026
住宅街にある公園、ボロボロのあたしが出会ったのはまさかの元彼だ。
中学1年から知り合った同級生の彼は、幼なじみ。
土室 海は、ベンチに腰掛けていた。
あたしも、彼の隣に座っていた。
「海、それで……あんたの夢は叶ったの?」
「道、半ばだ」
「何それ、運転手やめて芸人やるとか……バカじゃ無いの?」
二人で、たわいも無い会話をしていた。
幼なじみの海には、大きな夢があった。
それは芸人になって、有名になること。
初めは、マイクロバスの運転手をしていた。
子供達の目の前で、ネタも披露していた。
その中で、彼は再び芸人になるためにバスの運転手をやめた。
そして、久しぶりに会った彼は芸人では無い。
「配達員になって?」
「芸人の仕事だけじゃ、食っていけない」
「30過ぎて、芸人は無いでしょうに」
「いいだろ、40代でもチャンピオンになれる。今は、そんな時代だ」
「コンビは組まないの?」
「うーん、ピン芸でいいかなって。
何かいいギャグがないかと、常に頭を働かせている」
いつも海は、どこまでも前向きだ。
そんな彼のまっすぐなところは、あたしが好意を持っていた。
「俺よりもお前は、どうしたんだ?その恰好は?
靴は履いていないし、顔は傷だらけだし。
ははーん、子供にやられたか?それとも旦那か?」
「違う……ちがくはないけど」
「そっか。その様子だと、今のお前は幸せで無いな」
「相変わらず一言多いわね、アンタだって……」
「俺は幸せだよ」海は、はっきりと言い放った。
海の見た目は、食事配達員の格好。
芸人をやるために、安定した運転手を辞めた元彼。
海の選択をあたしは、それを愚かだと思った。
でも、今の彼はとても幸せそうにしていた。何より笑顔だ。
「そう言えば、輝ってあんまり変わっていないよな」
「え、何が?」
「弱いところ」
「あたしが弱い?」
「何か、いつも余裕が無くて辛そうだ。
強くなることを、常に求めていて苦しそうにも見えた。
保母になっても、なんだかいろんな事が窮屈そうに俺には見えたんだ」
「あんたじゃなんだから、あたしはもっと繊細なのよ。
それに、初恋の相手にフラレたわけだし」
「まあ、それは……芸人という職業にフラれたんだ。
俺には、今も恋人はいない」
「じゃあ、あたしと付き合ってよ」
あたしは、それでも海に迫っていた。
元々あたしと、海はカップルだ。
腐れ縁で、10年近く付き合った経験もあった。
「それは出来ない、すまん!」
それでも両手を合わせて、海は素直に謝っていた。
「どうして?芸人ぐらいなら、あたしの収入もあるし何とか支えられるでしょ」
「それだけじゃ無い。輝は……なんというか言い出しにくいんだけど」
「何よ、はっきり言いなさい!」
あたしは、不満そうな顔を見せた。
困惑した海は、覚悟を決めたのかあたしの方をじっと見ていた。
「じゃあ言うけど、お前……優しくないよな」
海の一言に、あたしは全てを見透かされた気がした。
そして、全てを悟っていた。
あたしが、大きく道を踏み間違えた理由を。




