027
あたしの家族は、普通の家族だ。
両親とあたし、三人の家族。
だけど両親の喧嘩を見て、あたしは両親に対する考えが変わってしまった。
それまで、取り繕われた両親の寵愛を素直に受けられなくなった。
両親が怖いとさえ、感じるようになった。
「優しくない……効くなぁ」
「ごめん、マジで」再び謝罪する海。
だけど、あたしは分かっていたのかもしれない。
保母という職業をやっていて、みんながあたしを優しい人間だと思っていた。
子供を相手にする仕事でありつつも、どこかに愛を感じられなかった。
「それはその……」
「誤魔化さなくていいよ。本当に、あたしも思っていたし……それが今の結果だ」
強くありたい、それ故に忘れてしまったこと。
それは、あたしの性格の全てだ。
言いながらも、あたしは泣き出した。
れおに対して、申し訳ない気持ちがわき上がったからだ。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「何、泣いているんだ?」
「だって、あたし……取り返しのつかないことをした」
れおを、いじめた。
儀式ということで、あたしは彼を虐待した。
パパと同じで、それ以上に酷いことをした。
まだ小さいれおは、逃げることも声を出すことも出来ないのだから。
「やっぱり、あたしには保母も無理かな?」
「そんなことは無い。まだ30代だろ、やり直せるよ」
「でも、あたし……」
「大丈夫、それを認めて罪を償えばいい」
泣き出すあたしを、優しく抱きしめた海。
その顔は、少し汗臭かったけど温かい。
久しぶりに感じた海のぬくもりに、あたしは涙が溢れていた。
「うん、優しいよ。海は。ズルいほどに」
そう、あたしは海の優しさに触れて好きになったんだ。
こういう所が、気が利く彼があたしは好きだった。
だが、そんなあたしと海のベンチの雰囲気を一つの言葉が切り裂いた。
「こら、そこの若いの。夜中に、公園で騒いでいるんじゃ無い!」
それは、公園の入口から聞こえた声。
立っていたのは、一人の老人。
険しい顔であたし達を睨んで、大きな声で叫んでいた。




