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正義の軍略家 ~自衛隊エリート、異世界で義勇軍を率いて腐敗を討つ~  作者: ローナ


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2/26

訓練の始まりと、獣人の少年

朝日が村に差し込む頃、神崎蓮はすでに広場の中央に立っていた。

昨夜の宴で村民たちから聞いた話は、予想以上に深刻だった。

この辺境の村「エルム村」は、フェルン王国の支配が弱く、領主の税は重く、魔物の被害は年々増えている。しかも、近くの森では時折「奴隷商人」の影も見かけるという。

「まずは基盤を固めないと」

蓮は静かに呟いた。

転生してまだ一日。ステータスはレベル2になったが、まだまだ弱い。

しかし、自衛隊で叩き込まれた「即応性」と「訓練の重要性」は、今すぐ活かせる。

「皆、集まってくれ」

蓮の声に、村人たちが広場に集まってきた。

昨日ゴブリンから守ってくれた青年たち、村長、婦女子、そして昨夜初めて顔を見た数人の獣人たちもいた。

獣人の少年——狼族の耳と尻尾を持つ、13歳くらいの瘦せた少年が、怯えた目でこちらを見ている。

名前は「ルーク」。昨日、森の奥から逃げてきた元奴隷らしい。

「まずは自己紹介を兼ねて、俺の考えを話す」

蓮は村民たちをまっすぐ見つめた。イケメンになった顔立ちと、軍人らしい落ち着いた声が、妙に説得力を持っていた。

「俺は神崎蓮。この村を守りたいと思っている。

だが、昨日みたいな魔物の襲撃がまた来るかもしれない。領主の税取りも、奴隷商人の影もある。

一人で戦うのは限界だ。だから——皆で強くなる必要がある」

村人たちがざわついた。

「強くなる……って、どうやって?」

若い男の一人が恐る恐る聞いた。

「訓練だ。

今日から、俺が知っている方法で皆を鍛える。武器の扱い方、動き方、連携の仕方。

それと、衛生管理と簡単な防衛策も教える」

蓮は淡々と説明を始めた。

まず、村の男たち10名ほどを前に、基本の「構え」と「足運び」を教えた。

自衛隊の徒手格闘の基礎を、棍棒や農具に置き換えて簡略化する。

重心の移動、呼吸のタイミング、相手の攻撃を予測する視線——どれもファンタジー世界では珍しい考え方だった。

「力任せに振るんじゃない。体重を乗せて、効率的に。

一撃で倒せなくても、仲間と連携すれば勝てる」

実演しながら、蓮は何度も修正を入れた。

村人たちは最初戸惑っていたが、昨日蓮がゴブリンを倒した姿を思い出したのか、真剣に取り組み始めた。

一方、女性や子供たちには別の指示を出した。

「水を綺麗に保つこと。傷口は清潔に。煮沸した布で消毒する。

病気が広がれば、戦う前に負ける」

現代の衛生知識——消毒の概念、栄養バランスの簡単な話。

この世界では「魔法で治せばいい」と思われがちだが、魔法使いが少ない辺境では現実的ではない。

【スキル『基礎訓練指導』を取得しました】

頭の中に文字が浮かんだ。

どうやら、行動に応じてスキルが少しずつ開花するらしい。

蓮は内心で頷いた。「段々来る」——女神が言っていた通りだ。

午後になると、訓練はさらに本格化した。

蓮は村の周囲に簡単な「罠」を仕掛けるよう指示した。

落ち葉で隠した落とし穴、引きつり縄、警戒用の鐘の設置。

自衛隊の野外訓練で学んだ「即席防御」を、魔法のない世界に適応させる。

ルークという獣人の少年が、蓮の近くで一生懸命に縄を編んでいた。

耳がピクピク動き、尻尾が不安げに揺れている。

「ルーク、お前も参加しろ」

「……僕、奴隷だったから……役に立たないよ」

少年の声は小さかった。

人間に虐げられてきた記憶が、目を伏せさせている。

蓮はしゃがみ込んで、少年の目線に合わせた。

「俺は種族で人を判断しない。

強くなりたいと思うなら、誰でも歓迎だ。お前には獣人の敏捷性がある。それを活かせば、偵察や罠作りに向いている」

ルークの目が少し大きく見開かれた。

「……本当に? 僕を、仲間として?」

「ああ。俺の軍団——いや、今はまだ自警団だが、そこに入る気があるなら、今日から一緒にやる」

【クエスト『村の防衛網を強化せよ』 進行中】

再び通知が浮かぶ。

蓮は微笑んだ。この世界のシステムも、少しずつ味方になってくれているようだ。

夕方近く、訓練の成果を確かめるために簡単な模擬戦を行った。

村の男たちを二組に分け、蓮が片方の指揮を取る。

もう片方は村長の息子がリーダーだ。

「陣形を崩すな! 前衛は盾代わりの板を並べ、後衛は棍棒で突く!」

蓮の号令のもと、動きが徐々に揃っていく。

昨日までバラバラだった村民たちが、わずか一日で「連携」の片鱗を見せ始めた。

しかし——

森の奥から、低い咆哮が聞こえてきた。

「また魔物……?」

村民たちが緊張する。

蓮はすぐに指示を飛ばした。

「訓練中止! 全員、昨日の陣形で集まれ! ルークは高い木に登って様子を見ろ!」

獣人の少年は頷き、驚くべき速さで木に登った。

敏捷性の高さが早くも活きている。

「ゴブリン……今度は8体! しかも少し大きい!」

ルークの報告に、村民たちが青ざめた。

蓮は冷静に状況を分析した。

「昨日より数が多い。レベルも少し上がっている可能性がある。

だが、俺たちが昨日より強くなっているのも事実だ。

皆、恐れるな。連携すれば勝てる!」

彼は前線に立ち、ナイフを構えた。

鑑定スキルで素早く敵を確認する。

ゴブリン戦士 LV5

HP 52/52

「少し厄介だが……いける」

戦闘が始まった。

蓮の指揮のもと、村民たちは即席の陣形を組んだ。

前衛が棍棒と板で受け止め、後衛が横から攻撃を加える。

昨日は個人の技量で凌いだが、今日は「集団」として戦う。

蓮自身も前線で戦いながら、的確に指示を出す。

「右翼が薄い! 2人移動! ルーク、背後から石を投げて注意を引け!」

少年は木の上から石を投げ、ゴブリンの注意を逸らした。

その隙に、村の男たちが一気に攻め込む。

【スキル『簡易指揮強化』 レベル1を取得しました】

戦闘中にもスキルが光る。

蓮の動きがわずかに鋭くなり、声の届く範囲で村民たちの士気が上がった気がした。

戦いは激しかったが、昨日より被害は少なかった。

最後のゴブリンを蓮がナイフで仕留めた瞬間——

【クエスト『村の防衛網を強化せよ』 完了!】

【経験値大量獲得】

【レベルが3上昇しました】

【現在のレベル:5】

村民たちから歓声が上がった。

「勝った……俺たちで勝ったぞ!」

「蓮様のおかげだ!」

ルークが木から降りてきて、興奮した顔で駆け寄ってきた。

「僕……役に立てた?」

「ああ、よくやった。今日のお前は立派な斥候だった」

少年の尻尾が勢いよく振られた。

初めて見る、純粋な笑顔だった。

その夜、村では小さな祝宴が開かれた。

昨日より少し豪華な食事。村民たちの表情にも、希望の色が混じり始めていた。

蓮は焚き火の傍らで静かに考えていた。

「まだ小さい軍団だ。

だが、種は蒔けた。

これからもっと人を集め、訓練を積み、知識を活かしていく。

腐敗した領主、奴隷商人、そして魔王軍……

すべてを、正義の力で叩くために」

【簡易インベントリが少し拡大しました】

新たな通知が頭に浮かぶ。

力は、ゆっくりと、しかし確実に目覚め始めていた。

村の外れで、ルークが一人で棍棒を振るう姿が見えた。

少年は必死に、今日学んだ動きを繰り返している。

蓮は小さく微笑んだ。

「いいぞ、ルーク。

お前も、俺の義勇軍の最初の仲間だ」

遠くの森では、また新たな魔物の気配が蠢いていた。

しかし、村にはもう、昨日までの無力な恐怖はなかった。

正義の軍略家が率いる、小さな抵抗の火が、静かに燃え始めていた。

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