3話
Side:諌見
初めて会ったとき、俺はこいつを殺さなければいけないと思った。
理由はわからなかった。
きっと、初対面だから無意識に警戒しているんだろうと考え直した。
とても素直で、純粋で、優しい奴だ。
こうゆうのを、「良い人」と呼ぶのだと思った。
周りから信頼されていた。俺も結構信用してた。
だけど、ある時気が付いた。
あいつの気配は、どことなく異質だ。
背後から、暗くて、悲しくて、寂しいような、そんな気配が漂っている。
周りも、本人すらも気付いていないようだった。
おそらくあれは、あいつの前世の執念だ。
魂に染み付いてしまっているんだ。
放っておいたら、あいつがそのまま飲み込まれてしまう気がした。
だから、俺はあいつのそばに居ることにした。
それから、少しずつ前世の記憶が蘇っていった。
今とは全く違う世界で、全く違う境遇で生きていたこと。
前世では俺は勇者で、あいつは魔王だったこと。
勇者が魔王を恨んでいたこと。
勇者が魔王を殺したこと。
その後で、魔王の正体と、魔王になった理由を知ったこと。
とても、辛く悲しい理由だった気がする。
魔王も、初めは人間だったのだ。
だから、今世では人間のまま生きていてほしかった。
――――――
遠くから、人々の騒ぐ声が聞こえる。
世界を救いをもたらすと思われていた男が、世界に破滅をもたらす存在になったからだ。
否、俺の親友は、生まれたときから魔王だったのだ。
魂だけは、どうにもならなかったのだ。
「魔王だ!まさかあの者が魔王だったとは……!」
「俺たちを騙していたのか!?早く倒さなくては!」
散々持て囃しておいて、あいつが勇者じゃないとわかった途端手の平返しか。
酷い話もあったものだ。
「貴方が本物の勇者様だったのですね!」
「勇者様、我々をお助けください!」
此処にいる人間すべてを消し去りたくなるような衝動を抑えて、魔王へ視線を向ける。
俺が殺すのはあいつだけだ。
人として生きることを許されなかった、俺の親友ただ一人だ。