みつけたひと
入国手続きを終えて手荷物を受け取り到着ロビーに出ると、思わぬ人が私を待っていた。
「竹倉、おかえり」
「せ、先生?!なぜここに」
出迎えの人たちのなかに、なぜか神谷先生がいた。それにしてもよく私を見つけられたな~。先生は私の荷物を持つとさっさと歩きだした。
「え、私の荷物?!」
「今日は車で来てるんだよ。家まで乗せていってやる」
「ちょっと待ってください~」
どんどん先に進んでしまう先生だったけど、どうやらわざとだったようで途中で立ち止まると私のほうを見て待っていてくれ、今度は2人並んで歩く。
「ところで先生、何しに空港に来たんですか」
「そ、それは・・・・あれだ、そう!今度の作品に空港を出そうと思ってさ。取材だ、取材」
「今度の書き下ろし作品ですか?確かシリーズキャラクターの大学教授は飛行機が苦手なはず・・・」
「空港は飛行機以外でも用事があるだろ、見送りとか」
「それもそうですね。でもよく私がこっち到着の国際線で帰るって分かりましたね」
「ロンドンを夜に出発して昼に日本に到着の直行便、竹倉なら遠い国際空港よりも便利な場所に到着する飛行機を選ぶだろうと思ってな。ま、俺が偶然、取材に来ててよかったな」
「そうですね、ありがとうございます・・・でも私の家までなんて申し訳ないですから」
そう言って荷物を引き取ろうとしたけれど、思わぬ力でさえぎられる。
「日頃の掃除と甘いもののお礼だ。いいな?」
掃除と甘いもののお礼って・・・だけど先生は一度言い出したら聞かないからなあ。ここは私が折れたほうがいいだろう。
「わかりました。申しわけありませんが、よろしくお願いします」
「うんうん、竹倉が素直で俺は嬉しい」
私が頭を下げると、先生はにかっと笑った。
「ところで先生。取材はもういいのですか」
「取材?あ、ああ取材な!う、うん、もう大丈夫だ」
焦った様子・・・・本当に大丈夫なんだろうか。まさか、私のことを迎えに来たのが本来の目的だとか・・・・いやいや先生にそこまでされる理由ないし。
「先生、改めて取材に来ますか?よろしければ同行します。その場合はこちらから空港に連絡しておきますが」
「い、いやっ、別に本格的に空港を舞台にするわけじゃないし。雰囲気だけでいいんだ」
先生が運転するのは濃紺のコンパクトカーで、以前に編集長が「つくづくギャップのあるやつだ」と笑っていた。そういえば先生の車って見たことはあっても乗るのは初めて。
「竹倉、メールありがとう。楽しく読んだよ」
「それならよかったです」
「なあ、ちょっと寄り道してもいいか?」
先生は私の返事を聞かずに、車を走らせ公園らしき場所にとめた。空港の近くにこんな公園があるなんて知らなかった。
「先生、もしかしてお疲れですか?」
「それは大丈夫だ。竹倉、ロンドンからのメールで次に恋をするときはちゃんと相手に向き合うって書いてただろ」
「はい。今さらですけど、メールに書いたとおりちゃんと話し合っていれば騒動は起きなかったと思います」
「まあ、話し合いは大事だよな。もっとも俺の場合は当時仕事が忙しくて、気がついたら元嫁が男といなくなっていて後から離婚届が送られてきたから話し合いもなにもなかったが」
「・・・それはまた大変だったんですね」
「なあ、俺は竹倉とならずっと向き合っていけそうなんだが、お前は俺と向き合えそうか?」
「はっ?!」
「お前が結婚すると聞いたときは、祝福しようと思っていたんだがな~。状況が変わったから・・・おまえ、なに固まってるんだよ。やっぱり8歳上のバツイチはだめか」
「い、いや、だめではないかと」
「そうか、だめじゃないのか。じゃあ考えておいてくれ。ただしあんまり待たされるのは俺も困るな。でも竹倉ならいいか」
「せ、先生?!」
「仕事を抜きにして俺とのことを考えてみないか?」
「は、はい・・・」
先生のことを考える・・・一人の男の人として。私の前に、次の恋のかけらが現れた瞬間だった。
読了ありがとうございました。
誤字脱字、言葉使いの間違いなどがありましたら、お知らせください。
ちょっと感想でも書いちゃおうかなと思ったら、ぜひ書いていただけるとうれしいです!!
「バカンスでザンス企画」に参加するにあたって話を考えているときに、
私の頭に浮かんだのがある映画でした。恋人の浮気が原因で別れたヒロインが一人旅をしたあとに、彼女の帰りを待っていた男性と新しい恋に踏み出すまでを描いた恋愛ロードムービーです。
しかも待っててくれる男性がヒロインの元恋人よりはるかに2枚目(笑)。
そこで私なりに、旅に出た主人公のことをモトカレより素敵な男の人が待っている話を書いてみたいと思ったのですが、まあ難しかったです。
なんとか書き上げることが出来てホッとしております。
神谷先生のことを少しは素敵な男性と思ってもらえると嬉しいです。