奴隷商人の本拠地へ
ヴォルド男爵の使者が去ってから十日が経った。
『秩序の盾』は着実に力を蓄えていた。
総勢はすでに82名に達し、訓練の質も日を追うごとに上がっていた。
エルム村とミスト村の二拠点体制は安定し、食料の備蓄も少しずつ増え始めていた。
神崎蓮はミスト村の簡易司令所で、地図を前にエリシア、シオン、ルーク、ミアと会議を開いていた。
「次の目標は、奴隷商人の本拠地『黒鉄商会』の前哨基地だ。
場所はカルバン砦の南西、森の奥にある『ガルドの砦』。
ここを叩けば、奴隷商人の補給線を大きく乱せる」
シオンが地図を指差しながら報告した。
「斥候の情報では、砦の守備兵は約70名。
奴隷の檻が十以上あり、捕らわれている獣人が50名近くいるらしい。
リーダーはガルドンの上司、奴隷商人の中堅幹部『ザルグ』という男だ」
エリシアの目が鋭く光った。
「私も行く。
前衛として、砦の門を破る」
蓮は頷き、作戦を説明した。
「今回は正面突破ではなく、夜間の同時多点攻撃だ。
第一隊:俺とエリシアで正門を叩き、注意を引く。
第二隊:シオンとルークが裏門から侵入し、檻を解放。
第三隊:ミア率いる支援隊が外周で補給物資を確保し、逃げ道を確保。
目的は勝利ではなく、捕虜の解放と砦の機能麻痺。
可能な限り敵を殺さず、混乱を最大限に広げる」
ルークが興奮気味に尻尾を振った。
「了解! 僕、裏門の鍵を壊す役目やるよ!」
ミアが少し不安げに聞いた。
「本当に……勝てるのでしょうか? 人数はまだ敵の方が多いのに」
「人数では劣るが、準備と連携と奇襲で勝つ。
これが現代戦術の真骨頂だ」
蓮の言葉に、全員が静かに頷いた。
作戦決行は二日後の夜に決まった。
その間、蓮は徹底的に訓練を重ねた。
夜間行動の連携、合図の笛の使い方、撤退時の分担——細部まで詰めていく。
そして、決行の夜。
月が雲に隠れた暗い森の中、『秩序の盾』の選抜隊52名がガルドの砦に接近した。
蓮は最前線で息を潜め、タイミングを計っていた。
「今だ。
第一隊、突入!」
蓮とエリシアが先頭に立ち、正門へ突進した。
エリシアの狼族の力で門の閂がへし折られ、蓮が中へ飛び込む。
「敵襲だ!」
砦の中が一瞬で騒然となった。
傭兵たちが武器を手に殺到してくる。
蓮は冷静に声を張った。
「前衛、陣形を崩すな! 横に回り込め!」
エリシアが獣人の力で先頭の敵を吹き飛ばし、蓮がその隙に急所を的確に打つ。
レベル24の身体能力が、暗闇の中で敵を翻弄した。
一方、裏門ではシオンとルークが素早く侵入に成功していた。
「檻だ! 早く!」
ルークの敏捷性で鎖を切り、シオンが捕虜たちを誘導する。
「『秩序の盾』だ! 逃げろ! 森へ一直線に!」
解放された獣人たちが、次々と砦から脱出していく。
ザルグという奴隷商人の幹部が、奥の建物から怒鳴りながら出てきた。
「何者だ! このガルドの砦を……!」
蓮はザルグを睨み、冷たい声で言った。
「弱い者を売り飛ばす者たちに、正義の鉄槌を下しに来た。
お前たちの時代は終わる」
戦いは激しかったが、『秩序の盾』の連携が勝っていた。
事前の訓練が功を奏し、敵は混乱のまま次々と倒れていく。
【スキル『夜間突撃指揮』 レベル1を取得しました】
【現在のレベル:26】
蓮の頭に通知が浮かぶ。
戦闘中にも力が少しずつ目覚めていた。
三十分後、作戦はほぼ成功した。
捕虜のほとんどが解放され、砦の補給倉庫は大きく荒らされた。
ザルグは捕らえられ、重要な情報を吐くことになった。
撤退の笛が鳴らされ、『秩序の盾』の隊は森へ退却した。
損害は軽傷者数名のみ。敵の死傷者は四十名近くに上った。
村へ帰還した時、解放された50名以上の獣人たちが、希望の涙を流しながら迎えられた。
総勢は一気に130名を超えた。
広場で、蓮は皆の前に立った。
「今夜の勝利は、皆の連携の賜物だ。
これで奴隷商人の一部が大きく弱体化した。
しかし、まだ本拠地は残っている。
ヴォルド男爵も黙っていないだろう。
これからも訓練を続け、軍団をさらに強くする。
俺たちの目標は、辺境全体を正義の領域に変えることだ」
エリシアが力強く宣言した。
「私は前衛として、蓮の盾になる。
どんな敵が来ても、絶対に守り抜く」
シオンとルークも頷き、ミアが静かに微笑んだ。
焚き火の周りで、新しく加わった獣人たちが、
人間と肩を並べて笑い合う光景が広がっていた。
蓮は少し離れた場所で、静かに空を見上げた。
「自衛隊の頃は、ただ守る側だった。
ここでは、守るだけでなく、新たな秩序を創る側に回っている。
正義感だけじゃない。戦略と仲間がいるからこそ、できることだ」
遠くのカルバン砦では、ヴォルド男爵が激怒の報告を受け、
さらに大きな軍を動かそうとしていた。
また、奴隷商人の上層部も、『秩序の盾』という名を初めて認識し始めていた。
しかし、神崎蓮の瞳には、迷いなど微塵もなかった。
「次はもっと大きな一手を打つ。
黒鉄商会の本拠地を狙い、辺境の解放を進める。
そして、いつかこの大陸に、真の秩序を——」
『秩序の盾』の炎は、
辺境の闇を照らす灯火として、
着実に、力強く燃え広がり始めていた。




