022
――2024年10月6日――
――2日前の、昼間。
ひまわり保育園には、午後には『お昼寝時間』があった。
午後1時から2時間、どのクラスにも予定されている時間。
お昼寝の時は、必ず保母が付き添うことになっていた。
だけど、あたしはお昼寝時間に教室にいなかった。
二階建ての二階、倉庫室の前にあたしはいた。
二階の一番端にある倉庫室は、かなり狭い部屋だ。
一階が教室で、園児はほとんど二階に行くことはない。
保母であるあたしは、一人の園児を連れて歩いていた。
それは、頭に傷のある男の子。
髪の毛がしっかり生えた男の子は、たどたどしい足であたしに連れられて歩いていた。
その目は、眠たそうな顔を見せていた。
「ここよ、れお君」
れおと呼ばれた男の子は、あたしに導かれていた。
そのまま、倉庫の中に入ると待っていたのは大黒だ。
「先輩、ご苦労様です」
「うん、大黒。『儀式』は、見つかるとマズイから手早くやって」
「今日は先輩も、一緒にやらないんですか?」
すぐに、大黒はれおの頭を鷲づかみにした。
小さな男の子は、まだ幼いので怯えることも知らない。
ただ、戸惑った様子で暗い倉庫の中にいた。
そのまま、れおの頭を壁に叩きつけた。
「いたい」痛がるれおは、頭を抑えた。
「大体、なんであの男は文句ばっかり言うのよ。
小言は多いし、洗濯物のたたみ方も注文漬けてくるし」
不満を口にしながら、れおを大黒が平手打ちをしていた。
大黒のやっていることは、虐待だ。
れおは、怯えているけどもともと大人しい。
喋ることもままならない、とても幼い子供だ。
大きな声を出すことも無く、ただ呆然と見守っていた。
痛い頭を抱えつつ、なぜかあたしを見ていた。
「ほらほらあんたのせいで、どれぐらい迷惑していると思っているの?」
殴られているれおを、あたしは入口を塞いで眺めていた。
それでも、大黒は殴るのをやめない。
蹴り飛ばして、小さな足を掴んだ。
それと同時に、大黒があたしに声をかけてきた。
大ごろはれおの小さな足を掴んで、逆さ釣りにしていた。
「先輩、これは本当にすっきりしますね。『儀式』」
「うん」あたしは、冷めた目でじっと大黒を見ていた。
「本当に、先輩はやらないんですか?」
大黒は、見張りをするあたしに声をかけてきた。
逆さになったれおは、困惑しながらも大きな瞳であたしをやっぱり見ていた。
お昼寝時間は、人が少ない。
他の保母は、全員教室にいる。だからこれが気づかれることはない。
子供は一度眠ると、簡単に起きない。
だからこの時間の保母や職員は、この場所に現れることはない。
各クラス、二人で受け持っているので交代で休むことが多い。
あたしたちが虐待していても、見つかる心配がないのだ。
れおの目は、どことなく冷めていた。
儀式の始まりは、れおが偶然あたしの秘密を見たからだ。
あたしが席を外している隙に、れおが机に置いてあったスマホを見てしまった。
そこが、儀式の始まり。
あたしが倉庫に閉じ込めて、れおをいじめた。
次第に大黒にも協力を要求し、あたしは二人で彼をいじめることにした。
それが、あたしたちの言う『儀式』の始まり。
だから、あたしも逆さになったれおの前にしゃがんだ。
そして、思い切り右足で蹴り飛ばした。
叩きつけられたれおは、背中を激しく打ち付けた。
だけど、その顔は痛さに顔を歪めるだけ。
声を出さずに、その場に倒れていた。
「おお、先輩。怖っ!」
大黒は、茶化すようにあたしに言ってきていた――




