第一話 家族の夢①
長編ではなく、中編連載の予定です。
お時間があったら是非、お付き合い頂ければと思います。
よろしくお願いいたします。
これは、ここではない、どこか別の場所のお話。心に傷を抱えた少年と無垢なアンドロイドの少女の物語。
じりじりと、焼き付く日差しがアスファルトに熱を与え、その熱が陽炎を生み出している。外はさぞ熱いのだろう。
ガンガンにクーラーが効いた快適な部屋の中、汗だくになって歩いている人たちを外から眺め、久遠結良はベッドの上でアイスを頬張っていた。
彼くらいの年ならこの時間は学校で同じ年の学生たちと勉強に励んでいるのが普通であるが、彼は別だ。学校に通っていない。中学からずっと。外に出るのは必要最低限の時だけだ。
コンコン。ノックの音がして、結良は窓から視線を離し、ドアを開ける。
「何、泉さん?」
扉の前に立っていた長い黒髪を高く結い上げた女性、兼坂泉に結良はこてり、と首を傾げた。その手には掃除道具一式。嫌な予感しかしない。
「あんた暇でしょ?姉さんたちの研究室掃除してきて。」
「研究室って…。あそこ今いったら死ぬでしょ、熱気で。」
「だから空気入れて欲しいんじゃない。風通すだけで大分違うのよ~。クーラーの部屋から出ないあんたにはわかんないでしょうけど!」
「せめて夕方からとか…。」
「はい、文句は聞きませーん!」
手にしていたアイスを取り上げられ、代わりに掃除道具一式を手渡された。そして止めのにっこりスマイル。
「はい、いってらっしゃい。」
逆らったら命はない。そう悟って、結良は渋々、掃除一式を持って地下にある研究室へと向かった。
結良の両親は彼が小学校に上がった頃、交通事故で亡くなった。優秀な研究者だったらしい両親は地下に研究室を作り、そこで色々な研究や実験、開発を繰り返していたらしい。彼らが亡くなった後も研究室はそのまま残されている。時折、泉が研究室の掃除をしたり、換気扇をまわしたり、ドアを開けて空気の入れ替えをしている。
地下におり、ドアを開けた瞬間、むわ、とした熱気が溢れだす。中に入ることが躊躇われるくらいだ。とりあえず換気扇を回した方がよさそうだ、と数か所取り付けられている換気扇を回す。そのままドアの延長線上にある窓も開けに行く。これでしばらくすれば熱気が逃げて、中に入れるくらいにはなるだろう。
「ったく。いつもは自分で掃除するくせに。」
窓のそばに立ちながらため息をつく。
泉が研究室の掃除を頼んでくることは滅多にない。頼まれるとしても風を通す事くらいだ。基本的に自分の手が空いた時に泉自身が定期的に掃除をしている。
腑に落ちないものを感じながらも引き受けたのだから、と結良は窓際から離れ、掃除をしに未だ熱気の残る研究室へ足を踏み入れた。そしてすぐに、違和感に気づく。
「あんな所にあんな箱あったっけ?」
見覚えのない白い箱。大きさは結良の身長くらいはあるだろう。以前、ここを訪れたときにはなかった。
首を傾げつつ、好奇心には勝てずにそれに近づく。
それは、本当に真っ白な箱だった。汚れ一つ見つからない。表面には何かのスイッチらしくものがいくつかと、見覚えのある筆跡で文字が書かれていた。
『愛する息子。結良へ。』
父の字だった。つまりこれは、両親から結良への贈り物。両親が亡くなったのは今から10年近く前だ。何故、今になって。
「父さん、母さん…。」
結良の震える指が、父の綴った文字をそっとなぞる。すると、白い箱が一瞬光り、プシュー、という音と共に、音を立てて開いた。驚いて結良が後ろにさがると、箱の半分が割れるように大きく開き、中には、女の子が眠っていた。
「……は!?」
理解が追い付かない。先ほどまでの感傷的な気分など一気に吹き飛び、結羅は目は眠る少女に釘付けになる。じっと見つめていた少女の瞳がゆっくりと開かれる。少女は何度か瞬きを繰り返すと、黒曜石の様な瞳に結良を捉えると緩慢な動きで箱から出てくると驚きで固まっている結良の目の前でぺこり、とお辞儀をして、じっと結良を見る。
「初めまして、結良様。私は薺です。」
このまま気絶出来たらいいのに、と心から願った。




