2話
「おい。」
突然、後ろから声を掛けられる。
振り返ると、僕の親友がいた。
頭に浮かんだのは。
「まさか……諌見くんが魔王なわけない、よね……?」
声が震える。
間違いであってほしかった。
あの時僕を殺そうとしたのが、目の前の彼だと認めたくなかった。
「……へぇ。俺が魔王、か。」
諌見くんが一瞬、驚いたような顔をした。
「だったら、お前はどうする?」
「……信じたくないけど。……もしそうなら、僕は君を殺さないといけない。」
嫌だけど。絶対に嫌だけど。
でも、世界のために。
一個人の感情なんて捨てなければいけない。
「合馬。」
諌見くんが、僕に剣を向ける。
「今ここで死ぬか、元の世界へ帰るか。選べ。」
「――っ!僕は、ここの人たちを見捨てる訳にはいかない……!」
「お前はこの世界に必要ない。」
「どうして、」
「お前が知る必要はない。」
きっと、諌見くんは本気だ。
このままだと、僕は殺されてしまうだろう。
こんな形で会いたくなかったな。
せめて、僕に彼を止めることができたなら。
……魔力は十分にあるんだ。
今だけ。今だけでいいから、諌見くんを止める力を。
そう思ったとき、僕の体から力が溢れ出した。
これが、僕の中に眠っていたもの?
想定より大きな力に驚くが、これなら諌見くんを止められる。
――そのはずだったのに。
僕の体から絶えず溢れる力は、見る見るうちに黒く染まっていく。
力を制御できない。魔力が強すぎるんだ。
この力は、僕なんかが使いこなせるほど、優しいものではなかったのだ。
そこで唐突に理解する。
真の勇者を。僕の正体を。
本当に止めなければいけなかったのは、誰なのかを。
僕の大切な親友は。
本物の勇者は、驚いたような、悲しそうな顔をしていた。
逃げてくれ。
こんなこと、僕が言えた立場じゃないけど。
やっぱり、大切な人が死ぬのは嫌だ。
だから、僕が壊してしまう前に、遠くへ逃げてほしい。
早く――