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会合戦記 疫病神と呼ばれた提督は望まぬ出世街道を突き進む  作者: 今谷とーしろー
温故篇

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第四話 レザレクション

「彼が目覚めました」

 連絡を受けたリシャールは病院へ向かう。

「私が眠っている間に随分と出世したようだな」

 彼はリシャールの元上官。マテュー・ド・イルベール元少佐。任務中に負傷して予備役に編入された。あれから五年余り経っている。

「その額の石はそのままなのですね」

「それについては私の方でご説明申し上げます」

 ベッドの隣に控えていた老紳士が一礼して話を引き継いだ。

「確か公爵家の執事さんだったな」

 任務を終えて帰還した直後に会っていた。

「元執事でございます。坊ちゃん。マテュー様がこの様な状態になった時に暇を出されましたので」

 リシャールは勧められた椅子に腰かけて元執事の話を聞く。


 結論から言えば、マテュー様はもはやお亡くなりになっています。今マテュー様の体を動かしているのはその額に付いている鉱物生命体なのです。リシャール殿が彼に手を出さずに遺体を持ち帰って下さったことには感謝申し上げます。

「他の兵士たちから切除したモノから、あれがある種の生命体である可能性には気が付いた。大尉殿の体に余計な処置を施さなかったのは、はっきり言って自分の専門外だからだよ」

 彼はマテュー様の脳と同化してその記憶を利用できるようになっています。

「彼に少佐殿を演じさせる選択肢もあったのでは?」


 マテュー様は公爵家の三男に生まれ、公爵家を継がれた兄上とは腹違いになります。 

 母親の身分で言えば、亡き先妻は男爵家の娘。マテュー様のお母上は伯爵家の娘でした。

 先妻のお父上は先代公爵の軍隊時代の上官に当たり、軍功によって爵位を得た人物です。対して後妻の家は公爵家の遠縁にあたります。と言えば公爵家のお家事情はお察し願えるでしょう。

 自分は奥様の実家である伯爵家に仕えていたもので、マテュー様の医療費も伯爵家から出ています。

 先代が家督をご長男に譲って隠居されたのはマテュー様が戦傷を受けて戻ってきた直後でした。現当主はマテュー様とは十五歳も離れていて、既に妻子もおありでしたから、これ以上家督争いを長引かせない為の配慮だと理解していますが。

 奥様には彼の事を知らせていませんし、彼を利用して公爵家に騒動を起こすことは望まれないでしょう。

「安心したよ。俺としても公爵家のお家事情に干渉するなんて真っ平ごめんだからなあ」


「それで、俺に何をさせたいのかな」

 リシャールは単刀直入に切り込む。

「マテュー様は本日付けで亡くなった事にします」

 マテューは謎の石化病に罹っていたと言う設定にして、棺桶には身代わりの石像を入れて伯爵領の墓地に埋葬する。

「その後に彼の身柄を引き受けて戴きたいのです。辺境伯領であればそれが可能でしょう」

 それ自体は問題ないが、

「君はそれで良いのか?」

 リシャールは彼に訊ねた。

「例えば生まれた星に帰りたいとか」

「まずは我々の生態について説明しようか」

 と彼が話し出す。


 我々は動物と植物の中間位の存在で、まあ君たちと基本的な組成からして大きく異なるのだが。

 別の動物に接触共生して広がっていく。

 単なる寄生ではなく共生と言うのは、我々の存在が宿主の生存に寄与するからだが。それを考慮しても君が我々の兄弟を即座に切除させたのは、適切な判断だったと思うよ。

「それだと、君を母星へ送り届けるのが正解と言う気がするんだが」

 それはこの体に限界が来た時にしてほしい。

 共生した生物が亡くなった時には、共生のバランスが崩れて全身を石化させる。そして次の宿主がその体に触れたときに、分裂して次のサイクルに入るのだ。この体もそうして手に入れた。

 先ほど石化病と表現されたが、死亡時期が違うだけで結果は正しい。但し私が上手く制御すればこの体はあと百年は持つと思う。

「それは他の個体でも同様なのかな?」

 私の場合は特別だよ。

 通常は宿主の方に体の支配権があるが、私は脳と融合したことによって不本意ながらも肉体の主導権を握ることになった。


「彼を引き取ろう」

 リシャールは少し考えてそう結論を出した。

「貴方はどうされる?」

「事後処理を行って、その後は主家に戻って余生を過ごします」

 彼の使えるべき主君はすでに亡い。

 リシャールと彼は一足先に病院を後にした。

 しばらくして病室に棺桶が運び込まれた。中には身代わりの石像、と言っても肩から上だけで、そこから下は造形されていない。布で覆って隠されている。

 棺桶はそのまま母親である前公爵夫人の実家の墓地に埋葬される。

 生母にも真実は伏せられた。事実を知っているのは執事と主治医、そしてリシャールだけだ。


「それは厄介なものを引き受けましたね」

 彼を紹介された皇女殿下は懸念を示した。

「生前のマテュー・ド・イルベール氏と面識は?」

「四つか五つの時に晩餐会で同席したことがあるけれど、向こうは覚えてるかしらね」

 とちらりと視線を向ける。

「残念ながら、彼の古い記憶に関しては検索不能だ」

 と彼が答える。

「名前を付けないといけませんね」

「ピエール。石を意味するので彼に相応しいでしょう。偶然にもイルベール家の通り名とも一致しますが」

 ファミリーネームに関しては、戸籍を作るに際して適当なものを選ぶことになる。


彼は当初の構成ではもっと早くに登場させる予定でしたが、主人公の出世譚を優先した結果このタイミングになりました。

まあ結果的には良かった気もします。

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