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最高の人材を求めて  作者: 葉月 優奈
二話:独身保母・『泉尾 |輝《あきら》』
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時間は、夜になった。

手を縛られたあたしは、とにかく逃げた。

夕日が沈む中、必死で走り続けた。


そして、夜になる頃……あたしは少し離れた公園まで逃げ切れた。

夜の公園は、流石に人はいない。

縛りが甘かったのか、途中で手を縛っていた縄がほどけた。


あたしは、ボロボロになりながらも生き延びた。

朝履いてきた紫のパンプスも、玄関に置いてきていた。

抜け出したのがバレたら、あたしは何をされるかわからない。

黒いストッキングのまま、あたしは何とか逃げ延びた。


(幸い、ここまで来れば……あの高層マンションから離れている)

今頃、的場はあたしを血眼になって探しているのだろうか。

見つかったら、何をさせるか分からない。

それでもあたしはなりふり構わずに、公園にたどり着いた。


(ああ、この公園……懐かしい)

偶然たどり着いた公園は、見たことのある公園だ。

誰もいない公園を、あたしは素通りした。

遊具が置かれたこの公園は、『箕面第四公園』という。


幼い頃、あたしのアパートの近くにあった公園だ。

必死に逃げ回って、あたしはこんな場所に来ていた。

久しぶりにこの辺りに来たので、懐かしささえあった。


(よく小学校の時は、ここに来たっけ)

公園の思い出は、子供の頃の思い出だ。

友達と、毎日遊んだ思い出の場所。

たまに出てくる子供嫌いな老人が、怒鳴り込んでくる事もあった。


それでも、あたしにとっては思い出の深い場所だ。

思わず立ち止まって、誰もいないブランコを見ていた。

街灯に照らされたブランコは、どこか雰囲気があった。


(こういう所で、好きな人をデートとかしたかったな)

あれだけの恐怖体験の後だけど、的場の事を簡単に忘れられないわけでは無い。

おそらく、今のあたしにとって一番好きになれた男だろう。


そんな的場だけど、彼は暴力的だ。

それだけじゃない。保育園児の『れお』と、同一人物だったと言うこと。

にわかに信じられないけど、彼は普通ではない。

決して、それは同姓同名だけではない。

儀式のことも知っていたし、あたしの呼び名も知っていた。


(本当に、あたしが見た『れお』と同じ)

保育園の担当園児でもある『れお』は、まだ三歳児だ。

まだちゃんと言葉に出して、話すことが出来ない。


そもそも、儀式を行なうには逆らわない人間が絶対だ。

言葉に出来ない保育園児は、暴力をするにはうってつけなのだ。

怪我をしても、この年代は注意で頭をぶつけたと言い張ればごまかすことができた。

だから、虐待をするには都合がよかった。


(だから、あたしは暴力を振るった)

子供の時に見た、夫婦喧嘩。

パパの暴力を見てから、あたしはああならないように心に決めたことがあった。


強くならないといけない。

舐められてはいけない。

殴られるだけの人間になりたくない。

だけど、今のあたしはパパと同じ人間になっていた。


「あーあ、嫌だなぁ」

「誰だ?」

そんな誰もいない公園の中に、声が聞こえた。

それは入口の方。


入口の方には、一人の男が自転車をこいで公園に入ってきていた。

街灯に照らされたヘルメット姿の男は、大きなリュックを背負っていた。

そして、その顔を見てあたしは驚いた。


「海……海なの?」

「てか、お前は……(あきら)。どうしたんだよ、その格好」

出てきた男は、あたしを見てやはり驚いていた。


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