シーン9 青いピンチ
黄仙がムチを鳴らしながら近づいてくる。智恵はじりじりと後退りして距離を取っていた。
全力で逃げ出したいのだが、すぐに追い付かれるのは目に見えていたし、走ることで体力を消耗するのも避けたかった。
黄仙は焦らすようにゆっくり近づいて来る。その理由はわからなかったが、今はその状況に乗るしかなかった。
「どうしたら……どうしたらいいの……! このままじゃ……」
しかし事態が好転する要素は全く無く、状況は絶望的と言って良い。
智恵の悲壮感漂う表情に、黄仙は高笑いを浴びせた。
「おーーーーっほっほっほ!
考えても無駄無駄!
変身も出来ないくせに、この黄仙姐さんに対抗出来るわけないだろ?
たっぷりと恐怖を楽しんでもらわなきゃねェ?」
黄仙はゾクリとするような妖艶な笑みを浮かべて、また一歩、智恵に歩み寄った。
「そーそーそ。さっきから新しいパートナー考えてたみてえだけどさー。
出来るわけねーじゃん?
自分の妄想の原点すら忘れてる奴には、新しい妄想どころか妄想の再生すらできねーよ!」
二人の様子を眺めていたアキラが馬鹿にしたように大声で嘲る。だが智恵はその言葉にハッとした。
「妄想の……原点……!」
智恵の脳裏に引っかかっていた言葉が蘇る。
――その知恵と力と勇気を手に入れるには、絶対にあきらめずに今をしっかり生きることだ――
「諦めない……!
あたしの原点……絶対に見つけてみせる……!」
智恵の目に力が戻った。
だがそれより早く、黄仙は一気に距離を詰めて、ムチを振り上げていた。
「無駄だって言ってんだろ!
これで終わりさね!
サイクロンウィップ!」
しなるムチが空を斬り、いくつもの真空の刃を放った。かまいたちだ。
放たれたかまいたちは正確に智恵を襲う。
「きゃぁぁっ!!」
智恵が悲鳴を上げた途端、かまいたちは智恵に触れることなく、手前で弾かれ消滅した。
「な、なんだい!?」
「結界を張った……だと?」
黄仙とアキラが同時に声を上げた。
「無意識に魔力を発揮したってのか……!?」
信じられないという表情でアキラが呟く。黄仙は忌々しげにムチを智恵に振り下ろした。が、結界に弾かれてしまう。
「くぅぅ、いらつくねえ……!
アキラ、こんな結界破れないのかい?」
「ここはこいつの妄想領域だ。そう簡単にはいかねーだろうな。
結界を破るのが先か、こいつがパートナーを作り出すのが先か……。
ま、結果は見えてるけどな」
アキラはまだ余裕の顔で言った。多分それは事実なのだろう。智恵は自分に残された時間は少ないと感じていた。
「くっ……急がなきゃ……!」
智恵は目を閉じた。結界がどれだけ持つのかわからないが、それまでにパートナーを作り出さなければならないのだ。
「よーし爆乳ねえちゃん、全力で結界、ぶっ壊すぜ!」
「あぁ。あんたこそ、手を抜くんじゃないよ!」
智恵の頭上で黄仙のムチが、アキラの魔法が、耳をつんざく音を立てて結界に叩きつけられる。
「あたしの……原点……!」
智恵がそう呟いた時、襲いかかる轟音が、智恵の意識から、消えた。




