【On Burnt Spring ・16】
聖都イグニア:イベント
11/4診断結果『【防衛戦】[劣勢]長期戦・心理戦・交渉。』
※あまねさんのカースライド戦に続くストーリーです。
そこまで言い切った上で、ゲアマーテルは相方の様子を窺う。彼がドラゴンの言語を解しないのは幸いだ。今の言葉に嘘も迷いもないけれど、だからこそ、聞いたところで彼は喜ぶまい。だから話した内容は知らせないことに決めた。
今はともかく、野生ドラゴン達をなだめることができればそれで良い。
「それですべてよ。いずれにせよ、わたし達はあなた方の敵にはならないわ。だからここは引いてもらえないかしら」
答えはすぐには返らなかった。刹那の危機感を覚えたものの、ややあって、彼らは言った。
『我らには理解が及ばぬ』
『だが、お前の覚悟は』
『聞き届けた』
ばさりと大きく翼を動かし、ドラゴン達はゆっくり離れていく。
『白き人間は』
『同胞であるお前が認めたものとみなす』
『故に』
『我らは黒き人間を追おう』
「ゲアマーテル」
彼らが飛び去る様を見守っていると、もの問いたげに呼ばれた。ゲアマーテルは半ばほど首を巡らせエリアスを見る。
「なんとか説得することができたわ。ただ、彼らはこれから『黒い人間を追う』と」
「黒い……アグリアを?」
「そういうことになるわね」
本当はこれ以上深入りせぬ方が良い。ゲアマーテルはそう思う。追った先でまたあのドラゴン達と鉢合わせれば、今度こそ戦うことになるだろう。
そうなれば、ドラゴン達がもはやヒトという種族に信を置かなくなってしまう危険もある――が。
「行きます。連中よりも先に」
「はい!」
先に行き着いて処理してしまえば問題あるまい。彼らよりも自分の方がずっと速く飛べるのだから。
――どうも、己はいつの間にやら小狡いことを考えるようになっていたようだ。そのことに思い至ったゲアマーテルはそっと苦笑し、より大きく羽ばたいた。
* * *
「! アーシェ」
不意に頭上で声がした。全速の馬で駆けている最中に見上げる余裕などなく、なに、と怒鳴り返す。すると相方の白いドラゴンはわずかに声を上擦らせた。
「歌だ」
「は!?」
「ヤツが止まった! 今のうちだ、撒くぞ!!」
言われてみれば確かに、地響きが止んでいる。かろうじて後方を一瞥すると、あの巨大な水竜は、どこか遠くを見るように頭を仰向けていた。
一体どうしたというのか。歌とはなんなのか。一向にわからないが、おかげで少しは距離を稼げそうだ。
けれど――その後は?
知らず知らず体に力が入る。視野が狭くなっていく。考えまいとしても脳裏をよぎるのは最悪の結末だ。
自分達は本当に、誰かしらを生きて帰せるのだろうか。
そして――私は――?
「迷うなアーシェ!! 今は走れ!!」
鋭い叱咤にびくりと肩が震えた。あわてて手綱を取り直し、下に向きかけていた視線を前方へと戻す。
「弱気になるなんざガラじゃねぇだろ!」
「っ、当たり前でしょ!」
「――右手側へ!」
先頭を行くレダに倣い、アーシェラもとっさに馬首を返した。背の高い草が生い茂る木立に紛れて減速し、ようやく大きな息を吐く。手綱を握る手が今になって震え出した。レダともう一人の生き残りも、苦しげな表情で荒い息を整えている。
「それで。ドラゴンの様子はどうだ」
レダが視線を向けた先では、エルがちょうどドラゴンから人の姿に転化し降りてきたところだった。
「まだ歌を聴いてるみてぇだな。誰だか知らないが気を引いてくれて助かった」
「歌、か。私には聞こえんが」
「ドラゴンの旧い言葉は、同胞にはかなり遠くまで聞こえるんだ」
「なるほど興味深いが、悠長に検証してもいられんな。奴もいつまでああしておとなしくしているか」
「もちろん歌が終われば、またすぐ俺達を探しにくるだろうぜ」
つかの間の沈黙。レダはきつく眉根を寄せて何かしら思案しているようだった。
そして。
「ベリ中級騎士」
不意に名を呼ばれ、アーシェラはとっさに姿勢を正す。
「はいっ」
「お前の相方は速く飛べるか」
「はい!」
「ならば」
レダの視線がアーシェラを射抜いた。拒むことは許さぬとばかりに。
かくして下された命に、アーシェラは思わず目を見開いた。
* * *
【一部キャラクターをお借りしています】
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