第五話 ピエール・ダンテス
リシャールはピエールを連れて領地へ帰還した。
集められたのは総督のミシェル、副官のヴァイスと四男爵。青のアンニバル、黒のダミアン、白のアイザック、赤のマンフレッドである。
「この中で、生前のマテュー・ド・イルベール大佐と面識があるのは?」
マテューは戦死と認定され二階級特進となっている。あの任務を無事に終えていれば、中佐に昇進してそのまま予備役編入だったはずで、結果的に予定よりも上の階級を得たのは何とも皮肉である。
「彼は士官学校の二期下で、直接の接点はありませんでしたが」
とマンフレッド。
「公爵家の息子が入ってきたときの騒動は覚えています」
士官学校には貴族の子弟も多いが、その中でも公爵家は別格である。
伯爵家以上の上級貴族は少佐任官なので席次争いには固執しない。結果として平民が席次の上位を占めるのであるが、公爵家の出身者ともなると同期の貴族出身者たちが取り巻きを形成してサポートに回るので、比較的好成績を叩き出す。
「それでも首席ではなかったと思うが」
「自分は一期下なので、名前は知っていたが」
とダミアン。
「成績は三席と五席とか。それくらいだったと思う」
席次が付くのは五席までだが、普通に自慢できるのは次席までだろう。
「自分は士官学校ではかすっていないが」
と副官のヴァイス。
「司令部にいたから会ったことはある。と言っても向こうが覚えいるかどうかは別の話だが」
「俺は同期の顔すら曖昧なのに」
アイザックはそもそも彼は他人に興味がないので聞くだけ無駄だ。
「士官学校に行っていない小官にはお貴族様との接点を持ちようがない」
とアンニバル。
それぞれの話が終わったところで、
「では本人を紹介しよう」
とリシャール。
「ピエール・ダンテス君だ。当面は総督府で書記官をやってもらう」
入ってきた人物は顔の上半分を仮面で覆っている。素顔ではなく額にめり込んだ本体を隠すためだ。
「傷があると言う設定だが、一応素顔も見ておいてもらおうかな」
と言われてピエールは仮面を外す。
「申し訳ないけれど、顔に見覚えがあるのに名前が紐付けされていない」
と率直なピエールに、
「別に貴方が気に病むことではないさ」
とマンフレッドがフォローに回る。
「彼ならそもそもそこで謝ったりしないだろうなあ」
とヴァイスも苦笑する。
「実に見事に融合しているなあ」
アイザックは一人近づいて融合部分を観察している。
「上から人工皮膚を張り付ければ、瘤でごまかせるかもしれないが」
「仮面を外さないといけない場面があったら考えてみよう」
顔繋ぎが済んだところで、
「じゃあ技術部門のジャンセン技術将校と、陸戦部隊指揮官のハーキュリー特務中佐を残して、他は仕事に戻ってくれ」
普段なら砕けてファーストネームで呼ぶところをあえてオフィシャルな言い回しにしている。
副官のヴァイスが同席を希望したので、
「口出しをしない事」
を条件に背後での聞き取りを許可した。と言うか記録して報告書としてまとめさせたのである。
リシャールとピエール、アイザックとアンニバルの四人がテーブルを挟んで会議を始める。
「議題はGユニットについてだ」
とリシャールが口火を切る。
「あのユニットの中には彼の同族が封じ込められているらしい」
詳細はピエール本人から語られる。
まずは我々の生態に付いて理解してほしいのですが。
我々は母体の生命が尽きると、全体を石化させて休眠状態に入ります。そして新たな宿主と接触すると分裂して活動期に入るのですが、分裂した各個体同士は相互に通信が可能です。
各個体は極めて微弱な空間操作能力を有し、その重力波によって意思疎通を行います。
「それがユニットの重力発生機能に応用されたと言う事かな」
ええ。その為にはきわめて膨大なエネルギーを必要とします。ユニットはエネルギーの増幅装置のようなものが組み込まれているのでしょう。
太古の昔、我々の同胞が皆さんの母星に飛来し、協力してユニットを作り出して共に宇宙へと旅立ったのでしょう。
「ユニットの中の構造は判るかい?」
とアイザック。
「残念ながら。彼らとは何世代も前に分かれたので、言葉が通じません」
厳密に言えば意思疎通が可能なのは分裂した同胞のみらしい。
「なるほど。Gユニットを新たに作るのは不可能。いや作れたとしても、既存のユニットと連動させることができないのか」
「そういう事になります」
ピエールは頷いた。
「そろそろ小官にもわかる話をお願いします」
とアンニバル。
「ユニットに関する話なら、小官ではなくデアボロス航海長の分野ではない。と思っていたのですが」
どうもそうではないらしい。
「陸戦隊にはピエールの同胞の回収任務を任せたい」
とリシャール。
「その為の注意事項を伝えるのが一点。より重要なのが回収してその後どうするかと言う話だ」




