シーン6 魔法大戦 破。
「さぁてと。俺様の出番か」
アキラ・ユーマはニヤニヤと笑いながら、智恵達を見上げた。
ホーキングは真剣な視線をアキラに向けたまま、智恵に声をかける。
「油断すんなよ……。奴はいろんな呪文を知ってやがるからな……」
「わ、わかってるわよ……」
智恵の声はわずかに震えていた。魔法を使った戦いなど経験がない。いや、想像したこともないのだ。
作戦どころか、どうすればいいのか皆目見当がつかない。
「奴が呪文を唱えたらマジックターンシールドを張れ!
奴の攻撃を防いだら一気に……」
ホーキングが智恵に指示を出そうとするのを遮って、アキラは声を上げた。
「相談する暇なんかやるかよ!
ほぉら爆乳ねえちゃん、俺様にくっついとけ!」
アキラは黄仙の身体を抱き寄せると、詠唱を開始する。
「風の精霊よ! 風の力の源、飛竜フェイロンよ! 我が導きに従え!!
……カイザァァサイクロン!!」
空気が急激に動き始めた。アキラを中心に渦を巻き始める。
「……やべえ!」
ホーキングは無論、この呪文を知っていた。術者を中心に巨大な竜巻を生じさせる。術者の周囲わずかな空間だけが渦の目という安全区域となる、文字通り一風変わった呪文だった。
智恵は慌てて防御するが。
「マジックターンシールド……!
……きゃああっ!」
「うああああぁっ!」
智恵はホーキングごと竜巻に巻き込まれ、地面に落下した。
「な、なんだいこの魔法……!」
アキラに抱き寄せられた黄仙か、渦の目から見上げる竜巻に息を飲んだ。
アキラは竜巻を収束させると、地面に倒れている智恵達を余裕たっぷりの表情で見下ろした。
「飛んでる時は突風に気をつけなきゃなぁ?
シールドで魔力は防げても、起きた風までは防げねーし?」
「くっそぉ……」
ホーキングはアキラを睨みつける。実力の差は明白だ。あれだけ強力な魔法を平然の使いこなす魔力もさることながら、敵の能力、状態に合わせて最適な魔法を選ぶ判断力。
魔法の知識もない智恵が呪文を唱えねばならない自分たちでは、勝負にもならないだろう。
どうやってこの状況を打ち破るか――。
必死で考えるホーキング。アキラはニヤニヤと笑いながら、楽しげに声をかけた。
「ほぉら、今度はそっちのターンだ。攻撃してみなー?」
――この魔法使いに対抗するには、これしかない……っ!
ホーキングは力強く目を上げた。
「ちぃ……っ! こうなりゃ、変身すんぞ、智恵!」
……だが。
「……何ッ!?」
ホーキングが驚愕の声をあげた。
「何よ!?」
「ケータイが……違う……? 入れねえ・・・!」
「え……っ?」
一瞬きょとんとした智恵だったが、すぐに後ろめたそうな顔になった。思い当たる節しかない。
ホーキングは呆れ果てつつ激怒した。
「こんのバカチビ! てめえ、携帯変えやがったな!
どーりで俺様消えちまってたわけだ!
俺様は、前の携帯そのものに宿ってたんだ!
宿るにはとんでもねー力が要る。そー簡単には宿りなおせねえんだぞ!」
「なっ……」
自業自得とは言え、とんでもない状況に陥った事に気付き、絶句する智恵。
「前の携帯はどうした! もしかしたら変身には使えるかも知れねえ!」
ホーキングの提案は、智恵をさらに絶望させた。
「あ、あれは……、もう……分解したわよ……!」
ホーキングは目眩がするほど呆れ果て、脳が沸騰するほど激怒した。
「くぁぁああああ! てめえここまでバカだとは思わなかったぜ!
科学バカ! 算数おたく! てめえの算数でもこうなる事くれえ予想出来なかったのかよ!」
「あああああもううっさいわね!
今更そんな事言われてもどうしようもないでしょ!」
智恵とホーキングの言い合いを呆れて聞いていたアキラは、割り込むように口を挟んだ。
「……なぁ? これだけ待ってんだから、お前らのターンはパスだと思っていいんだよな?」
ハッとしてアキラを見上げる智恵とホーキング。
アキラは気軽に呪文を唱えてみせた。
「集え! 光の矢!」
先ほど智恵たちが使った光の矢が、アキラの周囲に集結する。
「ほーら食らいな! フォトンアロォーーーッ!」
アキラの周囲に集った無数の矢が、智恵とホーキングに殺到した。
「避けろ智恵!」
言うなり、ホーキングは智恵をひっかけて光の矢を避けるが、間に合わない。
「……ぐああああっ!」
「きゃあああっ!」
またも地面に叩きつけられる智恵とホーキング。完全に成す術もない。
「さすが……一方的じゃないか……!」
黄仙は驚きを隠せない。さすがにここまで力の開きがあるとは思っていなかったのだろう。
「あはは! そらそーだ。あんなの俺様の劣化コピーにもなってやしねえしな!」
「く……そぉ……っ」
アキラの余裕ぶりに比して、ホーキングはもうボロボロになっていた。実力の差は埋めがたいと痛感していた。だが、負けるわけにはいかない。
「ホーキ……今使える一番強い魔法は……?」
その時、智恵がホーキングに囁いた。
「何!?」
「一番強い魔法は何かって聞いてるの! あたしの魔力とあんたの力、全部使えば……」
智恵の提案は、これだけのダメージを負っている状況で使える作戦ではなかった。大量に魔力を使えば消耗もする。そもそも今の二人は、魔法を制御できる状態ではないだろう。
「バカ言え! いきなりそんな魔法撃てるか!」
「やらなきゃ負けるのよ!
それに……!」
智恵の瞳に冷静な光が宿っていた。考えなしの蛮勇と言うわけではないらしい。
「ふん。……作戦が、あるってのか……?
わかった、お前の作戦に、乗ってやらぁ!」
智恵はホーキングを掴んで立ち上がった。
「じゃあ……いくよ!」
「おうっ!
いでよ黒炎……灼熱の炎嵐……」
ホーキングが先導して囁く呪文を、智恵は気合を込めて詠唱していく。
「いでよ黒炎! 灼熱の炎嵐!」
「爆炎よ渦をまき天空へその牙跡を穿て……!」
「爆炎よ渦をまき天空へその牙跡を穿て!」
「爆炎竜巻!」
ホーキングの先導が呪文全てを言い切った時、アキラが鼻で笑った。
「ふん、その呪文ならマジックターンシールドで……」
「今よ、ホーキ!」
智恵がホーキングを放り投げる。
「ぃよっしゃあ!」
「何ッ!?」
驚くアキラの傍をパスして、ホーキングはアキラの背後に回った。
「う、後ろに回り込まれた!?」
アキラの横で黄仙が振り向く。
智恵は作戦の成功を確信して叫んだ。
「シールドは一方向にしか張れない! これで終わりよ!
爆炎竜巻っ!!」
「おおおおおおお~~~~~~!!」
ホーキングが吼えた。……が。
「……な、なにっ!?」
「魔法が……出ない!?」
ホーキングからは火の粉ひとつすら出てこない。全く、何も起きなかった。
「あはははははは! 良い作戦だったなぁ!
反対側から呪文放てば、前に張ったシールドじゃあ守れねえってさ。
俺様がシールド張る前に気づかれちゃあ台無しだけどな」
アキラは大笑いしながら、前にいる智恵と背後に回ったホーキングをかわるがわる眺める。
ホーキングはアキラの言葉に違和感を感じていた。今起きた事は、魔法をシールドで防がれたんじゃない。魔法は発動しなかったのだ。
その理由は。もしや。
ホーキングは考えたくなかった。もし想像が正しければ、ホーキングと智恵には、完全に勝ち目がないからだ。
アキラの勝ち誇った言葉はまだ続いていた。
「でもなー、シールド張るまでもなく、呪文発動しなかったよな?
なんでかわかるかー?」
アキラはホーキングの顔を見てニヤリと笑った。
「お前らの使う魔法、俺様ぜーんぶ知ってんだわ」
最悪だった。最悪の予想が的中してしまったのだ。
「キャンセル呪文……やはり……」
「おー、さっすが俺様のイミテーション、良く知ってんなぁ。
マナの動きをそっくり逆転させて打ち消す。
わっかるかー? どういう意味か?」
アキラは智恵に顔を向けて言った。
智恵は厳しい視線でアキラを見返した。答えはわかり切っていた。
「アキラ・ユーマはあたし達の呪文を全て知ってる……。
あたし達の魔法はもう……無力だって事……」
「そうそうそ。そっちのホウキくんは俺様の呪文全部把握してんだろうけど?
魔力を使うキーがおチビちゃんなんだから、とっさにキャンセルするなんて芸当はできねーわなぁ。
わかるかー? イミテーションは、オリジナルを越えられねーんだよ、絶対にな!」
アキラの正しさは疑いようもなかった。悔しいが、認めざるを得ない。
だが、最後の部分だけは否定したかった。
「そんな事……っ!」
だがもう既に、アキラは智恵への興味を失っていた。くるりと振り向き、黄仙の肩を叩く。
「おい、爆乳ねえちゃん、そろそろお仕置きタイム再開といくか?
もうおチビちゃんはなーんもできねーからな。好きにしな」
「あぁ、あとは任せな」
黄仙は妖艶な笑みを浮かべ、智恵に一歩近づいて鞭を鳴らした。
「生意気な小娘ちゃん、たっぷり楽しませてあげるよ」
「くっ……!」
智恵の表情に恐怖が走る。その時、ホーキングが動き出した。
「そんな事……させっかよ……!」
智恵をかばおうと、ホーキングが全力で飛翔しようとしたその時、アキラがからかうように口を開いた。
「はい、不動金縛り……ロック・ボディ!」
その瞬間、ホーキングの身体が空中で静止する。一時的に、完全に動きを封じてしまう呪文だ。
「んなっ……!」
「あーあ、守りに行こうとしてたのに残念だったなぁ?
こんな簡単な呪文でも、使いようによって決定的な力を持つ。それが魔法だ。
おチビちゃんの作戦は良かったんだけど、あんまり離れちゃいけなかったなぁ?」
分断され、離れ離れになった智恵とホーキングは、絶体絶命のピンチだった。
逆転の目は皆無。絶望でしかない。
「ふん、さんざん手こずらせてくれたけど、最期はあっけなかったねェ?
馬鹿な作戦さえ考えなければ、まだ抵抗出来たかも知れないのにねェ」
ゆっくりと智恵に近付きながら、黄仙は鞭に風をまとわせた。
「サイクロンウィップ!」
鞭がうなりを上げて智恵の足を打った。悲鳴を上げて倒れる智恵。
「きゃあっ!」
「智……恵……っ……。
……ぐぅっ……」
空中に固定されたホーキングが、全身の力を込めて呪縛を脱しようとしていた。だが自力で脱出することなど出来ない魔法だという事は、嫌というほど理解している。
それをニヤニヤ笑いながら見ていたアキラは、ふと思い出したように口を開いた。
「あーそうだ。俺様を含めて……妄想界の連中は大抵、大勢の妄想の集合体だ。
ここにいる黄仙だって、古来からあるこの妖怪を知ってる奴全ての記憶や想像で出来ている。
つまり、その全員の記憶から消してしまわねえ限り死ぬ事も消える事もねえ。
が……ホウキ、お前みてえに個人の妄想力単体で存在してる奴は……妄想主が消えれば消える。
よーするに? 俺様達は不死身、お前らは死ぬ事もあるっつーことだ。
まぁお前は、あのおチビちゃんが俺様を元に妄想したもんだからな。俺様の一部が独立したようなもんだ。
だーかーら。逆に俺様に取り込む事も出来る……つうわけだ」
「な……なに……っ」
笑いながらゆっくりとホーキングに歩み寄るアキラ。ホーキングは逃げようにも逃げられない。
「う、うそ……っ、ほ……ホーキ……!」
智恵は動かない足を引きずるようにして、ホーキングの方へ身体を向けた。
そこへ降ってくる黄仙の声。
「よそ見してる場合じゃないだろ? お馬鹿なお嬢ちゃん?」
「あ……あ……っ」
黄仙は、鞭に突風をまとわせた。
「サイクロンウィップ! かまいたち!」
「きゃあああっ!」
ホーキングの目に、智恵が無数のかまいたちを受ける光景が飛び込んでくる。
「智恵……っ!」




