……。何が世界を守るだ。
この俺一人に勝てぬ者が……正義を口にするなッ!」
真雷牙の拳が雷牙の頭部にヒットした。
「ぐあぁっ……!!」
殴り飛ばされ、倒れる雷牙。あかりは絶望に震えた。
「勝てるわけない……。本物の雷牙に……勝てるわけないよ……」
本物の雷牙に勝てるはずがない。それはあかりの心の強固に巣くった『真実』だった。
あかりの中で、マスクドガイ雷牙は最強無敵のヒーローなのだ。あかりの生み出したパートナーがその雷牙だったのも、それがあかりの理想の姿だったからだ。
だが、本物の雷牙が現れた今、あかりは無意識のうちに、絶対に敵わない相手だと認識してしまっていた。そして、自分たちを雷牙に倒されるべき存在だと思い始めていたのかも知れない。
だが。
「あかり……! お前の正義はそんなものか……!」
絞り出すような雷牙の声に、あかりはハッと顔を上げた。傷つき果てた雷牙の姿。自分の生み出した雷牙が、本物の雷牙に立ち向かっている。
絶対に敵うわけがないのに……。
あかりが絶望の中でそう思った時。雷牙の声が、いや、一緒に戦ってきた弧次郎の声があかりを撃ち貫いた。
「ピンチになるほど闘志を燃やして悪に挑んだお前は、あれは偽りのお前だったのか!」
ガツンと頭を殴られたようだった。
本物の雷牙が敵。その絶望に飲み込まれ見失っていたものを、目の前に突き付けられた気分だった。
「……そうだよ……。
最初は雷牙のマネだった……。でも、今は違う!
悪を憎む心はあたし自身の、本物の気持ち……!」
あかりは地面を踏みしめ、ゆっくりと立ち上がった。
「……何ッ……?」
真雷牙が数歩後退する。あかりの身体から発せられる得体の知れない力に、真雷牙は気圧されていた。
あかりは傷ついた雷牙を庇うように、真雷牙の前に飛び出した。勝算はない。だがそうせずにはいられなかった。
「雷牙が悪に屈するはずがない……!
いくら斬鉄ブレードを持っていても……いくら本物の雷牙でも!
悪に染まった雷牙が本物なわけない!
もし本物の雷牙が悪の心に負けたのなら……今からあたしの弧次郎さんが本物だよ!」
「あかり……っ!」
あかりの背後で、雷牙が立ち上がる。
「く……世迷い言を……っ!」
斬鉄ブレードを構える真雷牙。その刃が自分に向けられている事を知りながら、あかりは臆せず真雷牙の顔を真っ直ぐに見据えていた。
「たしかにあなたは強いし、あたしは変身出来ない……。
でも、あたしは世界も、あたしの弧次郎さんも守る!
敵うわけない? そうだよ、つまり……!
絶体絶命の大ピンチ!
くああああ~~~! 超っ! 燃えてきたぁぁぁ~~~っ!」
あかりが叫ぶ。その声は、僅かな迷いも混じっていない、純粋な意志がみなぎっていた。そして。
マスクドガイ雷牙のテーマ。
「え……、この曲……!」
あかりが慌ててスマホを取り出す。
その曲を奏でているあかりのスマホは、あかりの闘志を吸い込み、光を放っていた。
「な……なんだ……っ」
眩い光から目をかばいながら、真雷牙はさらに数歩、後退する。
「この力は……!」
雷牙は、スマホからあふれてくる光に包まれ、あかりの力を全身に浴びながら――消滅した。




